雑話:モーハ
父親はレヴェリア聖国の司祭。
母親は敬虔な信徒。
そんな両親の元に生まれた私。
暮らしこそ慎ましかったものの、どちらかと言えば裕福な家庭で育った私は神殿ではなく、神学校で幼い頃から読み書きは勿論の事、神学や他学問を学ぶ事ができた。
本来、学校というものは王族や貴族、裕福な家庭の子供しか通うことは出来ず、読み書きは神殿で勉強する。
しかし、全てに恵まれていた私は神学校に通うことができ、成績も良く、性格も穏やか、集団の中ではみんなを率いるリーダーを担う事が多かった。
順風満帆な人生。
ああ、なんと素晴らしい事でしょう。
男神様は私を愛してくださっている。
だが、一つ。
私にはどうしても理解できない教義がある。
それは。
『生きとし生ける人種・獣人種・亜人種・魔人種は皆平等であり、齢十の時、男神様の御加護、天啓を授かる事が出来る』
という一説。
そんなわけないでしょう。
『人種以外の獣人種・亜人種・魔人種は力を求めた挙句、人種が異形化。堕落した者たちのなれの果て、神に反目した咎人の姿。その咎人に対し罰を与える為に我々信徒が存在する』
という私の考えの方が正しいに決まっています。
現に、男神様は我々と同じ人種の御姿をされている事が何よりの証拠です。
人種に魔獣や魔物を混ぜた姿など言語道断。
その間違いを誰も指摘しないのは何故なのでしょう。
それだけがずっと理解できないでいる。
その答えを私は思いがけない形で知る事となった。
――数年が経ったある日。
私は私用で街へと出かけた時の事。
街で獣人種と楽しげに話している友人を見かけた。
友人が獣人種に向ける表情は普段、私と接する時と何ら変わりがない。
何故、私が獣人種風情と同じ扱いをされているのでしょう? と思った私は少し話があると友人を街路に連れだし、なぜ獣人種と仲良く話しているのかと問い詰めた。
すると、友人は何故問い詰められているのか分からないといった様子で、先の獣人種との馴れ初めを話し始める。
私は友人の言う事が理解できなかった。
途中から苛立ちを隠せなくなった私は、友人の話を途中で遮り帰宅する。
獣人種が友達? よく一緒に遊ぶんだ? 職業が同じなんだ? 友人は気でも狂ってしまったのでしょうか?
それとも……。
その日から私はさり気なく、様々な人に他人種をどう思っているか聞きまわる。
家族はもちろん、友人や他の信徒、さらには司教様と話す機会にも恵まれ、多くの人に聞くことが出来た。
結果、他人種を悪だと思っている者は誰一人としていなかった。
あり得ない。
そんな事、決してあってはならない。
私は愕然とした。
だが、絶望はしなかった。
そうです。
まだ、私が居るじゃあないですか。
男神様に愛された、“この私”が。
何とかしないといけませんね。
これは恐らく、男神様が私に与えた試練。
多くの人が間違いを説いているこの世界を正すため、自分は生まれてきたのでしょう。
間違いありません。
そう思った私は、貪欲に力を求めた。
物理的な力はもちろんいる。
なんせ今の私では、獣人種一人を殺すのがやっとの事なのだ。
権力や知力も必要になる。
無策無謀に他人種へ戦いを挑み、死ぬなどあってはならない。
男神様から与えられた試練を乗り越えるまでは意地でも死ぬ訳にはいかないのだ。
この頃から私は、自分以外の人種を“一つの駒”というような認識に変えた。
正しい考えを持っていない人種など、私にとっては世界を正すための駒にしか過ぎない。
ああ、可哀そうに。
間違った教義を植え付けられたばかりに教皇も、枢機卿も、大司祭も、両親も、友人たちも皆、私の駒になってしまいます。
ですが、心配しなくても大丈夫。
すぐに私が救ってさしあげます。
ですから、男神様、少しばかり私に時間をください。
こうして私は世界を正すための準備を開始した。
まず、私が行ったのは、間違った教えに染まりきっていない人たちに教義を説いて回る事だった。
しかし、多くの人は私を適当にあしらうだけで全く相手にされない。
分かり切っていた事です。
男神様が簡単な試練などお与えになる訳がない。
そう思っていたのだが、どうやら違ったようで私には元々、人を先導する才能があったらしい。
数日のうちに十数人が私に付き従ったのだ。
子供や主婦、年齢や性別も様々で、その中には知っている信徒の姿もあった。
確信した。
やはり、私が正しい! そして何より、男神様は私の味方をしてくださっている! これに勝る幸福はない。
それからというもの私は毎日、少しずつ勢力を広め、なおかつ自身の修練も怠らずレベルを上げ続けた。
そして、学校を卒業し、私が二十歳を迎えた頃“殺人一家”という集団に目を付ける。
『殺人一家』とはレヴェリア聖国、グランツメア王国、クラートラム帝国の三国の国境が交わっている付近で幅を利かせている粗暴な集団であった。
というのも私は今、戦闘のできる駒が欲しかったのだ。
今いる駒は一般人に毛が生えた程度の戦力しかない。
長年をかけて大人数になったとはいえ、実際に他人種と渡り合える者など一人もいなかったのだ。
故に『殺人一家』に近付いた。
数人、腕がたつ者を引き抜ければいいぐらいの感覚であったのだが、どうやら男神様がまたもや味方をしてくださった。
なんと、数日前に『殺人一家』の頭目が死去し、次代の頭目が誰かという事で組織が割れていたのだ。
そこに私が丁度よく現れた、というわけだ。
早速、私は毅然な態度で話を始める。
内容は、破落戸集団である『殺人一家』が微塵も興味を持たないような現在の教義への指摘と改正案について。
だが、『殺人一家』の多くは食い入るように私の話を聞いていた。
挙句の果てには私に『殺人一家』の頭目をやってくれと向こうから頼んでくる始末。
間違いない!! 私が正しい!! ああ、男神様、私が世界を正しましょう! こんなに頭の弱そうな荒くれ者集団ですら、私の考えを理解することが出来たのです! 誰しもが理解できなければおかしいでしょう?
しかし、中には私の話を胡散臭い思う者がおり、その者たちは『殺人一家』を抜けて行った。
今はそれでも構いません。
いずれわかる事です。
私が正しかったのだと。
私は男神様に愛されているのですから。
その後、私は巷で噂になっている強者たちに声をかけ、手中に収める事で更なる力を手に入れた。
そんな私は今では、レヴェリア聖国の枢機卿という立場と『殺人一家』のクランマスターという二つの立場を持っている。
そして二人、思いもよらない程の大物が『殺人一家』に加入した。
フラフラと色々な街を歩き回り、息を吸うように人を殺す、黒いローブを着た男、“ローパ”。
強き者とギリギリの殺し合いをする事しか頭にない大男、“ドーサ”。
彼らは“駒”としてではなく、味方として見てもいいかもしれない。
自分の目的に従順なところは好印象すら覚えたほどだ。
男神様の次に頼りになる二人を連れて歩く。
さあ、開幕です。
行くとしましょうか。
咎人の王たちを殺して、世界を正すために。
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