153話:採取完了
吹っ飛ばされた俺は背中から着地する。
アダマスドラゴンといい、水虎といい、最近吹っ飛ばされてばっかりだなあ、なんて事を思いながら何事もなかったかのように立ち上がり、迫り来る水虎の方へと大盾を向けた。
「タスク! 無茶である!」
するとへススは『ハイヒール』を立ち上がった俺に掛けてくれながら、焦りの伝わってくる声を上げる。
ハハハ。
心配するな、へスス。
俺は負けんよ。
こういう体勢を低くしてる奴は大抵――。
俺は這い擦りながら突っ込んでくる水虎よりも体勢を低くして『スピードランページ』で一気に距離を詰める。
そして衝突する寸での所で『スピードランページ』をキャンセルし、すかさず『インパクト』を発動させた。
俺から放たれた衝撃波は水虎の頭を浮き上がらせ、同時に勢いが弱まった……そこへ『パワーバッシュ』を叩き込む。
脳が揺らされた水虎はその場に倒れ伏し沈黙した。
――浮き上がらせりゃ何とかなるってな。
てか、スタン出来たんだけどスタン値低いのかね?
そんな事を考えていると、水虎はムクリと起き上がり、俺を睨みつけながら左前脚の鉤爪を振り下ろしてくる。
おー、もうスタンあけるとか気合い入ってるね。
でも、止まって見えるぞ? 水虎さんよお!
俺は鉤爪にタイミングを合わせて『パワーバッシュ』を発動させると、今回はパリィに成功し、水虎は体勢を崩す。
丁度いい所に頭が落ちてきたので『パワーランページ』を発動させて、頭目掛けて突っ込むと鈍い音が鳴り響いた。
頭に衝突されてイラついたのか、水虎は「グギギギギッ」と歯を鳴らしながら、俺を睨みつけ威嚇してくる。
その時、夜雀を狩り終わったBパーティに加えてフェイとカトルが俺と水虎がいる方へと駆けて来るのが見えた。
「チェックメイトだ、水虎。お前、強かったよ」
言葉が分かるかどうかは謎だが、それだけ伝えて『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させ、敵意を固定する。
――数分後。
俺たち九人の猛攻を食らい水虎は絶命した。
「アハハッ! タスクさん、泥だらけじゃないッスか!」
「クスッ。タスク様ともあろう御方が情けないですわよ」
「水虎が見えなかったお前らに言われたかねえよ」
「……ぐぬぬ。言い返せないッス」
「……そうですわね」
「そんな事より虹サワン草だ。こんな見た目らしいから手分けして探してくれ。あと、何かあればすぐに助けを呼べよ」
そう言って全員に虹サワン草について書き綴られた古書の一ページに載っているイラストを見せる。
すると、探し始めて数分もしない内にポルが声を上げた。
「あーーッ!!」
虹サワン草を見つけたのかと思い、声のした方へと走っていくと、そこにはポルと向かい合う魔手田鼈の姿があった。
!? 生き残りか!? ヤバ……くはなさそうだな。
威嚇するように魔手田鼈は発達した前脚をドスドスと地面に打ち付けているだけで攻撃しようとはせず、ポルは突っ立ったまま魔法鞄を漁りだし、中から一本の瓶を取り出す。
俺は一応、インベントリから大盾を取り出しながらポルの隣まで行くと、そこには水虎にやられたであろう爪傷と噛傷でボロボロになった魔手田鼈が地面に横たわっていた。
「何やってんの?」
「あ、タスク兄……。デロちゃんが……」
先程のポルに対する威嚇も最後の抵抗だったのか、魔手田鼈は既に気を失っておりピクリとも動こうとはしない。
そこへ先程、魔法鞄から取り出した瓶……治癒ポーションの栓を抜くと、ポルは魔手田鼈の体に振り掛けた。
「……ダメだな。治癒速度が追いついてない」
「そうだ! へス兄なら――」
「へススは魔物を治癒する事はできない」
「なら、タスク兄が……」
「諦めろ」
「…………うん…………ぐすっ」
倒れ伏す魔手田鼈を見下ろしながら、ポルはポロッと大粒の涙を零し、顎までくると雫となり魔手田鼈の体に落ちる。
刹那、魔手田鼈の体が淡い光に包まれた。
その淡い光は魔手田鼈に付いた爪傷や噛傷を次々と塞いでいき、それどころか古傷らしき跡まで全回復させる。
その光景を見た俺は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
もちろん、ポルの涙が魔手田鼈を癒した訳ではない。
俺はこのスキルを知っている。
『グランドヒール』――最上位職ヒーラーのスキルだ。
だが、それは魔物に使えるスキルじゃないはず……。
一体、誰が? 何処から? 何のために?
思考が加速する中、俺は辺りを見渡す。
すると近くに生えていた巨木の上、生い茂る枝葉の中にスキルを発動させている時の淡い光がチラリと見えた。
「ミャオッ!!」
俺は巨木の上にいる何者かから視線を外さずに、近くに居るであろうミャオを呼ぶと、すぐにすっ飛んで来た。
「どうしたッス……ッ!? 魔手田鼈が何でここにッ!?」
「今はそんな事どうでもいい! 巨木の上、あそこに居る奴に用がある! とっ捕まえるぞ!」
「あー、ん? ンあッ!? どゆことッスか!?」
「いーから来い!」
そう言って何者かが居る巨木の方へと駆け出し、俺の後ろからミャオがワーワー言いながらついてくる。
少しすると、スキルを発動させている時の淡い光がフッと消え、枝葉の中を進むガサガサという音が聞こえてきた。
「ミャオ、追えるか?」
「多分、追えるッスけど……本当に追うんッスか?」
「ああ。頼む」
「わかったッス。ちょっと行ってくるッスから、泉にいて欲しいッスよ。もし先に帰ったら泣いちゃうッスからね!」
ミャオはそう言いながら素早く巨木の上に登っていき、ガサッと枝葉の中へと突っ込んでいくと見えなくなった。
俺は来た道を戻り、ポルと魔手田鼈の居る方へと行くと、そこにはポルと魔手田鼈の他にフェイとカトルがおり、気を失っている魔手田鼈を取り囲んで座っていた。
「「「タスクサン(兄)……」」」
「三人して、なに心配そうにしてんだよ。そいつはもう大丈夫だ。しばらく放っとけば、目を覚ますだろうよ」
「本当デスか!?」
「本当に!?」
「ほんとー?」
「ああ。どこの誰かは知らんが、通りすがりのヒーラーが、魔手田鼈を回復していってくれたみたいだしな」
そう言うと三人の暗い表情は吹き飛び、笑顔になる。
「お礼言わなきゃ!」
「そうだな!」
「タスクサン、その人はどこに居るんデスか?」
「今、ミャオに追ってもらってるから、少し待て」
「「「追う?」」」
うん、まあ、当然の反応だな。
しかし最上位職ヒーラーのスキルを使える上に、魔物まで回復する事の出来る奴が居るなら会っとくべきだろう。
どんな奴なんだろうかと想像を膨らませていると、少し離れた場所からヴィクトリアの声が聞こえてくる。
「タスク様ー? ありましたわよー!」
「お、見つけたみたいだな。ちょっと行ってくる」
「ワタシはここに居マスね。もし魔手田鼈が暴れだしたらポルとカトルが危ないデスから!」
「ん。フェイ、二人を頼んだぞ」
「ハイッ!」
俺はフェイ・カトル・ポルの三人をその場に残し、ヴィクトリアの声が聞こえた方へと走っていくと、ヴィクトリアの足元には花弁が虹のように七色に光る花が群生していた。
「おおー、実物はすげえ綺麗な花だな」
名前は虹サワン“草”なのに。
「そうですわね。お母様にもお見せしたかったですわ」
「ん? それなら、持って帰りゃいいだろ」
「……タスク様」
ヴィクトリアは俺の名前を呼びながら、キュッと両手で俺の手を握るとわざとらしく上目遣い攻撃をしてくる。
「私の魔法鞄では枯れてしまいますわ」
「お、そうだな?」
「私の魔法鞄では枯れてしまいますわ」
「ちゃんと聞こえてたぞ?」
「枯・れ・て! しまいますわ」
毎度の事ながらストレートにお願い出来ないのか。
まあ、いいけど。
「インベントリに入れとけばいいんだな?」
「感謝致しますわ」
そう言うヴィクトリアはいつものクスクスッという笑みではなく、ニコッと無邪気な子供のような笑顔を見せた。
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