143話:再会
虎鐵の取り出した木製のボートが地面に転がる。
池のある公園などでよく見かける手漕ぎの貸しボートにしか見えないそれは、ところどころ欠けていたり、穴が開いていたりと随分年季が入っていた。
「お前……コレで海を渡って来たの?」
「如何にも!」
自信に満ち溢れた様子でフンス! と鼻を鳴らしながら胸を張る虎徹を、カトルとグロースは寒気で血が凍ったのではないかと思えるほど真っ青な顔で見ていた。
「こんな物でよく渡れたな……」
「某を救ってくれた船をこんな物呼ばわりするな!」
「救ってくれた?」
「うむ。航海の最中、岩礁に船底をぶつけてしまってな。その時、某は海に放り出され、危うく溺れかけたのだが、この船が独りでに動き、某を陸まで引っ張ってくれたのだ」
ボートが独りでに動いた? 操舵魔道具も何も付いていないこのボートがか? なんか急にホラーチックになったな。
まだ魔物が引っ張てくれたって方が信じられ……る。
「それだッ! ナイス! 虎鐵!」
椅子を倒しながら勢い良く立ち上がった俺に、虎鐵・カトル・グロースの三人が何事か、といった表情を向ける。
「た、タスク兄? いきなりどうしたの?」
「魔物だ! 魔物!」
「魔物? 魔物がどうかしたの?」
「船が無いなら魔物に乗って行きゃいいんだよ」
ヴノに乗せて行って貰うという考えが浮かんで、何故、魔物に乗せて行って貰うという考えが浮かばなかったのか。
この世界には俺たちを背中に乗せて海を渡れる魔物など星の数ほど……は言い過ぎだが、居るではないか。
そうと決まれば、善は急げ……なんだが、俺たちを乗せて海を渡れても、そこそこの強さを持った魔物じゃない限り、北の大陸に近付いただけでお陀仏だ。
というのも北の大陸内部には、遠距離狙撃を得意とする魔物や、状態異常を遠くまで振り撒ける魔物などが居る。
海上でそいつらに狙われでもすれば、一溜まりもない。
こんなことになるのならこの世界のフィールド魔物のことをもっと調べておけばよかった、と後悔していると屋敷の中に入っていったフェイ・ポル・テアの三人が戻ってくる。
近付いて来た三人は心配そうな表情を浮かべながら、うんうんと頭を抱えていた俺の顔を覗き込んできた。
「タスク様?」
「どーしたの?」
「大丈夫デスか?」
俺は頭を上げて、三人に「大丈夫だ」と言おうとした――その時、フェイの顔を見て、ふと思い出す。
一匹……居るではないか、と。
『フォース・オブ・オーバーデス』の追加効果である『死の恐怖』を食らっても、毅然としてはねのけたアイツなら北の大陸から飛んでくる攻撃を何とか出来るかもしれない。
「ああ。大丈夫だ。ありがとな」
俺は三人の頭を一人ずつ撫でながらお礼を言うと、「どういたしまして!」と花が咲いたような笑顔で返してくる。
その様子を遠巻きに見ていたグロースは、何かを察したのか俺の方へと近付いてくると問いかけてきた。
「結局、どうすることにしたのだ?」
「魔物に乗って、北の大陸に向かいます」
「……そうか。全く、タスクには驚かされてばかりなのだ。どう転べば、船の話から魔物に乗っていくという発想に至れるのだ……」
呟くように言うグロースは、眉間を親指と人差し指で摘まみながら大きなため息を漏らす。
「で? その肝心の魔物はどうするのだ?」
「心当たりがあるので、明日にでも訪ねてみますよ」
――翌日。
朝早くに屋敷を出た俺は、ベルアナ魔帝都北部に位置している名も知らぬ活火山に一人、足を運んでいた。
ここは以前、グレミーの頭部を捜しに来た火山。
……そう、俺の心当たりとは、溶岩炎竜だ。
「おーーーい! いるかーーー?」
ボコボコとマグマが吹き出し、絶えず波打ち続けている溶岩湖に向け、俺は大声を出して溶岩炎竜を呼ぶ。
すると岩壁に開いた穴から『バサッ、バサッ』という大きな羽音を響かせながら三匹の火竜が飛び出してきた。
三匹の火竜は真っ赤な翼を大きく広げ、物凄いスピードで火口の中を飛び回ったかと思うと、俺の目の前に降り立つ。
見覚えの無い三匹の火竜が近付いて来たことに俺は一瞬、身構えるが――巣穴内での事を想起した。
「お前ら……もしかして、あの時のチビ火竜か?」
「「「グルゥ」」」
言葉が理解できているのか、三匹の火竜は肯定するかのように小さく鳴き、顔を近付けてくると頬擦りを始める。
デカくなりすぎでは? 数か月前は大型犬ほどの大きさしかなかったのに、今では俺の身長の二倍ほどあるんだけど。
竜の成長って早いんだなあ、と能天気な事を考えながら俺はインベントリ内から魔猪肉の塊を取り出し、三匹の火竜の口の中に放り込んでいく。
「そういや、父ちゃん? 母ちゃん? は、居ないのか?」
魔猪肉を美味そうに咀嚼している火竜の頭を撫でながらそう聞くと、火竜の一匹が「グルッ」と鳴き、空を見る。
俺は片手を目の上にかざして、火竜の視線の先を見上てみると、遥か上空に豆粒ほどの大きさの影が見えた。
どうやらその影はこちらへ向かってきているようで、次第に大きくなっていき、それにつれて『バサッ、バサッ』という大きな羽音も聞こえてくる。
少しすると俺と三匹の火竜の前に溶岩炎竜が下りてきた。
遠目からは見えなかったが、溶岩炎竜の口には狩ってきたばかりであろう三匹の翼竜が咥えられており、三匹の火竜の前まで行くと咥えていた翼竜共を離す。
すると、翼竜共にはまだ息があったのか逃げ出した。
マズい、と思った俺はインベントリから大盾を取り出し、『チャレンジハウル』を発動させようとした――その時、溶岩炎竜は「グルゥ」と鳴きながら、俺を制止する。
それと同時に、三匹の火竜は翼を大きく羽ばたかせながら飛び上がり、あっという間に三匹の翼竜を仕留めた。
なるほど。
狩りを教えるために生け捕りにしてたのか。
「すまん。余計なお世話だったな」
「グルルゥ」
知らず知らずとはいえ、手を出しそうになってしまったことを詫びると、溶岩炎竜は首を横に振りながら鳴く。
「それはそうと、元気だったか?」
「グルゥ」
「なら、良かった。あれから、どうだ? グレミーはちゃんと肉を持って来てくれてんのか?」
「グルゥ」
隣で美味しそうに翼竜に齧り付く三匹の火竜を眺めながら何でもないような話? を少しした後、本題に入る。
「それでなんだが、今日はお前にお願いがあって来たんだ」
俺がそう言うと、溶岩炎竜は「お願いって、何?」と言わんばかりに首を傾げながら「グルゥー」と長めに鳴く。
「俺たちを北の大陸まで乗せて行ってくれないか?」
魔物である溶岩炎竜とはいえ、北の大陸のことはさすがに知っていたのか「グルァッ!?」と驚いたように鳴く。
同時に首を横にブンブンと振っているのだが、それは俺を止めようとしているのか、それとも行くことを嫌がっているのか読み取れなかったので、言葉を続けることにした。
「危険な渡航になる。だから無理にとは言わないが、俺たちに力を貸してくれ。もし力を貸してくれるというなら、俺はお前を必ず守りきってみせる」
鳴かず、黙ったままの溶岩炎竜は、しばらく俺を見つめた後、三匹の火竜の方へ歩いて行き、会話? を始めた。
俺に竜の言葉はわからない。
しかし、なんとなく会話? の内容はわかる。
行ってきてもいいか? と、聞いてくれているのだろう。
少しの間、溶岩湖を眺めながら会話? が終わるのを待っていると、背後から溶岩炎竜が鼻先でつついてくる。
「話は終わったか?」
「グルゥ」
「そうか。それで、俺たちを連れて行ってくれるか?」
溶岩炎竜は――静かに、頷いてくれた。
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