111話:幽寂洞穴
冷たい風が吹き荒れる。
そんな中、俺たちは野営の準備をしていた。
辺りは木も生えていないような岩山に囲まれており、若干雪がちらついているここは『幽寂洞穴』のあるマグニゲイル魔帝国の山奥だ。
「あぁ、寒い。わたしが何故こんな事をしなければならないんだ」
と、ロマーナが愚痴る。
その隣ではミャオが寒さなど感じていないかのように平気な顔で黙々と作業をしていた。
「おい、ミャオ。何故そんなにも平然としていられる?」
「スキルッスよ。環境の影響を軽減してくれるんッス」
「わたしにも掛けろ」
「無理ッスよ! ロマーナさんは別のパーティッスから」
「使えんな。リヴィ、何とかしろ」
「……無理。……私そんなスキル持ってない。」
「お前ら、ぐちぐち言う前に手を動かせよ」
「そう言うタスクも手が止まっているぞ」
「仕方ないだろ。寒いんだから」
迂闊だった。
こんなに寒いとは思わないだろ。
IDO時代は温度覚など無かった。
故に防寒系の魔道具は持ってきていない。
一度王都に戻ろうかとも思ったが、如何せん転移スクロールの在庫が心許ないので決心できないでいると、ヘススが徐に魔法鞄を漁りだし、中から火の魔石で動く昔ながらのストーブのような暖房魔道具を取り出した。
「これを使うのである」
あー、神。
俺は早速、火の魔石を放り込み魔道具を作動させる。
すると、ポッとオレンジ色の光が灯ると、辺りが少し暖かくなった。
「あったかー」
「おい、ポル。お前ミャオの『ミティゲーション』が掛かってるだろ。サボるな」
「ばれたー」
そうこうしている内に無事野営の準備も終わり、俺は全員を暖房魔道具の周りに集めた。
というのも、今回のダンジョンは難易度六等級、それも少し特殊なので、事前情報を渡しておこうと思ったのだ。
事前情報無しでは少しキツい……いや、普通に死ぬ。
特に、カトルやポル辺りが。
「最初に伝えておくことが一つある。今から潜る『幽寂洞穴』は字の通り、洞窟型のダンジョンで中に魔物は居ない」
全員の頭に疑問符が浮かぶ。
それもそのはず。
レベル上げをしに来ているのにも拘わらず、俺が魔物は居ないと言ったからだ。
しかし……。
「厳密に言えば魔物は居るんだが、“ソレ”を誰も魔物だとは思えない」
「どーいうこと?」
「『幽寂洞穴』に棲む魔物は宝箱に擬態してるんだ。中には本物の宝箱も混じってるから、区別がつかない。その上、索敵スキルにすら引っ掛からないときたもんだ。だから、宝箱を見つけたら迷わず攻撃しろ。本物だったとして、中身が砕け散っても構わん。絶対に開けようとだけはするな」
『幽寂洞穴』に出現する魔物は『擬態箱』。
擬態箱は開けたが最後。
中から真っ黒な腕が出てきて、とんでもない力で擬態箱の体内である宝箱の中に引きずり込まれる。
あまりにも一瞬の出来事に声も出せない。
故に“幽寂”。
所謂、運営による即死トラップだ。
このダンジョンが実装された時、何人の死者が出た事か。
というのも、本物の宝箱の中にはここでしか手に入らないレアアイテムが入っている。
だからこそ、みんな開けるのだ。
何を隠そう、俺も被害者である。
懐かしみながらも俺は全員が頷くのを確認した後、フェイに話しかける。
「フェイ、絶対に敵意を外すなよ。相手は特殊とはいえ難易度六等級だ。そっちのパーティの誰かが攻撃を食らえば普通に死ぬ」
「は、ハイ! 頑張りマス!」
「良い返事だ。最初にコツだけは教えとく。擬態箱は動かない。というか地面に張り付いて動けない。だから、そこそこ距離を離しておけば攻撃は躱せるし、防げると思うからそれで対処しろ」
「ハイッ!」
フェイはキリッとした目つきで真っ直ぐ俺を見つめ返事をする。
俺は頷き、全員の方に向き直り口を開いた。
「それじゃあ、行くか」
各々が戦闘準備をしてダンジョンに侵入する。
俺とフェイを先頭に数分歩いていると、左右の分かれ道があった。
「俺たちは左に行く」
「なら、ワタシたちは右デスね」
「ああ。気を付けろよ」
「ハイ」
フェイたちのパーティと別れて歩くこと数分。
早速、発見した。
宝箱だ。
それも通路の左右に二つ。
うわあ……。
出た。
断言できる。
両方、擬態箱だ。
このポップの配置は片方が擬態箱だったから、もう片方は大丈夫だろうと言うありきたりな即死パターン配置だ。
「総員、戦闘準備」
俺の言葉で、ヴィクトリアが『ファスト・ステージ』を発動、ゼムは大槌を構え、リヴィはバフをそれぞれに掛ける。
そんな中、ロマーナが俺に問いかけてきた。
「タスク。わたしは何をしたらいい?」
「あ、言ってなかったな。役割的にはヒーラーだから、治癒系のポーションを用意してるだけで良いぞ」
「わかった」
ロマーナは魔法鞄から数本のポーションを取り出す。
その色は本来のポーションの綺麗な赤色ではなく、緑と紫を混ぜたような色をしていた。
「オイ。見た事ない色をしてるんだが、何だ? それは」
「これはわたし特製の治癒ポーションだ。色はアレだが効果は保証できる」
「そ、そうか」
……<鑑定>。
――――――――――――――――――――――――
・治癒ポーション(初級)
効果:傷の治癒。疲労の軽減。
――――――――――――――――――――――――
マジだった。
すまん、ロマーナ。
人は見た目で九割決めてしまう生き物なんだ。
「おい、タスク。今、鑑定を――」
「よし、行くぞ」
俺はロマーナの言葉を遮り、右の宝箱に『チャレンジハウル』を発動した。
しかし、宝箱はピクリとも動かない。
「動きませんわね」
「これで動いたら本物かどうか判断できるだろ」
「それもそうですわね。では、攻撃しても?」
「ああ、良いぞ。攻撃開始だ」
右の宝箱に向け、ヴィクトリアとゼムが駆け出し、二人が一撃を叩き込む。
すると、宝箱はガタガタと動き出し、キィと音を立てて数センチ開いた。
その隙間から充血した瞳を覗かせ――。
『ア゛……ア゛ア゛……ア゛ア゛』
ホラー映画のワンシーンにありそうな声を漏らす。
「気持ち悪いですわ」
そう言いながら、開いた蓋を閉めるように『マグナム・メドゥラ』を発動させた拳を振り下ろすヴィクトリア。
だが、擬態箱の蓋はピクリとも動かず、その瞳は俺を見つめ叫び声を上げた。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
擬態箱の中から黒い霧が溢れてくる。
黒い霧は近くに居たヴィクトリアとゼムの脚を撫でるように股下を通り過ぎた。
「何じゃ!?」
「何ですの!?」
「俺への攻撃だ。気にせず攻撃し続けてくれ」
「わかったわい」
「畏まりましたわ」
ヴィクトリアとゼムが擬態箱を攻撃する中、黒い霧はゆっくりと俺に近付いてくる。
そして、俺の近くまで来た、黒い霧は一度動きを止め、一か所に集まった。
と、同時に霧の中から無数の手が生えてくる。
それを一本、また一本と大盾で弾きながら後退する。
いいね。
この程度なら、向こうのパーティも問題ないだろう。
そんな事を考えながら、ヴィクトリアとゼムに敵意が向かないように『チャレンジハウル』を放つ。
その後も黒い霧から伸びてくる手を弾き続けているとバキィッと音を立てて、擬態箱は土の魔石と素材を残して粒子になった。
「なあ、タスク。こっちが偽物じゃったから、あっちは本物じゃないのか?」
「……」
ああ、こうして人はトラップに掛かるんだろうな。
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