124話:東国の侍(上)
ポルの澄み渡った声がダイニングに響く。
すると虎鐵の口や鼻から一匹、また一匹と細長い糸のような魔物、寄生蠕虫がウネウネと蠢きながら出てきた。
その間、虎鐵は気絶してしまったのか白目を剥きながら体をピクピクと痙攣させている。
オエ……見てるこっちまで気持ち悪くなってくるな。
ん、待てよ? これ他人事じゃなくね? 俺がもし寄生される=こうなるわけだろ? ……今度から野営する時はマジで気を付けよ。
俺は心に固く誓い、出てきた寄生蠕虫を片付けようと椅子から立ち上がる。
「虎鐵はポルに任せて、残りは寄生蠕虫を捕獲するぞー」
「え? 嫌ッスよ?」
「……嫌だ。」
「絶対嫌ですっ!」
「何でだよ。お前ら虫は大丈夫だっただろ」
「「「もし寄生されたらどうするッスか(の、んですかっ)!?」」」
鬼気迫る表情で拒絶するミャオ・リヴィ・アンの声が綺麗にシンクロする。
「そんなの決まってるだろ? こうなるだけだよ」
俺は未だに白目を剥いて痙攣している虎鐵を指さした。
すると三人は黙り込み、顔を真っ赤にしながら俺を睨みつける。
そんなに嫌ならば仕方がないと思い、俺・ヴィクトリア・ヘスス・ゼム・バトラ・キラ・カトル・フェイの八人掛かりで虎鐵から出てきた寄生蠕虫を拾い集めた。
――数分後。
全ての寄生蠕虫をポーションの空瓶の中に集め終わり、椅子に座って一段落ついていると虎鐵は立ち上がり俺の元へと近付いて来た。
「どうした?」
そう聞くも虎鐵は喋ろうとはせず、身振り手振りをするだけで何かを伝えようとしてくる。
ああ、忘れてた。
治療してねえじゃん。
そら、喋れんわな。
俺はインベントリから治癒ポーションを取り出し虎鐵に手渡す。
「ヘススはハイヒールを、ヴィクトリアはリングリースを掛けてやってくれ」
「承知した」
「畏まりましたわ」
俺の指示通りヘススとヴィクトリアは虎鐵にスキルを発動させた。
虎鐵は俺から受け取った治癒ポーションの栓を抜くと中身を一気に呷る。
治癒ポーション飲み終わった虎鐵はゆっくりと口を開き、確認するかのように言葉を発した。
「あー、あー」
「どうだ?」
「まだ違和感はあるが喋れる」
「そうか。そりゃ良かった」
虎鐵は真っ直ぐ俺の顔を見た後、壁に立てかけていた大太刀の方へと向かった。
そして大太刀を片手に持ったまま俺の目の前まで戻ってくると、突然ダイニングの床で正座をし始める。
その突飛な行動に俺だけではなくその場に居た全員が言葉を失っている中、虎鐵は地面につきそうなほど頭を下げた。
「感謝致す! 改めて、某は虎鐵と申す! 己が修行の為、我が身一つで東国を飛び出し流浪していた根無し者だ」
「東国?」
「如何にも」
俺の疑問に虎鐵が顔を上げて答える。
全員の顔を見回すが、皆一様に首を横に振るばかりで誰も東国の事は知らないようだった。
「何処にある国だ?」
「む? この島がそうだ」
世界地図を地面に広げると、虎鐵はシャンドラ王国の右側の海に浮かぶ三日月型の島を指さした。
知らない。
IDOのアップデート内容は全てと言っていいほど把握していたが、東国が実装されるなんて告知は一切無かったはずだ。
だとすれば、考えられることはただ一つ。
この世界にしか無い国だ。
ハハハ。
最高かよ。
この世界で俺が知らない場所は天界と地界くらいだと思っていた。
とは言っても、運営が告知した内容は常に確認していたので完全に未知という訳ではない。
だが、東国は違う。
未知そのものだ。
行ってみたい。
そして、この目で見てみたい。
あ、いや、待て。
その前に確認すべきことがあった。
「虎鐵、東国にダンジョンはあるのか?」
「無論」
もう一度言おう。
最高かよ。
未知の場所にあるダンジョンという事は、俺は完全初見という事だ。
どんな魔物が出てくるのか、どんなトラップが仕掛けられているのか、どんなアイテムがドロップするのか、など知りたいことが山ほど出てきた。
その時、ふと一つの憶測が脳裏を掠める。
もしかしたら東国にあるダンジョンで、カトルとポルが最上位職になるための昇格スクロールがドロップするのではないか、と。
俺の憶測にすぎないが可能性はゼロでは無い。
行ってみる価値はありそうだな。
北の大陸に行った後にでも行ってみるか。
などと考えていると、虎鐵が真剣な表情で俺に話しかけてくる。
「名を聞かせてはくれないか?」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はタスク。『侵犯の塔』のタスクだ」
「侵犯の塔とは?」
「クランの名前だ。俺たちは全員冒険者だから」
「なんと! 華族の者では無かったか」
「家族じゃないぞ」
何処をどう見たら家族に見えるんだ。
どう見ても種族が違うだろうが。
「そうか。ではタスク、約束通り某はお主らに対価を払おう」
「ん? ああ、いらねーよ。ただ聞いただけだしな」
「なれど! 某がお主らに助けられた事は事実だ。先刻も申したが“恩には恩、仇には仇、命には命で返す”というのが某の決め事だ」
「じゃあ、命を払うって具体的に何すんだよ?」
少し悩んだ挙句、キョトンと首を傾げる虎鐵。
お前もピンと来てねえんじゃねえか。
誰に教わったかは知らねえけど、そういう事はちゃんと理解してから自分の決め事にしろよ。
「それなら俺が幾つか質問するからそれに答えてくれ。それが対価って事で」
「なれど、それでは軽――」
「命を払うって言ったろ? 従え」
「……あい、わかった」
「刀は何処で手に入れたんだ?」
「東国に居る恩師から授かった物だ」
「へえ。なら東国で刀を持ってるのはお前だけか?」
「否。某以外にも持っている者は居た」
ほう。
刀は東国では周知されてるっぽいな。
「なるほど。んじゃ次、お前の種族は?」
「鬼人族だ」
「ステータスにもそう書いてあんのか?」
「如何にも」
んーーー。
どう見ても俺の知ってる鬼人族とは違うんだが……。
考えてもわからん、次。
「もじゃもじゃ帰っちゃうのー?」
俺が質問しようとする横からポルが口を挟む。
「先刻も申したが某は流浪していた根無し者。帰る場所など疾うに無い」
虎鐵は眉を八の字にして優しく微笑みながら答えた。
その表情はどこか深い悲しみを思わせる。
「ねー、タスク兄?」
「なんだ?」
「もじゃもじゃを仲間にしたーい」
まあ、言うとは思ったよ。
「理由は?」
「もじゃもじゃは強いんでしょー?」
「どうだろうな」
「えー。タスク兄が強いって言ってたんじゃん」
「強いとは言ってねえよ」
俺とポルが話していると、隣に座っていた虎鐵がスッと立ち上がる。
「命の恩人であるタスクなれど、無礼を承知で申させて貰おう。その言葉だけはどうあっても聞き捨てならん。国を離れて数十年、某は我が身一つで修行を積んできたんだ」
「だから? 自分が強いって?」
「如何にも」
ハハハ。
すげえ自信だな。
良いねえ。
自己評価の高い奴は嫌いじゃない。
寧ろ、大好きだ。
何故か。
滅茶苦茶伸びるから。
それも勝てると思っていた相手に“敗北”した時なんかは特に。
自己評価が高い奴ってのは、総じてプライドも高いからな。
まあ、折れなければの話だが。
「で? 聞き捨てならなかったら何だ?」
「証明致す」
虎鐵は右手を大太刀の柄に当て、重心を低くして構える。
俺がインベントリから大盾を取り出そうとした――その時。
『ゴンッ』
鈍い音を立てて俺の頭に何かが直撃した。
振り返ると、そこには投球後のピッチャーのような姿でゼムが立っている。
嫌な予感がした俺は足元に視線を向けると、地面に課金金槌が転がっていた。
「馬鹿野郎! 壊れたらどうするんだ! この世界に同じものは無いんだぞ!」
「馬鹿はお前じゃ!! 暴れるんじゃったら外に行け!」
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