98話:VSドーサ
~Side:ヴィクトリア~
『ブンッ』
風切り音を鳴らしてドーサの拳が私の横を通過する。
『ブンッ、ブンッ』
右、左、と何度も放ってくる拳を避け続ける。
速く鋭い拳ですわね。
ですが、動作の一つ一つが大振りでお粗末。
当たる気がしない。
これは……残念ですわね。
私はドーサが拳を突き出したと同時に、懐へ潜り込む。
そして『マグナム・メドゥラ』を発動させ、鳩尾目がけて右ストレートを叩き込んだ。
硬い。
以前、タスクを殴った時ほど硬くはないが、質が違う。
タスクが鉱石なら、ドーサは石壁。
ビクともしないのだ。
「ッ!?」
刹那、私の右肩に痛みが走った。
それと同時に、数メートル左方へ吹っ飛ばされる。
「ヴィクトリア!」
「ヴィクトリアちゃん!」
数回地面をバウンドした後、その勢いのまま私は立ち上がった。
「この程度、問題ありませんわ」
「やっぱり、お前強いなあ。俺の攻撃で倒れない!」
ドーサは満面の笑みを浮かべ、私を見る。
「やっぱり僕も戦うよ」
「オレも手を貸すぞ」
「ステイブ様、クラフト様、お申し出は感謝致します。ですが、結構ですわ。アレは私の獲物ですの」
私は先程、戦闘に参加しようとしたクラフトとステイブを制止していた。
ドーサが私と同じ『ファスト・ステージ』を発動させたのだ。
それすなわち、ドーサも私と同じ<拳闘士>という事。
負ける訳にはいかない。
<光属性魔法>も使わない。
真っ向勝負あるのみ。
私は自分でもわかるほど気持ちが昂っていた。
「でも、危険――」
「結構ですわ」
「あの、話を――」
「結構ですわ」
「ヴィクトリ――」
「結構ですわ」
「わかったよ……」
「フンッ! 頑固な奴だなオマエ」
そう言うとクラフトはドカッと街路の端に座り、声を荒げる。
「だが、危なくなったら手を出すからな!!」
「それで構いませんわ」
「無茶はしちゃだめだよ?」
「お気遣い感謝致します」
ステイブもクラフトの隣に座った。
すると、ドーサが口を開く。
「話は終わったか?」
「ええ。律儀に待って頂かなくても宜しかったですのに」
「お前、馬鹿か? 正面から強い奴を倒すから愉しいんだろうが!」
「そうですわね」
私は構えを取り、一気に駆け出す。
硬いのなら、貫いてしまえばいい。
ドーサの懐に潜りこんだ私は『イラ・メドゥラ』を発動させ鳩尾に右ストレートを叩き込む。
が、ビクともしない。
……ここ!
私が屈むと、頭上で風切り音が聞こえる。
「躱した! お前、やっぱり強いな!」
「余裕綽々で言われても嬉しくないですわ」
私は屈んだままの体勢から、『マグナム・メドゥラ』を水面蹴りの要領で放つ。
上半身が駄目なら下半身を責めるだけ。
私の水面蹴りがドーサの脚に当たり、鈍い音が響く。
それと同時に、私は軸足に力を籠め後方に飛び退いた。
すると、私が屈んでいた場所を上から叩き潰すように振り下ろされた拳が通過し、地面を抉る。
上半身も下半身も硬いですわね。
それなら、更に強い力で且つ、急所を狙うだけですわ。
『セカン・ステージ』発動。
私はもう一度ドーサの懐に潜り込む。
そして、今度は喉仏を目がけて『イラ・メドゥラ』を発動させ右ストレートを叩き込んだ。
「ゴホォッ!!」
「まだまだ終わりませんわよ」
次に『マグナム・メドゥラ』を発動させ顎に左アッパーカットを叩き込む。
すると一瞬、ドーサの膝がカクンッと折れた。
が、ドーサはと骨を鳴らしながら拳を握りこみ――。
『ブオンッ』
拳を振って来た。
後方へ回避したので当たりこそしなかったが、私は意識を刈り取るつもりで顎を突き上げたはず。
それなのにドーサは今も満面の笑みで私を見ていた。
「しぶとすぎますわよ?」
私はドーサの振り回す拳を躱しながら、距離を詰める。
右こぶしを握り、唯一効いた喉仏を狙う。
『イラ・メドゥラ』を発動させようとしたその時――。
ドーサは『イラ・メドゥラ』を発動させた、右拳を私の顔目掛けて放ってきた。
私は咄嗟にその場で屈み、回避する。
スキルを発動させる前で助かりましたわね。
それにしても、今の今まで『ファスト・ステージ』以外のスキルを使いませんでしたのに……。
今更スキルを使った事が気になりますわ。
攻撃系スキルを警戒してなかったわけではない。
同じ<拳闘士>という事は初めからわかっていた。
だからこそ、攻撃系スキルを使って来ない事をずっと疑問に思っていた。
すると、ドーサが思いもよらない“答え”を口にする。
「おおー。俺にも使えた」
!? もしかして、知らなかったんですの?
……心外ですわ。
……非常に不愉快ですわ。
……自分のスキルすら熟知していない方を相手に。
引く事など、恥でしかありませんわッ!!!
私は勢いよく駆け出し、ドーサの目の前で足を止める。
ドーサが不思議そうに私を見てくるので、片手を前に出しクイックイッと挑発した。
それを見たドーサは『イラ・メドゥラ』を発動させ、私の顔面目掛けて右ストレートを放ってきた。
私は首を傾け、スレスレの所で躱す。
お返しとして私は右拳を握り『マグナム・メドゥラ』で顎にアッパーカットを叩き込む。
クリーンヒットしたにも拘わらず、笑っているドーサ。
すると、左拳で『マグナム・メドゥラ』を返してきた。
私はすぐに『ラピード・メドゥラ』を発動させ、ドーサの左拳を左拳で弾き飛ばす。
前屈みになり、体勢を崩すドーサ。
そのがら空きの蟀谷に『イラ・メドゥラ』を発動させた右フックを叩き込んだ。
ドーサは脳を揺らされ、足元が覚束無い様子。
『サード・ステージ』を発動。
私は左拳を強く握り、リキャストタイム空けの『マグナム・メドゥラ』を顎に叩き込む。
左ストレートを顎に食らったドーサは膝を地に付けた。
「チェックメイトですわ」
私は顎目がけて『イラ・メドゥラ』を発動させた膝蹴りをぶちかます。
膝を付いた状態で私の膝蹴りを食らったドーサの顎は跳ね上がり、そのまま後ろに大の字で倒れ込んだ。
「スキルを熟知してから出直す事をお勧め致しますわ……って、もう聞こえてないですわね」
踵を返し、ステイブとクラフトが座っている方に行こうとしたその時、背後から衣擦れの音が聞こえた。
私は勢いよく振り返る。
立っていた。
確実に意識を刈り取ったはず。
それなのにドーサは立ち上がっていた。
ドーサはゆっくりと口を開く。
「お……前、名前……は?」
「……ヴィクトリア。ヴィクトリア・フォン・ハプスブルクと申しますわ」
「お……ぼ、え……た、ぞ」
それだけ言うと、ドーサは大の字で地面に倒れ伏した。
「恐ろしい奴だな」
クラフトがうつ伏せ状態で倒れているドーサを見下ろしながら言う。
「全くですわ」
「それにしても、ヴィクトリア! オマエ強いなあ!!」
「ありがたく存じますわ」
「オレの勘だが、タスクも相当強いだろ!?」
「ええ。私など足元にも及びませんわ」
「そんなにか!?」
「タスク様だけではありません。『侵犯の塔』の全員、私から見れば化け物ですわ」
私の言葉を聞いたクラフトとステイブは唖然としている。
事実、アタッカー勝負でミャオに勝てる気がしない。
魔法においても、ヘススやリヴィに勝てる気がしない。
ポルにはまだ負ける気はないが、あの子はいずれ化け物になる事はわかりきっている。
私は……。
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