127話:孤高の鉱山竜
虎鐵を屋敷の外へ叩き出し全員を庭に集めた。
というのもぺオニアが屋敷に入れない以上、全員で集まれる場所といえば庭以外には無い。
なので、使われていなかった大きなテーブルとペオニアの分を除いた人数分の椅子を倉庫から持ち出し、それを庭先に設置することにした。
俺はアンとキラが用意してくれた晩御飯の並ぶテーブルに両肘を付き顔の前で両手の指を絡ませる。
そして、スゥと短く息を吸い込んだ後に話し始めた。
「という訳で、ダンジョンに行こうと思う」
「いや、どういう訳ッスか。っていうか、アタシはまだタスクさんのこと許してないッスからね」
「ん? 俺が何かしたか?」
ミャオは顔を真っ赤にして弓を引絞ると鏃をこちらに向ける。
外だからかそれを誰も止めようとはせず矢が放たれた。
「うおッ! 危ねッ!」
「いや、避けれてないッスよ。刺さってるッス」
俺が視線を落とすと横腹辺りに矢が刺さっていた。
だが、今はそんなことはどうでも良い。
今はダンジョンだ、ダンジョン。
俺は刺さった矢をスポッと抜きながら話を続ける。
「という訳で、ダンジョンに行こうと思う」
「…………何処に行くッスか?」
「『孤高の鉱山竜』だ」
ダンジョン名を聞いてもピンと来ないのか、皆一様に首を傾げた。
「まあ、知らないのも無理はない。なにせ『孤高の鉱山竜』は離島にあるからな」
「……離島?」
「ああ。ここだ」
俺は世界地図をテーブルに広げるとユミルド連合国の左側の海に浮かぶ大きめの離島を指さした。
すると、ユミルド連合国出身のゼムとぺオニアの二人には心当たりがあったのか顔を真っ青にして震えだす。
「なあ、タスク。まさかとは思うが……」
「ああ。ゼムが考えてる通りだと思うぞ」
「無理じゃ! あんな化け物にどうやって勝つんじゃ!」
「気合」
「無茶すぎます! やめましょう! ねっ?」
「却下」
「「…………」」
二人の言いたい事はわかっている。
恐らくこう言いたいのだろう。
――“小さな山ほどある巨竜に勝てる訳がない”と。
そう、『孤高の鉱山竜』というダンジョンは巨大な竜“そのもの”なのだ。
体の中がダンジョンになっている? 否。
背中の上がダンジョンになっている? 否。
その巨大な竜の半径数キロ圏内がダンジョン判定――そして、その巨大な竜こそが『孤高の鉱山竜』のボス『鉱山竜アダマスドラゴン』だ。
「因みにだが、今回の『孤高の鉱山竜』は難易度七等級のダンジョンだ。そして、何より俺たち『侵犯の塔』でやる初の“レイド戦”でもある」
「レイド戦とは何だ?」
「ん? あー、そうか。前に説明した時はまだロマーナとぺオニアは加入してなかったから知らないのか。レイド戦ってのは――」
「某も加入してなかったぞ」
改めてレイド戦について説明しようとした時、テーブルの陰から虎鐵がヌゥッと顔を出した。
タイミングを図ったかのように現れた虎鐵をスルーして、俺はそのままレイド戦について説明する。
「端的に説明するとレイド戦ってのは、同じクラン内のメンバーで組んだ複数のパーティでダンジョンのボスをタコ殴りにする事だ」
「なるほど、わかりやすくて良いな。では、ここに居る全員で行くのか?」
「いや、怖いと思う奴は屋敷に残っても良い。ゼムの言う通り今回の相手は正真正銘の化け物だからな」
とは言っても、出来る事なら全員に参加してほしい。
理由は至ってシンプル。
アダマスドラゴンは馬鹿みたいに硬いからだ。
俺たちのパーティだけで削り切るには時間がかかりすぎて正直、面倒くさい。
だからと言って行かない訳にもいかない。
何故かと言われれば、アダマスドラゴンがドロップするアイテムが欲しいだからだ。
そのアイテムは北の大陸やその先の次元の間、天界、地界、そしてゆくゆくは難易度十等級ダンジョンに挑むにあたって必ず必要な物となる。
「どうしても行くのか?」
「ああ」
「何故じゃ? 何故、あれを倒す必要があるんじゃ?」
「アイテムのためだ」
ゼムは一瞬ポカンとした後、呆れた表情へと変わり大きなため息を吐く。
「……もうワシは何も言わんわい」
「残るか?」
「行った方が良いんじゃろ?」
「よくわかったな」
「お前さんの顔を見りゃわかるわい」
そう言ってニカッと笑うゼム。
すると、それを皮切りに他のメンバーたちも「行く」と言ってくれ、結局『孤高の鉱山竜』には使用人を除く『侵犯の塔』のメンバーの全員で挑む事となった。
――翌日。
朝食を摂り終えた俺たちは庭に集まっていた。
朝の早い時間にも拘わらず眠そうにしている者は誰一人としていない。
それどころか、笑顔がチラホラと見えている。
慣れたもんだなあ、と思いつつ俺は全員に向けて言葉を放つ。
「お前ら、準備は良いか? アダマスドラゴンの進行方向にもよるが、最悪の場合、転移した瞬間、戦闘になる。その場合はまず走れ。全力で攻撃範囲外まで走れ。攻撃モーション、攻撃範囲、注意すべき攻撃は昨日伝えた通りだ。あとは各々うまくやれ。死ぬことだけは許さん」
全員が頷くのを確認をした後、俺はぺオニアに視線を移す。
すると、ぺオニアはニコニコしながら手のひらを前に出した。
その手には三十巻ほどの転移スクロールが載せられている。
……マジかよ。
カトルたちが素材を持って帰って来てから半日くらいしか経ってないんだが? 徹夜じゃねえだろうな? 今からダンジョンだぞ?
俺が一瞥すると、ぺオニアは「えへへ」と笑う。
「頑張っちゃいました!」
「……ありがとな」
「いいえ! 早速、お役に立てて嬉しいです!」
俺がぺオニアの手から一巻の転移スクロールを受け取ると、一人、また一人、とお礼を言いながら転移スクロールを受け取っていく。
その間のぺオニアは終始、嬉しそうに微笑んでいた。
「それじゃあ、行くかあ」
俺たちは転移スクロールを開き、文言を唱えた。
『転移、孤高の鉱山竜』
視界が見渡す限りの砂漠に切り替わる。
と、同時に俺は目一杯声を張り上げた。
「退避!!!!!」
メンバー全員が走り出す中、俺は大盾を真後ろに構えながら『ナイトハウル』を発動させる。
刹那、尋常ではないほどの衝撃が大盾を貫通して俺の腕に伝わってきた。
足元が細砂という事もあり踏ん張りがきかず、十メートルほど吹っ飛ばされる。
最悪中の最悪だ。
転移したのがアダマスドラゴンの真ん前、それも俺らは背を向けた状態ってアホか。
大盾出しといてよかったわ……って、んん?
俺はすぐさま立ち上がり大盾を構えようとするも、左腕が言う事を聞かない。
チラリと視線を向けると、肘から数センチ骨が飛び出していた。
やっちまった。
完ッ全に判断ミスった。
今食らったの首の横薙ぎ攻撃かよ。
瞬時に判断できるわけねえだろクソ。
俺は心の中で悪態をつきながらも視線を上げる。
そして目の前に居るアダマスドラゴンを睨みつけた。
アダマスドラゴンは頭だけでも一軒家ほど大きさがある。
全体比で言えば、頭1:首3:胴:3:尾3、と言ったところか。
そして体には美しい青色の鱗が所せましと生えており朝日でキラキラと輝いている。
この鱗が馬鹿みたいに硬い。
アダマスドラゴンは大きな四本の足で地を這うようにして俺に近付いてくると、長い首をグググと起こす。
そして黒い魔素を撒き散らしながら――。
『グオオオオオオオオオオ!』
空に向け轟音ともよべる咆哮を上げた。
俺は瞬時にインベントリから治癒ポーションを取り出し中身を一気に呷る。
同時にヘススの『ハイヒール』も掛かり、あっという間に俺の腕を完治させた。
「うっし! 来いオラァ!!」
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