11話:洞窟大猩々
俺たちは温泉で疲れをとり野営地へ戻った。
「明日はボスに挑むからしっかりと休めよ」
「言われなくとも休むわい」
「もうクタクタッス」
「……私も。」
男女で分かれてテントに潜り込むと、俺は商会で買った魔物除けの魔道具を起動させ就寝する。
効果があったのかはわからないが、フィールドの魔物に襲われること無く夜が明けた。
――翌朝。
俺たちは朝食を済ませた後、万全の準備を整え再度『ましらの穴倉』へ。
今回はボス部屋を目指すため、最初の広間での戦闘を終えたあと通路を左に曲がる。
その後も何度か戦闘をこなし、順調に進んでいると一時間と経たずに最深部であるボス部屋の前まで辿り着くことが出来た。
「案外早く着いたッスね」
「そうだな」
本来、洞窟型のダンジョンは内部が入り組んでるため初見であれば探索に時間がかかる事が多い。
しかし、一度道を覚えてしまえば時間をかけず最深部まで来ることは出来る。
かつての仲間たちと何度も周回したダンジョンだ。
道はある程度覚えている。
ああ……思い出すんじゃなかったな。
今でも少し喪失感がある。
だが来ない訳にもいかない。
レベル上げの他にも目的があるのだ。
俺は気を取り直して顔を上げると、ボス部屋に続く木製の大きな扉に力を籠め、ゆっくりと開いた。
そこは天井に埋まった魔石が電球のように発光し照らす広いドーム状の空間。
中央には俺の胴体よりも太い両腕で地面を叩き、頭から背中まで生えた黒い鬣を逆立て、鋭い目で俺たちをギロリと睨みつける体長四メートル程のゴリラが居た。
『ましらの穴倉』のボス、洞窟大猩々だ。
洞窟大猩々は戦いの合図かのように咆哮をあげる。
それと同時に俺は洞窟大猩々の左手側に駆け出し『チャレンジハウル』を放った。
一拍置いて、俺以外の四人が洞窟大猩々の右手側に駆け出し背後を取る。
パーティ戦において、アタッカーがボスの背後をとるのは定石だ。
ボスに限らず言えることだが、例外を除く全ての魔物への攻撃は背後から行うことで威力が上がる。
なのでタンクが敵の視線と方向を固定し、アタッカーが背後から攻撃する。
そしてバッファーとヒーラーはタンクとアタッカーがどちらも視界に入るように敵の側方から支援を飛ばす、というのがパーティの完成形だ。
俺は洞窟大猩々が振り下ろしてくる右拳を『シールドバッシュ』でパリィして、『オートカウンター』を発動させる。
ハハハ。
踏ん張っても衝撃が伝わってくるほど重い。
見た目通りの<STR>だな。
面白え。
上から潰すように、横から薙ぎ払うように、工夫しながら突き出される洞窟大猩々の拳を悉く弾き飛ばす。
魔鉄製の大盾じゃここいらが限界かな。
この様子じゃ、弾かずに真正面から攻撃を受け止めれば、十発も耐えられずに壊れるだろう。
でも、ギリギリ感が愉しい。
全部弾いてやるよ。
俺は洞窟大猩々の攻撃の隙をみてはリキャスト空けの『チャレンジハウル』を放つ。
すると洞窟大猩々は大きく息を吸いこんだ。
同時に黒い鬣が徐々に赤く染まっていく。
お?
俺は大盾を両腕でしっかりと支え、腰を落としてチラリと様子を見る。
刹那、洞窟大猩々の周囲一帯に爆発が起き、赤く染まった鬣が黒に戻った。
大盾の表面が少し溶けたぞ、ちくしょう。
こうなるなら避けりゃよかった。
見すぎたわ。
洞窟大猩々は魔法を使う時、大きく息を吸い込み鬣の色が変わるという事を俺は知っていた。
しかし避けなかったのには理由がある。
それは……。
俺は四人の方に視線を移す。
四人が爆発に巻き込まれた様子はなく、既に攻撃を再開していた。
よしよし。
俺は洞窟大猩々に視線を戻し『オートカウンター』を発動させる。
数分後、再び大きく息を吸い込むと今度は鬣が徐々に青く染まっていった。
チラリ。
そう、先ほどから見ているのは四人の動き。
鬣の色が変わる瞬間、ゼムとミャオは攻撃の手を止めリヴィとヘススの居る後方まで下がっている。
どうやら良く観察出来ているようだ。
というのも敵の攻撃モーションを覚えるというのは一番大事だと言っても過言ではない。
だから今回は敢えてボスの情報を四人に話さず、自分たちの意思で行動させている。
言われたからやる、聞いたからやる、ではなく自分で考えて判断して行動に移すのが成長への近道だ。
だからこそ学ぶ――今回の判断は間違いだった事を。
洞窟大猩々は大きく口を開け、俺目がけて勢いよく水を噴射する。
俺は大盾に体を預け、腰を落とし、水を斜め後方に受け流すように大盾を傾けた。
水圧で吹っ飛ばされないように踏ん張る足が痺れる。
んー、いいねえ。
水を吐くにつれ、鬣が青から黒へと徐々に戻っていく。
水を受け流しながら、横目で四人を見ると既に攻撃を再開していた。
青い鬣の時はボーナスタイムだ。
覚えたな? 次からはしっかり削ってくれよな。
全て水を吐き終わった洞窟大猩々は再度、拳を振ってくるが満身創痍。
そんな状態で長く戦えるはずもなく数分後、洞窟大猩々は膝から崩れ落ち透明な大魔石だけを残して霧散していった。
それを見たミャオとリヴィはプルプルと肩を小刻みに揺らす。
そして――。
「やったッスー! 初めてダンジョン踏破したッス―!」
「……。」
ミャオは目尻に涙を浮かべぴょんぴょん跳ねている。
その隣でリヴィがポカンとした表情で座っていた。
「お疲れさん」
「お疲れ様ッスー! 一日でクリアしちゃったッス! 信じられないッス! こんなことなら野営地を片付けてくればよかったッスね!」
ふーむ。
ミャオは何か勘違いをしているようだ。
テンションが上がってるところ悪いが現実を突きつけさせてもらうとしよう。
「周回するから野営地を片付ける必要はないぞ」
「へ……?」
「……え。」
ミャオとリヴィが目を点にしている。
というのも二人が温泉に入っていた時にゼムとヘススに周回することを伝えたのでミャオとリヴィは知らなかったのだ。
その後伝えれば良かったんだが、温泉が気持ちよすぎて伝え忘れてた。
まあ、今言ったからいいだろう。
「それと、次からはケーブコングにトドメを刺す時は鬣が赤く染まってる時か青く染まっているときに頼む」
「赤い時は爆発するんじゃないのか?」
「する。だからリヴィかヘススにトドメを任せる」
「……頑張ってみます。」
「承知した」
リヴィは自信なさげに俯き、ヘススはいつもの表情のまま頷く。
「じゃが、なんで鬣が染まっとる時なんじゃ?」
「確定でスクロールをドロップするからだ」
「「「「!?」」」」
俺の言葉を聞いた四人は驚く。
元々ここに来た理由はレベル上げの他に、スクロールを入手することが目的でもあったのだ。
それも絶対にいる能力スクロール。
だからこその周回だ。
俺は地面に落ちた透明な大魔石を仕舞い、魔方陣の上に乗って『ましらの穴倉』の入り口に転移する。
そして野営地に張っていたテントの近くで休憩を挟んだ後、再びダンジョンへと潜った。
さあて、何日目に気付くかな?
楽しみだ。
――三周目が終わったところで夜になった。
今はダンジョン内の温泉までやって来ている。
そして男女に分かれて交互に見張りを担当し、入浴を済ませた後に同じルートで野営地へ戻った。
「くやしーッス! 鬣の色すぐに戻っちゃうじゃないッスか! それに鬣が青くなる回数少なすぎッスよ! ねー、リヴィ!」
「……うん。」
後ろを歩くミャオはリヴィに愚痴っていた。
ヘススとゼムも後ろを歩きながら話している。
今日の収穫は透明な洞窟大猩々の大魔石が三つと洞窟猿の魔石と素材のみ。
上手くいかなかった事があまりにも悔しかったのか、ダンジョン内、入浴中、ご飯中と四人はずっと作戦を考えていた。
すると――。
「――わかったかも」
と、一人が呟く。
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