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インフィニット・ダンジョン・オンライン《Infinite Dungeon Online》  作者: 筋肉式卓一同+α
第三章:《北の大陸編》
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117話:瞬閃犰狳


 ~Side:フェイ~




 『迸る球獣』に入って数時間。

 

 ダンジョン内に入ってからというもの、タスクさんたちが砲弾犰狳(シェルマジロ)を狩り続けてくれたおかげで、私たちのパーティ五人は体力を温存したまま、無事ボス部屋を発見する事が出来た。


 ボス部屋の前に立った私たちに向け、タスクさんが声を掛けてくる。


「俺たちは別の道も片付けてくるから、一旦分かれるぞ」

「タスク兄、ありがとう!」

「ありがとー」

「ありがとうございマス」

「ん。フェイ、いつも通りやれ。お前なら大丈夫だ」


 タスクさんは私の頭を撫でながら優しく笑いかける。


 正直、怖かった。

 当然だ。

 難易度五等級ボスとの戦闘。

 大の大人でも、裸足で逃げ出すような相手。

 ただでさえ私はダンジョンボスと戦った経験は少ない。

 それも無いと言っても過言ではないほどに。


 でも、タスクさんが「大丈夫」と言ってくれた。

 これ以上、信じられる言葉を私は知らない。


「ハイッ! 頑張りマスッ!」

「ハハハ。いつも通りだな」


 タスクさんは私の頭から手を退かすと、ヘススさんの方に近付いて「頼むな」と一言だけ言って、『迸る球獣』の暗い通路へと消えて行った。


 タスクさんたちを見送った後、カトルが気合を入れるように声を上げる。


「よしっ! 行こう! 頑張るぞッ!」

「「おー!」」


 私とポルが片手を挙げてそれに応える。

 カトルは頷き、ボス部屋の扉に手を掛けた。



 ゴゴゴと扉が音を立てて開く。


 先程まで暗かった通路が嘘だったかのように、ボス部屋は明るかった。

 

 そこは大きな半円形状の空間。

 剥き出しになった岩肌には煌めく鉱石が星のように鏤められており、それが光源になって部屋を照らしている。


 その光を背中の鱗で反射しながら、ボス部屋の中央に佇む“ソレ”が居た。

 パッと見、砲弾犰狳(シェルマジロ)にも見えるが――明らかに違う点が二つある。


 一つは大きさ。

 凄く、小さい。


 タスクさんの戦っていた砲弾犰狳(シェルマジロ)の半分程しかないのだ。

 

 そしてもう一つ。

 色が違う。


 綺麗な深紅色の砲弾犰狳(シェルマジロ)とは違い、くすんだ灰色をしている。

 

 間違いない。

 コイツがタスクさんから聞いた『迸る球獣』のボス。


 『瞬閃犰狳(ジフマジロ)』だ。


 私がバックラーを構えようとした時、ドンッ、と真横から肩を押された。


「「え?」」


 同時に真横から鈍い音が響く。

 隣に居たカトルとポルが声を漏らしながら振り向いた。

 つられて私の視線も自然とそちらに向く。


 そこには腹部に瞬閃犰狳(ジフマジロ)がめり込み、口から血を吐き出すヘススさんの姿があった。


「「ヘス兄!?」」


 片膝を付いたヘススさんにカトルとポルが駆け寄る。

 ロマーナさんは魔法鞄からポーションを取り出して栓を抜き、ヘススさんの口に突っ込んでいた。


 その間にヘススさんの腹部を離れた瞬閃犰狳(ジフマジロ)は柔らかいゴムボールのように地面を撥ねながら、元居た部屋の中央まで戻っていく。


 え、今の一瞬で移動した? 私には瞬閃犰狳(ジフマジロ)が移動した音すら聞こえなかった。

 私だけじゃない。

 カトルやポルもそうだ。

 ヘススさんしか反応できない相手にどうやって……。


 そんなことを考えていると、カトルがスゥっと大きく息を吸い込み、大声で叫んだ。


「うおおおおお! 行くぞ! フェイ! 構えろ! ポルはデスビィを呼べ!」


 鼓舞するかのように叫ぶカトルの声は少し震えていた。

 私と同じことを考えていたのだろう。


 だけど、カトルは……。

 そして、ポルも……。


 私も二人と同じところに立ちたい! 私は弱いんだ。

 そんな私が弱音を吐いてる暇なんて……無い!


 私はバックラーを前に構えた。

 同時に『コントロールコンバット』と『コマンダーバフ』が私を包む。

 

「行きマスッ!!」


 私は駆け出し、部屋の中央に戻った瞬閃犰狳(ジフマジロ)目がけて『ナイトハウル』を放つ。

 瞬閃犰狳(ジフマジロ)は私に視線を向けると――消えた。


 『ドスッ』


 刹那、鈍い音と共に私の腹部に痛みが走る。

 私が下を見ると、瞬閃犰狳(ジフマジロ)がお腹にめり込んでいた。


 痛い。

 怖い。

 速すぎて見えない。


 でも、負けられない! 一体、どうすれば勝てる?


 考えている内に痛みがスゥーと引いて行く。

 ヘススさんの方を横目で見ると、既に立ち上がり私に『ハイヒール』を掛けてくれているようだった。


 その姿を見て安堵した半面、ふと疑問が生まれる。

 ヘススさんは何であの時、瞬閃犰狳(ジフマジロ)の動きに反応できたんだろう? と。


 『ドスッ』


 再び、腹部に瞬閃犰狳(ジフマジロ)がめり込む。

 その時、ヘススさんが口を開いた。


「相手をよく見て、よく聞くのである」


 よく見て、よく聞く。

 毎朝の修練の時、タスクさんがよく言う言葉に似てる。


 そうだ! タスクさんは言った。

 「普段の私なら大丈夫だ」と。


 思い出せ! 今まで習った事……全部ッ!


 (体を全部、余す所無く使え。腕や足だけじゃダメだ)


 私は脇を閉め、腕をしっかり固定させ、腰を落とす。


 (極端な話、攻撃は逸らす・弾く・受け止めるしかない)


 私に止めるだけの<STR()>は無い。

 逸らす技量もセンスも無い。

 なら答えは一つ、弾くしかない!


 (見えないなら聞く。聞こえないなら見る。それでもダメなら――。)


 私は真っ直ぐに瞬閃犰狳(ジフマジロ)を見る。

 すると、一瞬のうちに姿を消した。

 やっぱり、私には見えないし音も聞こえない。


 それでもダメなら……感じろ! デス!!


 二回も同じところに突っ込まれたんだ。

 大丈夫。

 出来る。

 頑張れ、私。

 怖がるな、私。


 今ッ!!!


 『ギィィィン』


 大きな金属音が響き、腕に激痛が走る。

 だが、ドンピシャのタイミングでの『ランページ』が刺さり、パリィに成功した。


 腕が物凄く痛いけど……私の勝ちッ!!


「カトル!」

「おおおおお! 任せろ! ポル、斬! デスビィ、飛針! ヘス兄、ハイヒール!」

 

 カトルの指示通りのスキルが体勢を崩した瞬閃犰狳(ジフマジロ)に直撃する。

 だが、瞬閃犰狳(ジフマジロ)の鱗甲板も砲弾犰狳(シェルマジロ)と同じく硬いようで弾かれた。


「かったーい」

「くそ! もう一回――」

「おいおい、わたしにも攻撃させてくれないか? そのためについて来たというのに」


 カトルの言葉を遮り、ロマーナさんが声を上げる。

 その手には黒と紫の斑模様をした毒々しい蛙の入った小瓶を持っていた。

 

 <錬金術師>スキル『毒抽出』:対象の毒を抽出・利用が可能。


 ――発動。

 ロマーナさんの手のひらの上に液体がフヨフヨと浮く。


 それを、魔法鞄から取り出した長い針に付け、起き上がろうとした瞬閃犰狳(ジフマジロ)目がけて勢いよく振りかぶった。


 <針術>スキル『ペネトレイトニードル』:貫通重視の刺突。


 ――発動。

 ロマーナさんの持つ長い針は、偶然か必然か瞬閃犰狳(ジフマジロ)の鱗甲板の隙間に突き刺さった。


 敵意が向いてはマズいと思った私はすぐに『ナイトハウル』を発動させる。

 起き上がった瞬閃犰狳(ジフマジロ)は威嚇するように呻き、飛びあがった。


 え? 動きが見える。

 遅くなった? これなら、合わせられる。


 私はリキャストタイム空けの『ランページ』をタイミングよく発動させ、パリィする。


 腕が物凄く痛い。


 でも……愉しい!!


 バックラーに弾かれた瞬閃犰狳(ジフマジロ)は吹っ飛び、またも体勢を崩した。

 すかさずカトルは声を張り上げる。


「総員、装甲の薄い所をよく狙え! ポル、斬! デスビィ、毒針! ロマーナ姉、ペネトレイトニードル! ヘス兄、ハイヒール!」

「ほーい」

「了解だ」

「承知した」


 カトルの指示通りに全員が動き出す。

 足の関節部や鱗甲板の隙間を狙い、全員がスキルを発動させ、徐々に瞬閃犰狳(ジフマジロ)のHPを削っていった。

 

 ――数十分後。



 瞬閃犰狳(ジフマジロ)は力尽き、倒れた。



読んで頂き誠にありがとうございますorz


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毎日一話ずつですが更新します!

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