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１３３話：テンコレ

　～Side:ゼム～

　アダマスドラゴン戦から三日後。

　ワシはアダマント鉱石を用いて全員の武器を作っていた。

　青く光輝くアダマント鉱石を叩くたびにキンッという心地の良い音が鳴り、気持ちの良い感触が手に伝わってくる。

　こうして鉱石を叩いていると愉しい。

　心から思う……鍛冶こそワシの天職だと。

　ワシは槌を置きタオルで汗を拭うと、鍛冶場のテーブルに置いていた一枚の紙(・)に目を通す。

「……こりゃどう考えても無理じゃろ」

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　――時は遡り、三日前。

　アダマスドラゴン戦後すぐ。

「テンコレを行う！」

　タスクの言葉を聞いた全員が首を傾げる。

　ワシも首を傾げた内の一人だ。

　一瞬の静寂の後、恐らく全員が思っていたであろう疑問をミャオがタスクに投げ掛ける。

「テンコレ？　って、何ッスか？」

「テンコレってのはテンプレートコレクションの略称だ」

「鋳型を集めるって事か？　何のためじゃ？」

「ここでいうテンプレートは鋳型とかそういう意味じゃなく、定型とか定跡とかそういった意味を持ってる」

　そう言いながらタスクはインベントリから数枚の紙束を取り出したかと思うと、一人一枚ずつ手渡していく。

　ワシはそれを受け取り、書かれている内容に目を通した。

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　●ミャオ

　・<破落戸(ローグ)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『ならず者の宿屋』

　●リヴィ

　・<大魔導士>の昇格スクロール

　→持ってる

　・<黒魔導士(ダークマージ)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『呪者の墓場』

　・<占い師(ディヴァイナー)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『運命の抜け道』

　・<炎属性魔法>の能力スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『蠢く岩漿』

　・<源属性魔法>の能力スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『渦巻く洞』

　・<空属性魔法>の能力スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『怪鳥の縄張』

　・<岩属性魔法>の能力スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『不動山』

　●ヘスス

　・<神官(プリースト)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『降魔の聖堂』

　・<白魔導士(ホワイトマージ)>の昇格スクロール

　→持ってる

　・<邪属性魔法>の能力スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『人食い鬼の巣』

　●ヴィクトリア

　・<軽戦士(ライト・ウォーリア)>の昇格スクロール

　→特殊ダンジョン『闘技場』

　・<重戦士(ヘヴィ・ウォーリア)>の昇格スクロール

　→特殊ダンジョン『闘技場』

　・<聖属性魔法>の能力スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『快方する神殿』

　●フェイ

　・<重騎士>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『堅牢の防塞』

　・<火属性魔法>の能力スクロール

　→難易度三等級ダンジョン『ましらの穴倉』

　・<水属性魔法>の能力スクロール

　→難易度三等級ダンジョン『ましらの穴倉』

　・<風属性魔法>の能力スクロール

　→難易度三等級ダンジョン『峡谷の腥風』

　・<土属性魔法>の能力スクロール

　→難易度三等級ダンジョン『地に潜む影』

　・<光属性魔法>の能力スクロール

　→難易度三等級ダンジョン『半明と半暗』

　・<闇属性魔法>の能力スクロール

　→難易度三等級ダンジョン『半明と半暗』

　●カトル

　・<拳闘士>の昇格スクロール

　→持ってる

　・<軽戦士>の昇格スクロール

　→特殊ダンジョン『闘技場』

　・<重戦士>の昇格スクロール

　→特殊ダンジョン『闘技場』

　●ポル

　・<魔物遣い(モンスターテイマー)>の昇格スクロール

　→難易度五等級ダンジョン『簇る粘体』

　・<獣遣い(ビーストテイマー)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『逸れ孤虎』

　・<鳥遣い(バードテイマー)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『穿つ嘴』

　●虎鐵

　・<軽剣士(ライト・ソルジャー)>の昇格スクロール

　→持ってる

　・<重剣士(ヘヴィ・ソルジャー)>の昇格スクロール

　→難易度六等級ダンジョン『飢える剛者』

――――――――――――――――――――――――

　紙に書かれた内容を見た瞬間、ワシは理解した。

　先程、タスクの言った“段階を踏む”という言葉、そして“テンコレを行う”と言った意味を。

　ワシと同じく理解したのであろうリヴィ・ヘスス・フェイ・カトル・ロマーナの五人は顔を真っ青にし、ヴィクトリアだけは何故かクスクスと笑い、頬緩ませる。

　その隣ではいまいち意味がわかっていないのであろうミャオ・ポル・ぺオニア・虎鐵の四人が首を傾げていた。

「……タスクさん。……冗談、ですよね？」

　紙を持つ手と声を震わせながら、リヴィは問いかける。

　しかし、悪戯とも思える一瞬の間を置き、無情にもタスクは片方の口角をニィと吊り上げながら、その質問に答えた。

「ほんと」

　リヴィは手に持っていた紙をハラリと落とし、項垂れる。

　その様子を見て、理解したのかミャオが声を荒げた。

「まさか……コレを全部集めるって事ッスか！？」

「そうだぞ？」

　タスクとミャオの会話で理解したのか首を傾げていたポルはポカンと口を開け、ぺオニアは顔を青くする。

　しかし、ヴィクトリア同様、虎鐵はニヤリと笑った。

「大丈夫。殆どが難易度五等級と難易度六等級のダンジョンだ。『孤高の鉱山竜』に比べたらヌルい」

「いや、強さの問題じゃないッス！　時間の問題ッスよ！　全部集めるのにどれだけ時間が掛かるッスか！？」

「ミャオの言う通りだ。わたしたちがフェイの昇格スクロールを入手するのにどれだけ掛かったか知ってるだろう」

「落ち着け。そこも大丈夫だ。中には確定ドロップする物もある。早けりゃ、一か月もあれば終わる」

　何、言っとんじゃ？　こやつは。

　普通に無理じゃろ。

　タスクの言う一か月の中には、睡眠やら食事やらの時間が入ってないんじゃなかろうか？

「無理ッスよ！」　

「んんー？　さっき自分で言わなかった？　もっとペース上げてもいーくらいッス！　って」

　ぐぬぬ、と悔しそうな表情をしてミャオは押し黙る。

「タスク様。一つお聞きしたい事がありますわ」

「ん？　何だ？」

「特殊ダンジョン『闘技場』とは何ですの？」

「あー、それは難易度が自分で選べる少し変わったダンジョンだ。因みに<軽戦士>は難易度五等級のボスから、<重戦士>は難易度六等級のボスからそれぞれドロップする」

「なるほど。理解しましたわ」

「他に質問はある奴は居るか？」

　タスクが全員の顔を一人一人見回していく。

　するとロマーナが手を挙げた。

「持ってる、と書いてあるのはタスクが既に持っているという解釈で構わないのか？」

「ああ」

「そうか。では、もう一つだけ。何故、持っていないスクロールと持っているスクロールがある？」

「んー……説明しずらいんだが、持っているスクロールは俺がやってみたかった職業だったからだな」

「やってみたかった？」

「今は出来ないが別の職業をやる方法があったんだよ」

　タスクの言葉にロマーナは訝しげな表情を浮かべる。

　ロマーナの考えている事はわかる。

　裏を返せば昔は出来たという事じゃ。

　……前から思っとったが本当に不思議な奴じゃな。

「他に質問は無いか？」

　タスクは再度、全員の顔を見回す。

　そして手が上がらなかったのを確認した後、一度頷いたタスクは言葉を続けた。

「無いな？　じゃあ、明後日から二つのパーティに別れてダンジョンに潜る予定だからよろしく。各ダンジョンの細かい説明とか注意事項は屋敷に戻ったら紙に書いて渡すから」

　それだけ言うと、タスクはインベントリから人数分の転移スクロールを取り出し、全員に手渡した。

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　――そして、時は戻り現在。

　昨日、タスク・ミャオ・リヴィ・ヴィクトリア・ロマーナの五人とフェイ・ポル・虎鐵・カトル・ヘススの五人のパーティに別れて、それぞれ別のダンジョンに転移して行った。

　フェイたちのパーティにはヒーラーが居ないのでヘススが入り、代わりにタスクのパーティにはロマーナが入る事でヒーラーの穴を埋めたみたいだ。

「…………ワシも頑張らんとな」

　ワシは紙をテーブルに置き、槌を持つ。

　そして椅子に座ってアダマント鉱石を叩いた。

　今頃、どこかのダンジョンを周回している『侵犯の塔』のメンバーを思いながら。

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