136話:結合粘体
~Side:フェイ~
私たちは今『簇る粘体』の前に来ている。
既に難易度三等級ダンジョンの『ましらの穴倉』・『峡谷の腥風』・『地に潜む影』・『半明と半暗』、そして難易度六等級ダンジョンの『堅牢の防塞』を終わらせ、残すダンジョンは五つとなっていた。
「フェイ、大丈夫か?」
『簇る粘体』に入ろうとした時、カトルが心配そうに問いかけてくる。
大丈夫……か。
やっぱりカトルは優しいな。
ダンジョン名に“粘体”と付いているという事は、つまりそういうことだ。
しかしカトルの心配をよそに、私は気丈に振る舞う。
「ハイッ! 大丈夫デスよ!」
ここはダンジョン。
棲まう魔物は全て偽物なんだ。
タンクの私がしっかりしないとみんなが死ぬ。
「そうか。でも無理はするなよ?」
「ありがとうございマス」
「それじゃ、行こっか」
「ハイッ!」
私が先頭に立ち『簇る粘体』へと侵入する。
中に入ると、天井は意外と高く綺麗な石が地面に向け垂れていた。
壁は若干湿っており、水滴が外からの光をキラキラと反射している。
「おおー! きれーだね!」
「デスね」
地面に流れる踝ほどまでの水をピチャピチャと水を撥ねながら奥へと進んでいると、岩陰から何かを引き摺るような音が聞こえた。
私は左手に付けたバックラーを構え、音のした岩陰の方をジッと見つめる。
すると水の流れる地面を這うようにして楕円形の物体が現れた。
……『粘体』。
初めて見たけど本当に丸いんだな。
タスクさんから聞いた通りの見た目だ。
てっきり私やカトルは人型だと思っていた。
だけどタスクさん曰く、粘体は本来あの姿の方が多いんだと言っていた。
まあ、どんな形でも敵は敵だ。
私は粘体に向け、新しく習得した<重騎士>のスキルを使う。
<重騎士>スキル『ヘヴィハウル』:視界内の敵ヘイト値が中上昇。
同時に『オートカウンター』も重ねて発動させた。
それを皮切りに虎鐵さんは鞘から大太刀を抜き放ち、ポルは『眷属召喚』でデスビィくんを呼ぶ。
「行くぞッ!」
カトルの掛け声に併せて私たちは駆けだす。
粘体はポヨンと体を横方向に伸縮させると敵意を持つ私に向かって、凄い勢いで体当たりをしてきた。
「フェイ、シールドバッシュ!」
「ハイッ!」
私は衝突のタイミングに合わせて『シールドバッシュ』を発動させてパリィした。
それを確認したカトルは指示を飛ばす。
「ポル、斬! デスビィ、飛針! 虎鐵兄、穿ノ型!」
「ほい!」
「あい、わかった」
三人の攻撃が直撃し、粘体は水の魔石と素材を残して霧散した。
「む? もう終いか?」
「よわっちかったー」
「た、たまたま弱ってたやつなんじゃない?」
「そうかもデス」
「とりあえず進んでみよう」
カトルの提案に従い、私たちは奥へと進んでいく。
その後も何度か粘体と遭遇し、戦闘するも先程と同様すぐに倒せてしまった。
「……ヘス兄、本当にここであってるよね?」
「合っているのである」
「だよね……」
私も眉を顰めているカトルと同じ考えだった。
あきらかに弱すぎる。
まだ難易度三等級ダンジョンの魔物の方が厄介だった。
最初はギルド職員さんが魔素量を測り間違えたのかとも思ったけど、絶対に違うと言い切れる。
何故なら『簇る粘体』を難易度五等級と紙に記したのはあのタスクさんだ。
それにヘススさんは何か知ってるような口ぶりだし。
先頭を歩く私は警戒を強めるが――十数分後、あっさりとボス部屋の扉の前に着いてしまった。
「ついちゃった」
「だな」
「デスね」
「少し休憩をとってから行くのである」
数分の休憩の後、カトルは立ち上がり扉に手を掛けた。
ズズズと地面の水を切り、扉が開く。
扉の先は水色一色の地面。
一瞬、水かとも思えたそれは――全て粘体だった。
すると百や二百じゃ済まない数の粘体は一斉にポヨポヨと動きだし部屋の中央に簇り始める。
そして無数に居た粘体一つに固まり、半透明の水色をした楕円形の巨大な粘体へと姿を変えた。
『簇る粘体』のボス『結合粘体』だ。
「おおお! 合体した! かっこいー!」
「ポル、気を抜くなよ! ボス戦だ!」
「ほーい」
「行くぞッ! フェイ、ヘヴィハウルだ!」
「ハイッ!」
私は指示通り結合粘体に向け『ヘヴィハウル』を発動させた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
その頃、俺たちは難易度六等級ダンジョン『呪者の墓場』のボス『禁忌の魔女メリーン』を倒し終え、一休憩していた。
「タスクさん、なんか上機嫌ッスね。良い事でもあったんッスか?」
「いや、今頃フェイたちが結合粘体と戦ってんだろうなと思ってな」
「それが何か関係あるッスか?」
「まあな」
結合粘体戦は北の大陸に渡るにあたって得る物が多い。
なので今回、フェイたちには『簇る粘体』の情報をあまり渡していない。
まあ、ヘススには渡しているんだが。
さて、あいつらは俺の世界の武器に初見でどれだけ対応できるかな?
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
『パァン』と乾いた音と共に小さな粘体が、結合粘体の体から突き出た筒のような物から射出される。
「フェ――」
カトルが声を出そうとした時には既に私の体に攻撃が当たっている。
ヘススさんが『ハイヒール』を掛けてくれているので無事ではあるのだが、全然反応が出来ない。
加えて、瞬閃犰狳とは違い同じところに飛んでこない上に次の攻撃までの間隔が短すぎる。
どうしようかと考えていると、再度『パァン』と音が聞こえ右足に鋭い痛みが走る。
ダメだ! 考えてる暇なんかない! あそこから出て来てるなら、あそこの前に立たないように動く!
私は突き出た筒の正面に立たないように結合粘体の周りを回るように走る。
その時、私の視界に攻撃しているポルがスッと現れた。
あ、そうか。
この動き方じゃアタッカーの方まで来ちゃう。
逆側に戻らないと。
そう思いポルの居る方向とは逆に視線を向けると、カトルとヘススさんが立っているのが見えた。
ああ、私が動いたから一緒について来ちゃったのか。
ポルも私が近付いてきた事に気付いて、背後の方へと走っていってる。
うー、結合粘体の周りを回るのはやっちゃダメだな。
ポルや虎鐵さんが攻撃に集中できないし、カトルやヘススさんが移動しなくちゃいけなくなる。
となると……どこに行けば……。
私が悩んでいると、カトルが結合粘体から突き出た筒の方を指さして叫んだ。
「フェイ、前に出ろ! 筒の真下だ!」
確かにそこなら当たらないと思った私は『スピードランページ』で一気に結合粘体との距離を詰める。
しかし、読んでいましたと言わんばかりに結合粘体は二本目の筒をニュッと私の真正面から生やした。
刹那、『パァン』と音が響く。
マズい。
この速度であの攻撃を食らったら、貫通しちゃうかも。
だけどキャンセルしても、もう遅い。
私は痛みに耐えようと唇を噛みしめる。
だが結合粘体から射出された小さな粘体は運よくバックラーに当たりキンッと弾かれた。
「フェイ、そのまま正面の筒をバックラーで塞げ!」
「了解、デスッ!」
至近距離まで近付いた私はバックラーを押し当てて筒の穴を塞ぐ。
結合粘体は発射口を塞がれて怒ったのか、塞いだ筒の左右から新たに二本の筒を生やした。
私は咄嗟に塞いでいた穴からバックラーを離し、防御できるように身構える。
と、その時――結合粘体から突き出ていた筒が三本ともスパッと斬れた。
「お。案外、斬れるものだな」
「虎鐵サンッ!?」
「虎鐵兄ッ!! ナイスッ!!」
「うむ! また筒が生えてきたら某に任せておけ」
あの筒が無いならただの大きな魔物と変わらない。
それなら……。
「任せマシた!」
私は後ろに下がりながら『ヘヴィハウル』を放つ。
その後、筒が生えてくればそれを虎鐵さんが全て斬り落とし、それ以外の攻撃は全て私が防いだ。
その間もポルやデスビィくんが攻撃を続ける。
――数十分後。
結合粘体は水の大魔石と素材に姿を変えた。
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