99話:VSローパ
~Side:ミャオ~
見覚えのある黒いローブ。
アタシを殺そうとした男。
アタシを助けに来てくれた赤いウサギを殺した男。
そんな男が今、目の前に居る。
正直、別の意味で少し怖いッス。
何というかこの人、狂ってるっぽいッスからね。
あんまり相手にはしたくはないんッスけど、この状況はさすがに見過ごせないッス。
「動くと撃つッス」
アタシは男の数メートル後方で弦を引絞り、構える。
男の周りではベルアナ魔帝都の住民と思わしき魔人たちが次々と息絶え、ドロドロとした血を口や鼻から流し地面に血溜まりを作っていた。
しばらく黙っていた男は急に笑い出し、こちらを振りかえる事なく話し始める。
「あはっ! その声、今思い出したあ~! 聞き覚えがあると思ったら、俺っちに殺されかけてたネズミじゃな~い? 元気になったんだあ~。良かった、良かったあ~」
相も変わらず、癇に障る喋り方をする男。
「なんでここに居るッスか?」
「何でだろお~? 仕事お~? 趣味い~? 暇つぶしい~? まあ~、何でもいいじゃあ~ん?」
「そうッスね。それじゃあ大人しく捕まるッスよ」
「やなこったァ~!!」
男は振り向くと同時に『クイックスロー』を発動させ針を投擲する。
飛来した針はアタシに届く寸前の所で“何か”に弾かれ、地面に落ちた。
「あァ~?」
「……やらせない。」
<風属性魔法>スキル『ウィンドウォール』:風の壁を作り出す。
<強化魔法・風>スキル『ウィンドブースト』:風属性魔法の威力上昇。
――同時発動。
吹き荒れる風の防壁がアタシの周りを包み込んでいた。
「ソコのネズミと一緒に消えたエルフもどきかあ~」
「……武器を捨てて。」
「はあ~い。捨~てた!!」
そう言って男は『オーバースロー』を発動させ、針をリヴィに向けて投擲した。
<土属性魔法>スキル『ソイルウォール』:土の壁を作り出す。
<強化魔法・土>スキル『ソイルブースト』:土属性魔法の威力上昇。
――同時発動。
リヴィの目の前に土の防壁が現れ、針が二本突き刺さる。
一本は針の中腹まで、もう一本は先っぽだけと浅く刺さっていた。
「……スキルを使わない投擲。」
「あ~、もうバレたのお~?」
「……小細工は意味無い。……あなたの攻撃はもう私に届かない。」
「それはあ~――」
男は短剣を抜き、真っ直ぐリヴィに向かって駆け出す。
「どうかなァ~! ……ッ!?」
刹那、男は勢いよく転倒した。
そのままの勢いで地面を滑る。
「はァ~?」
壁に当たって止まった男は驚愕の表情を浮かべる。
リヴィは遠くから男を見つめ言葉を投げた。
「……届かない。」
その言葉を聞いて立ち上がろうとした男は、痛みで顔を顰める。
今、気づいたのだろう。
右足首の裏が抉れている事に。
「アタシはちゃんと動くと撃つって言ったはずッスよ」
壁伝いに立ち上がった男に喋りかけると、キョロキョロと辺りを見渡し始める。
「何処だァ~?」
男はアタシを見失っていた。
それもそのはず。
男がリヴィに視線を向けた瞬間『メルトエア』で気配を遮断し、物陰に隠れていた。
アタシと同じ<暗殺者>が相手となれば、アタシがされて嫌だと思う“自分は相手を視認できていて、相手には視認されていない”という状況が最適と判断したからだ。
タスクさんは対人戦では、相手の嫌がる事をしろって言っていたッス。
「どこでもいいじゃないッスか。早く武器を捨てて、投降した方がいいッスよ」
そう言うと、男の目の色が変わる。
恐らく『ロケート』を発動させたのだろう。
<盗賊>スキル『ロケート』:気配察知。
しかし――。
「無駄ッス。アタシは『ロケート』の範囲外に居るッスから。アタシも<暗殺者>って事を忘れてないッスか?」
明らかにイライラとし始めた男は、リヴィを睨む。
そして『オーバースロー』を発動させた針を投擲する。
「……無意味。」
またも土の防壁がそれを阻む。
すると男はフードを脱ぎ、頭を掻きむしりながら叫ぶ。
「あああああ!! 愉しくないいいいい!! もっと殺し合いをしようよおおおおお!! なんでなんでなんでなんでなんで!! 足りない足りない足りない足りない足りないいいいいい!!」
男は足の痛みを感じていないかのようにリヴィに向かって駆け出す。
『パワーショット』発動。
アタシは既に狙いを定め、引絞っていた弦を離す。
風切り音と共に男の左足首の裏を抉り、鮮血が舞う。
再び男は体勢を崩した。
が、男はそのままの体勢でアタシが居る方向に『クイックスロー』で針を投げてきた。
恐らく、矢の飛んできた方向で位置を突き止めたのだろう。
アタシは咄嗟に回避しようと思ったが、その必要はなかった。
男が針を投げるのと同時に、男を包むように風の防壁が出来ていたのだ。
防壁に阻まれた針はカランッと音を立てて地面に落ち、両足首の裏の抉れた男も正面から地面に倒れた。
そこへリヴィが近付いて行く。
男の一メートルほど手前まで来たリヴィは足を止め、両膝を地面について座った。
「リヴィ、危――」
リヴィの表情を見た瞬間、途中まで出かかったアタシの言葉は止まった。
あの時と同じ。
怒っている。
「……言ったよね。」
「はあ~?」
「……許さないって。」
「知らねえなあ~!」
男はうつ伏せのまま『クイックスロー』を発動させ針を投擲しようとする。
しかし、針が手を離れる前にアタシがその右手首を『コンパクトショット』で撃ち抜いた。
その間もリヴィは微動だにせず、ジッと男を見つめている。
リヴィはアタシが守るって信じてくれてるんッスね。
嬉しいッス。
「……何度言ったらわかるの?」
「……」
「……私には届かない。」
「……ぷっ! あはっ! あはははははははははは~!」
男は笑いながら左手に針を持つ。
アタシは左手首を撃ち抜いた。
「……大人しく捕まって。」
「まだあ~! まだ、まだまだ、まだまだまだ…………」
ひたすら「まだ」という言葉を繰り返しながら芋虫の様に地面を這いずる。
男は地面に落ちていた針を口に咥え、リヴィの方へと近付いて行く。
アタシは魔法鞄から矢を取り出し、弦を引絞る。
『パワーショット』発動。
男に狙いを定め、弦を離す。
矢は一筋の線を描き、男の後頭部に直撃した。
辺りに『ゴツッ』という鈍い音が響き渡る。
男は白目を剥き、動かなくなった。
もちろん、殺してはいない。
今撃ったのは、ゼムさんに頼んで鏃の部分をミスリル製の丸い球に改造してもらった特殊な矢だ。
以前、ポルたちと虫捕りに言った時に普通の矢ではダメージが通り過ぎるという理由で作ってもらっていた物だけど。
念のために魔法鞄に入れといてよかったッスね。
そんなことを思いながら、リヴィの居る場所へと戻っていく。
すると、アタシを見つけるなり駆け寄って来てお礼を言われた。
「……ありがと。」
「え? なんでリヴィがお礼を言うッスか?」
「……守ってくれたから。」
「それはリヴィも同じ事じゃないッスか。ありがとッス」
コクリと頷くリヴィの顔には少し陰りが見えた。
「どうしたッスか?」
「……この人はどうなるんだろ?」
「多分、死刑じゃないッスか? こんだけ人を殺してるんッスから」
「……だよね。」
「それでウサギさんが報われると良いッスね」
「……うん。」
その後、アタシは衛兵さんに男を引き渡し、リヴィと共に城へと向かった。
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