112話:追跡擬態箱
~Side:カトル~
幽寂洞穴に来てから早二日が経った。
みんなのレベルは順調に上がってきている。
今日で探索三日目。
ダンジョン内を歩いていると、ポルが声をかけてきた。
「ねー、カトル? あれ、なんだろー?」
最後尾を歩いていた、ポルが指をさす。
俺がそちらの方を向くと、宝箱が一つあった。
ここ二日で何度も見た何の変哲も無い宝箱。
だが、何か違和感を感じる。
というか感じざるを得ない。
その宝箱は俺たちの背後、進んできた方にあったのだ。
見逃した? そんなはずはない。
先頭を歩くフェイならまだしも、その後ろを歩くミャオ姉やヘス兄までもが見逃すとは到底思えない。
俺はすぐさま、前を歩くフェイ・ミャオ姉・ヘス兄の三人に声を掛ける。
「ちょっと待って」
俺の言葉に三人が足を止めて振り返る。
そして、件の宝箱を指さして、あそこにあったか聞いてみると三人は「無かった」と首を横に振った。
新しく湧いたのかな? とも思ったが、おかしい。
以前タスク兄に聞いた話で「ダンジョン内に誰かが居る場合新しく魔物がポップする事は無い」と言っていた。
では、見逃してもなく、新しくポップした訳でもない宝箱が何故、俺たちの背後にあるのか。
その疑問の答えはすぐに出る事となった。
突如として宝箱の蓋が『キィ』と音を立てて開き、中からズルッと黒い腕が四本這い出てくる。
黒い腕は地面に手を付き、宝箱本体を浮かせた。
その刹那――宝箱は“黒い魔素”を漏らす。
同時に俺の体が震えだし、脂汗が噴き出てくる。
ヴノ皇帝を目にしたあの時と同じ感覚。
ヤバい。
そう思った瞬間、フェイが宝箱に向け『ナイトハウル』を放ちながら叫ぶ。
「逃げてくだサイ!!」
その言葉と同時に、擬態箱は四本の腕をカサカサと動かし、自走した。
自走する擬態箱はフェイに近付くと飛び上がり、蓋を大きく開ける。
その中にあったのは真っ赤に充血した二つの瞳。
そして、その奥では何人もの人影が蠢き、ドロドロに溶け合っていた。
ソレを見た俺は直感した。
飲み込まれたら死ぬ、と。
それはフェイも同じだったようで、ペタンとその場に腰を落とす。
俺はフェイに向かって思いきり手を伸ばした。
……が、届かない。
すると俺の真横を一本の矢が物凄い勢いで通り過ぎた。
矢は飛び上がっていた自走する擬態箱に当たり、吹っ飛ばす。
「逃げるのはフェイたちッスよ!」
「であるな。ここは拙僧たちに任せるのである」
そう言うミャオ姉とヘス兄の手は震えていた。
それでもミャオ姉は矢を放ちながらフェイの前に出る。
「行くッスよ!」
「承知した」
ヘス兄は錫杖を構え『ダークアロウ』を放つ。
ミャオ姉の放った矢とヘス兄の『ダークアロウ』が自走する擬態箱に直撃するが、傷一つ付かない。
それでも二人は諦めず、何度も、何度も、攻撃する。
だが、自走する擬態箱の敵意はまだフェイが持っているようで、ミャオ姉とヘス兄を無視してフェイに襲い掛かろうとしていた。
「カトル、ポル! 何ボサっとしてるッスか! フェイを連れて早く逃げるッスよ!」
(カトル、ポル! 貴方達だけでも生きるの! 早く逃げなさい!)
ミャオ姉が大声を上げる。
「拙僧たちは大丈夫である」
(俺たちは大丈夫だ。心配すんな)
ヘス兄が俺たちに笑いかける。
……同じだ。
俺には二人の声が被って聞こえた。
『怠惰と勤勉』でダリオスとレトナ、両親に言われた言葉と。
ここで逃げたら、あの時と同じでミャオ姉とヘス兄が――死ぬ。
逃げてたまるか!!
「ポル」
「わかってる。おいで! デスビィくん!」
どうやら声が被って聞こえたのは俺だけじゃなかったようで、真剣な表情を浮かべたポルはデスビィを召喚する。
その様子が目に入ったのか、ミャオ姉は驚いた表情で俺たちを見て声を上げた。
「何やってるッスか!?」
「「俺(私)たちも戦います!」」
すると、フェイもフラフラと立ち上がり、口を開く。
「ワタシも、戦いマス」
それだけ言うと『ナイトハウル』を自走する擬態箱に放つ。
すると、自走する擬態箱は四本の腕を器用に動かしながらフェイに飛び掛かった。
「話をしてる暇はなさそうっスね!」
ミャオ姉は『パワーショット』で自走する擬態箱を撃つ。
だが、一本の腕が飛来する矢を掴み、圧し折った。
それを見た俺は咄嗟に指示を出す。
「フェイ、ランページ!」
フェイはおぼつかない足で『ランページ』を発動させ、その場から緊急回避をする。
自走する擬態箱は四本の腕で着地し、方向を変えると、間髪置かずフェイに飛び掛かった。
攻撃速度や反応速度が速すぎる。
避けようにも『ランページ』はリキャストタイム中だ。
どうする? 考えろ考えろ考えろ……。
俺が考えていると、ポルが声を上げる。
「お願い! デスビィくん!!」
デスビィはポルの言葉を聞き、自走する擬態箱に体当たりをした。
しかし、自走する擬態箱は腕一本でデスビィの体当たりを止め、違う腕でデスビィの片翅を掴み『ブチッ』と千切る。
同時に、ミャオ姉の放った矢も掴んでおり、残った一本の手でフェイを掴んだ。
「ポル、斬! ヘス兄、ダークアロウ! ミャオ姉、パワーショット! デスビィ、飛針!」
フェイを掴んだ腕を目がけて三人と一匹は攻撃する……が全て、弾かれた。
そのまま、自走する擬態箱は蓋を大きく広げフェイを飲み込み始める。
ヤバい! どうすれば。
あのまま、飲み込まれたらフェイが死ぬ。
……そうだ!
「ポル、フェイに縛!」
俺の言葉通り、ポルはフェイの腰に糸を巻き付けた。
「ミャオ姉、パワーショット! ヘス兄、ダークアロウ! デスビィ、飛針!」
俺は二人と一匹に指示を出しながら、『パワーアックス』を発動させた短斧で自走する擬態箱に切りかかる。
すると、自走する擬態箱は飲み込む事を止め、一本の腕で俺の斧を掴み、一本の腕でミャオ姉の放った矢を掴み、一本の腕でダークアロウを防ぎ、一本の腕でデスビィの飛針を止めた。
……今!!
「ポル、引け!!」
「ほいっ!」
ポルが思いきり糸を引くと、ズボッとフェイが自走する擬態箱の口から抜けた。
「ゴホッ、ゴホッ、助かりマシた」
良かった。
肩辺りまで飲み込まれてたけど、大丈夫だったようだ。
だが、根本的な問題は解決していない。
それどころか――。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
餌を取られた獣の如く、自走する擬態箱は唸る。
それ同時に、撒き散らす黒い魔素が濃くなった。
その時、俺たちの後ろから声がした。
「なんか騒がしいなと思って来てみたら『追跡擬態箱』とか、珍しいのと戦ってんな」
声を聞いた途端、安堵からか目の奥がジンと熱くなる。
後ろを振り返ると、そこにはタスク兄が肩で息をしながら立っていた。
「走って来たの?」
「おう。お前ら良く戦ったな。後は任せとけ」
「はい」
そう言ってタスク兄は『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させ、フェイから敵意を引っぺがす。
「ヘスス、ミャオ。まだやれるな?」
「当然ッス」
「無論である」
「それじゃあ、行くぞ。お前たちは起き上がりだけを狙え」
それだけ言うと、タスク兄が一気に追跡擬態箱との距離を詰める。
「フェイ、よく見とけ! コイツとの戦い方はこうだ!」
飛び掛ってきた追跡擬態箱にタスク兄が『ランページ』を発動させた瞬間、追跡擬態箱が吹っ飛ぶ。
「あんな速い攻撃をパリィするなんて……凄いデス」
ゴロゴロと地面を転がった追跡擬態箱は四本の腕を使い器用に起き上がった――時には既にタスク兄は至近距離まで近付いている。
<騎士>スキル『シールドスイング』:盾で横薙ぐ攻撃。
――発動。
起き上がってすぐの追跡擬態箱をかっ飛ばす。
その間にミャオ姉の『パワーショット』とヘス兄の『ダークアロウ』が追跡擬態箱を的確に撃ち抜いていた。
その後もフェイに合わせてか、タスク兄は<騎士>スキルだけで追跡擬態箱と戦い、圧倒した。
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