104話:怒号
コリントが扇子を翳した。
すると、武器を構えている兵士たちの足元から紫色の茨が地面を突き破り生えてくる。
その茨は瞬く間に兵士たちの脚にグルグルと巻き付き拘束した。
<呪賢人>スキル『ブラッドソーンバインド』:茨による行動阻害+微ダメージの蓄積。
「オホホ。滾る。滾るわ! ヴノ、イリアス、行くわよ」
「御意!」
「おうよ!」
コリントの言葉にヴノは翼を広げ、イリアスは大盾を構える。
「オホホ。坊やたちは先に行ってなさいな。ここはわらわたちで十分。すぐに追いつくわ」
そう言ってコリントは扇子を振る。
すると、イリアスは『パワーランページ』を発動させて兵士の群れに突っ込んだ。
まるでボウリングのピンの様に吹っ飛ばされる兵士たち。
イリアスが足を止める頃には兵士の群れの中に一本の道が出来上がっていた。
……十分? オーバーキルの間違いでは?
恐らく<重騎士>のイリアス。
<呪賢人>のコリント。
『鷲獅子』の進化個体である『嵐神鷲獅子』のヴノ。
兵士からすれば悪夢だろうな。
可哀想に。
「わかりました。出来るだけ死人は出さないで下さい。操られてるだけかもしれないんで」
「オホホ。甘いわねえ。でも、いいわ。ヴノ、イリアス! 聞いたわね?」
「御意」
「我が輩とて加減はする。だが、保証は出来んな!」
そう言いながらヴノは茨に拘束された兵士を鉤爪で切り裂く。
今の一撃で死んでない? まあ、攻撃スキルや魔法スキルを使ってないだけ手加減はしているな。
「はい。もうそれでいいです。では、先に行ってますね」
そう言い残した俺を先頭に『侵犯の塔』のメンバー、ランパート、クラリス、ヘンリー、ヘンリーの護衛の九人はイリアスが作った道を駆け出した。
門を潜り、街中を走っている時、リヴィに話しかける。
「どうだった?」
「……凄かった。……私にあんな凄い事が出来るようになるの?」
「なる。それどころかリヴィはもっと凄い事が出来るようになるぞ」
言葉話聞いたリヴィの口元が緩み、ボソリと呟いた。
「……楽しみ。」
いいぞ。
もっとハマれ。
そうすれば、最ッ高にダンジョンが愉しくなる。
これはコリントに感謝しないといけないな。
攻撃する事があまり好きじゃないリヴィに最上位職バッファーのスキル、それも『行動阻害』というモノを実際に見せてあげる事が出来たのはデカかった。
ミャオ、ヴィクトリア、ヘススにも手本を見せてやりたい所だが、最上位職なん……て。
待て? 最上位職、居るじゃねえかよ。
ゼムは聞いた事もないって言ってたけど居たじゃねえか。
てことは、他にも探せば居るのか? 可能性は十分にあり得る。
後でコリントかヴノに聞いてみるか。
あの六百歳を優に超えてる長寿共なら何か知ってるだろ。
そんなことを考えながらしばらく走っていると、俺たちは巨大な城の入り口に到着した。
灰色のレンガが組まれたような外壁、等間隔に並べられたガラス窓、真正面から見たら左右対称に見える綺麗な造形をした、どこか中世のヨーロッパを思わせる城の入り口には、三つの人影があった。
日が傾く中、三つの人影の瞳は白銀色に輝いている。
どうやら左右二人は男で中央の一人だけは女のようだ。
「お母……様?」
俺の後ろからそんな声が聞こえた。
まあ、そうだろうなとは思ったよ。
馬鹿みたいに似てるからな。
髪の色といい、瞳の色といい、顔立ちといい、体形といい、双子かな?と思うくらい。
「久しぶりね。ヴィクトリア。まさか生きていたなんて思ってもいなかったわ」
「……え?」
「だって、そうでしょう? 国王であるヨハンを殺したのよ? 実娘である貴方が罪に問われない訳ないじゃない」
ニヤニヤと嘲笑するヴィクトリアの母親。
それを呆然と見ているヴィクトリア。
「黙れ」
ヴィクトリアの母親は声のした方を見る。
その視線の先に居たのはランパートだった。
「あら? 貴方、ラン――」
「聞こえなかったか? 僕は黙れと言ったんだッ!!」
会った時からずっとニコニコとしていたランパート。
だが、今はそれが全て仮面であったかの様に憤怒の表情を浮かべている。
「お前が全て悪い訳じゃない事くらい頭では理解してる。だけど、僕はどうしてもお前だけは許す事ができない。何年経っても瞼の裏に残って消えないんだ。お父様の亡骸を見つめているヴィクトリアの表情が……。あの涙を流している横顔が……お前が泣かせたんだ。僕の大事な妹を。……わかるか? “エリザベート”。ヴィクトリアの痛みが。義兄の僕ですらこんなに胸が痛むんだぞ?」
憤怒の表情を浮かべたまま淡々と話すランパートは大きく息を吸い込む。
そして――。
「仮にも母親だろうがッ! 自分の娘を傷付けたまま放置してんじゃねえぞ! ア゛アッ!?」
激昂したランパートなど見た事が無かったのか、エリザベートと呼ばれたヴィクトリアの母親とヴィクトリアは固まっていた。
するとランパートは真っ直ぐとエリザベートを見つめたまま、俺に語り掛ける。
「タスク君、僕に譲ってくれ。アイツは僕がやる」
「どうぞ」
「ありがとう」
そのために連れてきたんだから。
だけど――。
「負けないでくださいよ?」
「もちろん。意地でも負ける訳にはいかないだろう?」
俺を横目で見るランパートはニコリと笑う。
すると、上空から大きな羽音と共に声が聞こえてきた。
「カカカ。聞こえていたぞ、ランパート。それなら我が輩らがその小童らを抑えてやる」
「オホホ。たった二人じゃ物足りないけど仕方ないわね」
そんなことを言いながら地面に降り立つヴノとコリント。
「もう終わったんですか?」
「ああ。縛り付けて見張りにイリアスを置いて来た――」
俺がヴノと喋っていると、エリザベートの隣に居た男の一人が物凄い勢いで襲い掛かってくる。
その白銀の瞳からは何の感情も感じとれなかった。
<魅了>か。
本当に胸糞悪い事をするな。
俺がスキルを発動させようとした瞬間、男の頭をヴノが鷲掴みにして浮かせる。
浮かされた状態の男は腕を振り足を振りと暴れていたが、次第にミシミシという骨の軋む音が鳴り始め、少しすると男の両手足がブランと力なく落ちて動かなくなった。
「たわいも無い」
「殺してないですよね?」
「ああ。潰さんように加減した」
「そうですか。それより、守ってくれてありがとうございます」
「カカカ。何を言ってる? タスクならどうとでもできただろう?」
「まあ、そうですけど。一応」
俺は喋りながらもう一人の男の動きを確認しようと辺りを見渡す。
すると既にコリントに捕まっていた男の姿がそこにあった。
「問題なさそうなので、俺たちは中へ行きます。ヴノ皇帝、この場をお願いします」
「ああ。我が輩はデカすぎて入れん。真祖は任せたぞ」
「はい。俺たちが潰してきます」
「危なくなったら、外まで逃げて来い。いつでも加勢できるようコリントと準備しておく」
「ありがとうございます」
とは言っても逃げる気は更々無いがな。
真祖は俺たちが潰す。
誰にも譲りはしない。
俺たちは城の中へと歩を進めようとした、その時。
「通す訳がないでしょう?」
エリザベートが俺たちの方へと駆け出し襲い掛かってきた。
だが――。
「よそ見しない方がいいぞ」
俺がそう言うのと同時に、ランパートの『ランページ』がエリザベートを襲う。
真横から衝突されたエリザベートは数メートル吹っ飛び壁に激突した。
それを横目に俺たちは城の中へと侵入する。
その時、背後から小さく声が聞こえてきた。
「妹を任せたよ『侵犯の塔』」
ああ、任せとけ。
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