109話:知ってる事
翌朝、俺たちはベルアナ魔帝都の城に戻って来ていた。
もちろん、捕縛したレオンも一緒である。
連れ帰る際に目隠しをした状態で転移スクロールを使用させたのだが、どうやら転移スクロールは視認している必要は無く、文言を唱えるだけで転移する事が出来るようだ。
「タスク兄! おかえり!」
「おかえりー」
「おかえりなサイ」
俺たちが円卓会議の会場である庭園に行くとカトル、ポル、フェイの三人が元気に走って来た。
「ん。ただいま。何もなかったか?」
「うん! だけど……」
カトルが口を噤み、円卓の方を向く。
俺がそちらに目を向けると、グロースとアザレアとグレミーの三人がぐったりと突っ伏していた。
おおう。
元の世界を思い出すなあ。
何時まで作業してたんだろ?
そんなことを思いながら円卓に近付いて行くと、アザレアが勢いよく顔を上げ、俺目がけて両手を広げて走って来た。
「おかえ――うっ」
「只今戻りました」
「けちー」
「自重してください」
俺はアザレアの頭を押さえつけながら、グロースの方を見て問いかける。
「ガンディ獣王たちは帰って来てないんですか?」
「いや、昨日のうちに帰って来たのだ」
「そうですか」
「タスク! あやつらに何か言ってやってくれ! 講和の件は全て一任したからよろしく! と我らに全てを任せてスヤスヤと寝ておるのだ」
「仕方ないですよ。一任されたんですから。というか、俺も国事を手伝う気はありませんからね?」
「ッ!?」
え? 当然だろ。
俺はこの戦争が止められれば、それで良かったんだ。
正直、レオンや現教祖の事もどうでもいい。
後の事は、各国の王たちで決めてくれ。
これでヘススの悩みは解消され、序でにヴィクトリアの悩みも消えた。
後は自由にダンジョンを――って、忘れてた。
もう二つ……いや三つ、国王たちに用事があったわ。
「グロース王、『侵犯の塔』から“お願い”があります」
「お主は素直に“報酬”とは言えんのか?」
「報酬だと本当に欲しいものが貰えないじゃないですか」
「うむ。一理あるのだ」
「でしょ?」
「で? 我は何をすればいいのだ?」
「お願いの内二つは各国の王たちに向けたモノなので全員集めて貰えますか?」
「内二つって何個お願いがあるのだ……。それにしても『侵犯の塔』に依頼を出したのは我とアザレア殿だけなのだぞ? 全員にお願いするつもりなのか?」
「はい。ですから、お願いしますね」
俺が笑顔でそう言うと、グロースは嫌そうな、面倒臭そうな顔をした後、一度深いため息をつき了承してくれた。
――数時間後。
グロースに集められた各国の王が全員、円卓に着席したことを確認した俺は話を始める。
「お集まり頂きありがとうございます。どうしてもお願いしたい事が二つあったので呼ばせて頂きました」
「オホホ。何かしら?」
「まず一つ目に、各国の戦力が低すぎます。それをどうにかしてください。今回、ベルアナ魔帝都に攻めてきた中に<大魔導士>を始め、<拳闘士>、<暗殺者>、その他にも数名の上位職が居ました。現状、上位職数人を一気に対処できる国は少ないと思いますが……違いますか?」
「我が輩やコリントなら、上位職如き――」
「そうではなく。ヴノ魔皇帝やコリント魔皇帝が強いのは重々承知しています。ですが、お二人の不在時に別の人が対処が出来るのか? って話なんです。ぶっちゃけますとこの世界自体、レベルが低いって言ってんですよ」
俺の言葉に各国の王たちは様々な反応を示す。
「オホホホホ。この世界? ミラダリアと同じ言い回しをするのね?」
「当然ですよ。ミラや俺は別の世界から来ましたから」
俺の言葉と同時にグロース・アザレア・グレミー・ヘンリー・ガンディ・クラフト・ランパートの七人とその護衛の数名が目を見開き驚いたような表情をする。
そうだった。
アザレアたちには“未来から来た”って言ってたわ。
という事は……。
俺が後ろをチラッと一瞥するとヴィクトリアとヘスス以外が反応を示していた。
カトル・ポル・フェイはキラッキラと目を輝かせており、ミャオとリヴィは俺を睨みつけている。
睨むんじゃない。
未来も別の世界もさして変わらんだろ。
というか、ヘススは知らなかったハズだけど本当に動じない奴だな。
そんなことを考えているとアザレアが口を開く。
「……別の世界?」
「はい。魔物も居らず、ステータスも無く、スキルも無く、魔法も使えなければ、武器も必要ない、そんな何もない退屈な世界から俺は来たんですよ」
「嘘だよ。じゃあ、なんでタスク君は強いのかな?」
俺は少し返事を溜め、全員を見渡す。
さあ、ココからが本題だ。
「“知ってる”からですよ」
俺の答えを聞いた、ほぼ全員の頭に疑問符が浮かぶ。
「俺は“知ってる”から強くなれるんです。レベルの効率的な上げ方も。多種多様なダンジョンの攻略法も。各種スキルの入手方法も。レアアイテムの入手方法も。下位職から最上位職までの各種昇格スクロールの入手方法も。そして……今ここに居るほぼ全員が何度も冒険者を派遣した北の大陸内部の情報すらも。全部、知ってるんです」
その場の空気が凍り付き、静寂に包まれる。
そんな中、全員の視線はラシュムに向いていた。
ラシュムが一度頷くと視線は俺に戻ってくる。
それを見た、俺は言葉を続けた。
「だから、俺が持つ情報を知りたいという国には開示して、戦力の底上げをしてもらいたいと思ってます」
「待った! グランツメア王国……いや、タスク君相手に建前はやめよう。それは僕、個人としても喉から手が出るほど知りたい情報だよ。でも、それを話してタスク君に何のメリットがあるんだい?」
「俺の時間が増えます」
「時間? それはメリットなのかい?」
「はい。各国の戦力……もとい兵の個人個人のステータスが上がれば、今回のような問題や犯罪が減り、俺たちが面倒事に巻き込まれなくなります。ただでさえ有名なクランというのは事ある毎に引っ張りまわされると聞いていますので。俺はそれが嫌なんですよ。俺は仲間と一緒にこの世界を思う存分愉しみたい。俺は仲間との時間を何より大切にしたい。ただそれには時間が必要なんです。人種である俺は寿命、いや現役で居られる時間が短いですから。それも足りなすぎる位に」
再び静寂が訪れる。
ここからが二つ目の“お願い”だ。
「ですので、情報が欲しい方は俺と取引しましょう!」
「オホホ。それに見合う対価なんて無いのではなくて?」
「ありますよ。対価は二つ。一つは俺たち『侵犯の塔』への直接依頼は極力避ける事です。ですが、どうしようもない時は依頼して頂いても構いません。そして、もう一つは『推薦状』を書いて頂く事です」
「推薦状!? 『侵犯の塔』は北の大陸へ渡るつもりなのかい!?」
「はい」
「危険……ではないのか。タスク君は“知ってる”んだったね。それなら帰ってくるよね……」
「はい。必ず帰ってきます。ランパート王、貴方の妹は俺が死なせません」
「うん。信じるよ。僕はその取引、喜んで受けよう」
ランパートの言葉を皮切りにその場に居る全ての国が俺の取引に応る事となり、俺は全員分の『推薦状』を手に入れた。
俺が心の中でガッツポーズをしているとコリントの呟きが耳に入ってくる。
「オホホ。これでもう野蛮人とやり合う理由も無くなったわね」
「ん? どういう意味ですか?」
「あの野蛮人の所は資源が多いじゃない? だから、襲ってきた仕返しに国ごと奪ってやろうとしてたのよ。だけれど、タスクがいろいろと教えてくれるなら奪う必要もなくなるって意味よ」
「オイ、ゴラ!! 蛇女!! オマエ、そんな理由でオレたちの国に度々攻撃してきてやがったのか!?」
「オホホ。そうよ。でなければ、あんな土臭く泥臭い所に子供たちを送り出したりしないわよ」
「あんだと!? オマエやっぱ殺す!!」
「オホホホホ。やってみなさいな? 逆に息の根を止めて差し上げますわ」
立ち上がった二人はバチバチと睨み合う。
もう好きにしてくれ。
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