122話:上位職昇格5【イラスト有】
弦音が響き、一本の矢が放たれる。
矢は真っ直ぐと一筋の線を描きながらモルディギナの眉間に突き刺さった。
『グ、グゴ、グォォ……』
数十分に渡る戦闘の末、触手を全て千切られたモルディギナはミャオが放った一撃によって絶命し、闇の大魔石へと姿を変える。
「やりました! やりましたよ! それに見てください! あんな大きな闇の魔石、見た事ありません!」
ぺオニアがダンジョンボスの初撃破でテンションが上がっている中、俺は心の中で涙を流していた。
最初に伝えておくべきだった……触手を千切ってはいけないと……完全に自業自得である。
何故、触手を千切ってはいけないかというと、触手が六本全て残った状態で倒すと五割の確率で<闇属性魔法>スキルの上位互換、<邪属性魔法>スキルの能力スクロールをドロップするからだ。
上位職かつ闇属性に適性を持っているリヴィ・ヴィクトリア・ヘスス・フェイの四人が覚えられるので、是非とも一巻は入手しておきたかったが――仕方ない、今回は諦めるとしよう。
「タスク様? もう一周、行きませんこと?」
「なんで?」
「聞いていなかったとはいえ、私が触手を千切ってしまいましたので」
「ああ、それは完全に俺のミスだ。ヴィクトリアに非は無いんだから気にすんな。それに――」
会話の途中で俺がミャオたちの方へと視線を向けると、三人は和気藹々とした様子で話をしていた。
時折、聞こえてくる三人の会話の中に「昇格」や「上位職」などの言葉が含まれているあたり、既に楽しみで仕方がないのだろう。
「俺はあの三人にもう一周とはさすがに言えねえわ」
「そう、ですわね」
「まあ、今度また取りに来ればいいさ。どちらにせよ必要な能力スクロールは全て集めるつもりだからな。そん時に手伝ってくれ」
「畏まりましたわ」
俺とヴィクトリアはミャオたちの居る方へと近付き、五人一緒にボス部屋中央に出現した魔方陣の上に乗る。
その後、『人食い鬼の巣』を出た俺たちは転移スクロールを使用して屋敷に戻って来た。
扉を開けると、いつも通りアンとキラが玄関ホールに立っており、俺たちを見るなり駆け寄ってくる。
「「おかえりなさいっ!」」
「ただいま」
「今回は早かったですねっ!」
「そうか?」
「そうですぅ。また一週間くらい帰ってこないのかと思ってましたぁ」
「前回の『迸る球獣』でぺオニアのレベルはある程度上がってたからな。それよりカトルたちは戻ってきてるか?」
「いいえっ! まだ戻ってきてませんよっ」
「そっか」
まあ、当然か。
ケパケロの町までは馬車で片道二日かかるんだし。
だとしたら、帰ってくるのは明日くらいか。
うーん、待ち遠しいな。
というのも、カトルたちがケパケロの町に行く前にスクロールの複製に必要な素材である特殊な紙の大量購入を頼んでおいたのだ。
ぺオニアが上位職に昇格できる今、カトルたちが素材を買って帰ってくる事で転移スクロールの枯渇問題が解消される。
という訳で、早速。
「ぺオニア」
「は、はい!」
「ほい、これ」
俺はインベントリから一巻の昇格スクロールを取り出し、ぺオニアに手渡す。
それを受け取るぺオニアの手は若干震えていた。
「ん? どうした?」
「い、いえ。何というか、本当に遊び人の私なんかに『侵犯の塔』の生産職が務まるのかなあ……と思いまして」
「今更、何言ってんだ? 何でもします! だから加入させてください! って言ったのはお前だろ?」
「はい」
「じゃあ、やれ。それと“私なんか”って言葉で自分を落とすのは止めろ。お前の価値を決めるのはお前自身じゃなく周りにいる俺たちだ。自信を持て。お前は間違いなく俺たち『塔』に必要な人材だ」
「……っ!! 嬉しいです。ありがとうございます。これからもっと頑張りますね!」
「ああ。馬車馬のように働かすから覚悟しといてくれ」
「はい! 頑張ります!」
キリッとした表情でぺオニアは一気にスクロールを開き、文言を唱える。
すると、ぺオニアの体を淡い光が包み込んだ。
「うわぁ! なんか変な感じです! ……って、あれ? 消えちゃいましたよ?」
「終わったみたいだな。ステータスを開いてみろ」
「わかりました!」
――――――――――――――――――――――――
【ステータス】
<名前>ぺオニア・アドルナート
<レベル>1/75
<種族>巨人
<性別>女
<職業>美術家
<STR>C:0
<VIT>D+:0
<INT>D:0
<RES>D:0
<MEN>D+:0
<AGI>D:0
<DEX>C:0
<CRI>D:0
<TEC>C+:0
<LUK>C-:0
残りポイント:10
【スキル】
下位:<遊び人><体術><鑑定>
上位:<美術家>
――――――――――――――――――――――――
「え! 凄いです! ステータスがいろいろ上がってますよ!」
「それだけじゃないぞ。<美術家>スキルは色々と使い勝手がいいんだ。特に物作りが好きなお前にはピッタリなスキルだと思う」
「本当ですか!?」
「ああ」
<美術家>はスクロールの複製だけが取り柄という訳ではない。
というのもIDO時代の<美術家>は生産職であり、生産職では無かった。
何が言いたいのかと言うと、<美術家>スキルは絵画や彫刻などにも精通しており、魔物の素材から絵の具を生成したり、魔物の素材を刻んだりする事で魔物像を作る事が出来たのだ。
だからなんだ? と誰しもが思うことだろう。
なんと、その絵の具を用いて描いた魔物を召喚して戦わせる事が出来るのだ。
彫刻の方も同様で、素材を刻んで作り上げた魔物像を動かして戦うという、云わば疑似<調教師>のような運用が出来る。
故に生産職であり、生産職ではないという事だ。
しかし、強いとは言っていない。
大事な事なのでもう一度言おう。
強いとは言っていない。
寧ろ、弱い。
IDO時代に<美術家>を生産職以外として運用していたのはド変態、もしくはプレイヤースキルの高いド廃人のどちらかだけだった。
だが、可愛い物が好きなぺオニアは戦わせる事にそのスキルを使うんじゃなく、生み出し愛でる事に使いそうだからという理由でピッタリだと言ったのだ。
ただでさえ、屋敷に居る時は離れの家で一人寂しく暮らしてるわけだし。
とにかく、これで『侵犯の塔』に在籍している全員が上位職に昇格した。
最後の仕上げにレベル上げをすればようやく挑める。
――北の大陸に。
せっかく各国の王から『推薦状』を書いて貰ったんだ。
行かなければ勿体ないだろう。
というか、行きたい。
IDO時代、北の大陸に行ったのは天界と地界のアップデート前で、次元の間の出口には『To be continued』とウィンドウが表示されていた。
俺はその先が見てみたい。
その先のダンジョンに挑んでみたい。
そして、いずれは――あの場所へ。
――翌日。
カトルたちが帰って来た。
元気よく扉を開けて入ってくる音がダイニングまで聞こえてくる。
「「キャアアアアアアアアアア」」
数秒遅れて、アンとキラの悲鳴が聞こえてきた。
俺はダイニングを飛び出し玄関ホールへと向かうと、アンとキラが抱き合った状態でペタリと地面に座り、ただ一点を見つめていた。
「あ、タスク兄。ただいま」
「おかえり。……一つ聞きたいんだが、いいか?」
「んー? 何ー?」
「それって……まさか……」
俺が指さす先、そしてアンとキラの視線の先に居たのは――。
「うんっ! モジャモジャ!」
「もじゃもじゃー!」
「モジャモジャデス!」
噂通りの“モジャモジャ”だった。




