152話:共生する魔物
――三日後。
俺たちは虹サワン草が生えているという泉に到着した。
二日で到着する予定だったのだが、再び熊の編人形の群れに追いかけ回されたり、キノコに寄生されたライオンの魔物の“茸獅子”の群れと戦っていたり、土の中を泳ぐモグラの魔物“遊泳土竜”に引き摺り込まれそうになったりと、様々な魔物に絡まれていたため丸一日も遅れてしまった。
更に到着したはいいが、新たな問題に直面している。
それは――。
「タスク兄、水が変な色してるよー?」
「元からこんなに汚いんッスか?」
「いや、本来は綺麗に透き通った色をしてる」
やはりというべきか、泉の様子がおかしいのだ。
三日前に魔手田鼈と陸で出会った時、何か原因があって逃げてきたんじゃないかと思ったのは当たりだったようだ。
何故かと言うと、死体こそ浮いていないものの目の前に広がる泉の色が様々な魔物の血で染まっているからである。
しかし、これで原因が原住民という線は消えたな。
レベルカンストの最上位職が何人集まれば、水中に棲む魔物を血だけ残して跡形も無く消し飛ばせるというのか。
あと残っている可能性があるとすれば――。
俺が思索に耽っている中、様子を見ようとしてミャオ・カトル・ポル・虎鐵の四人が泉に近付いた……その時。
泉中央部の水面が隆起し、高い波と水飛沫を舞い上げながら、“上半身が虎で下半身が魚”の魔物が飛び出してきた。
あー、やっぱりか。
この惨状を作り出せるのはお前しか居ないよな……水虎。
水虎とは、紛れもなく北の大陸の水中最強の魔物だ。
普段は住処である滝壺付近で相棒と一緒に長い間眠っているが、一度目を覚ましてしまえばその気性は凄まじいほど荒く、目に映るもの全てを喰らい尽くすという暴君だ。
あー、よく見りゃ相棒の夜雀もいるじゃねーか、クソ。
居なかったら良かったけど……そりゃ居るよね。
夜雀とは、体長が四メートルほどある水虎とは違い、十センチほどの小さなスズメのような姿をしている。
虎の威を借る雀? 否! 断じて否である!
どちらかと言えば水虎より夜雀の方が面倒くさい。
その理由は……。
「む? 消えおったぞ?」
「潜っちゃったのかなー?」
前方に水虎が居るにも拘わらず、ポルと虎鐵はそんな事を言いながらキョロキョロと辺りを見渡している。
二人には……いや、ミャオとヴィクトリアも気味が悪そうな表情を浮かべているあたり、見えていないのだろう。
そう、夜雀は水虎の巨体をも隠す幻術使いなのだ。
水中最強の魔物とそれを隠す幻術使いの共生。
こんな面倒くさいコンビと出会うとかツイてない。
「ポル! 虎鐵兄! 今すぐ下がって!!」
水虎の姿が見えているのか、カトルは焦ったような表情を浮かべながらポルと虎鐵に向け、大声で指示を飛ばす。
二人は水辺から離れ、俺たちがいる方へと走ってきた。
「どーしたの?」
「ポルと虎鐵兄はアレが見えてないの?」
「どれ?」
「む? 何も見えんが」
未だ水面から上半身だけを出し、こちらの出方を伺っている水虎を指さしながらカトルが尋ねるも、ポルと虎鐵は泉の方を一望した後、眉を顰めて首を傾げる。
そんな二人の様子を見たカトルは助けを求めるような顔で見てくるので、俺は夜雀を指さしながら口を開いた。
「カトル、あそこに飛んでる小さな鳥が見えるか?」
「うん」
「アイツは夜雀といって水虎を幻術で隠してるんだ。<MEN>が一定値以上ない限り、夜雀の幻術は看破できない」
「それじゃあ、どうしたら……?」
「一旦、出直すぞ。幸い、水虎も様子を伺ってくれてるみたいだから、襲ってくる前に全員森の中に入れ」
万が一、襲ってきた時のために俺とフェイが殿を務め、視線を離さないように後ずさりしながら森の中へと入る。
泉が見えなくなった所で一旦、作戦を立てることにした。
「リヴィとへススとフェイは見えてたよな?」
「……うん。」
「見えていたのである」
「見えてマシた!」
「了解。ミャオとヴィクトリアは見えなかったな?」
「索敵には引っかかってたんッスけど、見えなかったッス」
「ええ。見えていませんでしたわ」
で、カトルが見えてて、ポルと虎鐵が見えてなかったと。
アタッカー全滅はヤバくないか? マジで、どうしよ。
手がない訳では無いのだが、リヴィの労力が半端ない。
うーん…………四の五の言ってられんか。
「パーティを組み直す。全員ギルドカードを出してくれ」
俺はそう言って、バトラから預かっていた水晶板をインベントリから取り出し、全員のギルドカードを預かる。
水虎・夜雀戦用のパーティ編成はこうだ。
A、俺・フェイ・カトル・へスス
B、リヴィ・ミャオ・ヴィクトリア・虎鐵・ポル
Aパーティは言わずもがな壁+見えてる組で組んだだけ。
Bパーティはリヴィとカトルの『バフ』を用いて<MEN>を底上げして、幻術を看破するためのパーティとなっている。
「<MEN>を一切上げていないヴィクトリアとポルと虎鐵はリヴィのタロットリーディングで、<MEN>上昇を引くまで見えないと思うから……リヴィ、頑張れ」
「……うん。……頑張るね。」
「リヴィ様、申し訳ごさいません」
「ごめんね、リヴィ姉」
「かたじけない」
「……ううん。……大丈夫。」
「タロットリーディングは効果時間が十分くらいあったはずだから先に掛けといてもいいぞ。効果時間が切れ次第、戦線離脱して掛け直す感じで」
「……わかった。」
そう言うとリヴィは“フェアリーテイル”を開き、ヴィクトリア・ポル・虎鐵に『タロットリーディング』を掛ける。
流石に一発で出る事はなかったが数回の発動の末、リヴィの目の前でクルクルと回るカードがピタッと止まると、そこには『Ⅷ』という文字と絵柄が書かれていた。
Ⅷ…… “力”の大アルカナ。
<MEN>の上昇だ。
『タロットリーディング』に加えて、各種『バフ』を掛け終わったところでカトルが『指示』を出す。
「それじゃあ、みんな! 行くよ!」
カトルの合図と共に駆け出し、泉の畔を陣取る。
俺は視線をズラしながら水中から姿を表した水虎だけを標的に『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させた。
「フェイ!」
「ハイッ!」
俺が水虎を引っ張るように泉の周りを走り出した瞬間、フェイは水虎から視線を上手くズラしながら夜雀だけを標的に『ヘヴィハウル』を発動させ、俺とは逆側へと走り出す。
よし、まずは分断させる事はできた。
分断したところで夜雀の幻術が解ける事はないが……。
「フェイ、そこでいいよ! ミャオ姉、パワーショット! ヴィク姉、ホーリーアロウ! ポル、斬! デスビィ、飛針! 虎鐵兄、カットショット!」
敵意を引っ張られた夜雀はパタパタとフェイに向かって飛んでいくも、その先には既にBパーティの面々が待ち構えており、カトルが指示を出すのと同時に集中砲火を受ける。
「ピィイイイイ!」
ミャオの矢・ヴィクトリア光矢・災害蜂の針に羽を撃ち抜かれ、ポルの伸ばした糸・虎鐵の飛ばした斬撃に胴体を切られた夜雀は甲高い呻き声を上げた。
その間、俺は水虎の振り下ろしてきた鉤爪にタイミングを合わせて『パワーバッシュ』を発動させる。
しかしIDO時代からダンジョン専門だった俺は、フィールド魔物の中でも遭遇しづらい水虎とは戦った事が無かったため、タイミングがズレ、パリィに失敗して吹っ飛ばされた。
「主!?」
「大丈夫だ。問題ねえから、近付かなくていい」
俺は『ハイヒール』を発動させながら駆け寄ってくるへススを制止しながら、地面を物凄い勢いで這いずり突進してくる水虎に向けて『パワーランページ』で応戦する。
大盾と水虎の頭が衝突した瞬間、俺は空を見上げた。
いや、厳密に言えば吹っ飛ばされ、見上げさせられた。
ハハハ。
流石、北の大陸の水中最強魔物だけあって強いわ。
フィールド魔物にもこんな強い奴が居たのか……。
愉しいなあ。
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