93話:前日会議(下)
『ズドォン』
視認できない速さで飛来した一本の矢は魔物の頭に風穴を空け、俺の目の前の地面に突き刺さった。
その矢は魔物の頭を貫通してもなお勢いが衰える事は無く、地中深くまで刺さり矢筈すら見えなくなっている。
頭を貫かれた魔物が粒子化する中、俺の背後に一人の女性が音もなく現れた。
「アッカーン! 六等級程度じゃペラすぎて相手にならんわ」
「オイ」
「タスク! 次は八等級辺り行かへん? 素材集めってのはわかってんねん! せやけど、退屈やわ」
「コラ」
「なんやねん」
「危ねえだろうが」
俺が地面に空いた穴を指さしながら言う。
「何がや?」
「お前な。魔物を貫通した後、俺に当たったらどうする」
「フレンドリーファイアないやん。それにタスクなら当たっても痛ないやろ?」
ニシシと歯を見せながら笑う彼女は“ミラダリア”。
『流レ星』に所属するアタッカーの一人だ。
名前の由来は本名を捩っていると聞いた事がある。
「いや、これは普通に痛いだろ。俺の<RES>を簡単に貫きそうな威力出てるぞ?」
「いちいち細かい事気にしてたらモテへんで?」
「今、俺とお前の二人しかインしてねえから細かくねえんだよドアホ! 妹、連れて来い!」
「あの子はまだ仕事中や。観念しい」
「それなら、威力落とせよ」
「アカン! それだけはアカン!! ウチのプライドが許さへん!」
「そうかよ」
「せや」
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
ミラダリア。
その名前を聞くと今でも思い出す。
一撃の威力に特化しきった『流レ星』のアタッカー。
ミラもこの世界に来ていたのか? だが、ミラのアイテムは『いにしえの皇城』に残っていた。
来ているのであればアイテムくらい持っていくはず。
じゃあ、人違いか? いや、『流レ星』の事や俺の事を知っている時点で本人だろう。
「……サン?」
声が聞こえる。
「タスクサン?」
「どうしたッスか?」
心配そうに俺の顔を覗き込むミャオとフェイ。
その後ろでは暗い顔をしたリヴィが立っている。
「あ、ああ。すまん。考え事してた」
「……ミラダリアさんって人の事?」
「ああ」
「……やっぱり知ってる人なの?」
「多分、元クランメンバーだ」
「……そっか。タスクさんを捜してたらしいよ。」
「そうか。今どこにいるとか聞いてるか?」
「……わからないって言ってた。……四十年前くらいの事らしいし。」
は? 四十年前? ミラがIDOにログインしなくなったのは、ほんの一年半ほど前だぞ?
俺の知っているミラだと考るなら可能性は――二つ。
『この世界と元の世界とでは時間の流れが違う』か『そもそも別の時間軸に飛ばされた』のどちらかだろう。
「そうか」
「……捜すの?」
「捜さねえよ」
「……え?」
俺の返答が予想外だったのかリヴィは首を傾げる。
第一、捜したところで俺はミラの顔を知らない。
長年一緒に遊んでいたが、リアルの顔を知っているのは『流レ星』の中でも一人だけだ。
IDO時代のアバターならともかく、俺が元の世界と同じ顔、同じ体をしている以上、ミラもそれは同じと考えた方がいいだろう。
そんな顔も知らない元仲間を捜す事に時間を潰すより、今居る仲間との時間を大事にしたい。
「俺を捜してたんだったら、向こうから訪ねて来るだろ」
「……そうだね。」
「そんな顔すんな。ミラが来ても俺は居なくなったりしねえよ。言ったろ? 今はお前たちが仲間だって」
「……うん。」
先程までの暗い顔は消え、リヴィは安堵の表情を見せる。
すると、リヴィの背後からアザレアがひょこッと顔を出す。
「なーんかタスク君ってさ、リヴィちゃんにだけえらく優しくないかな?」
「そんな事ないですよ」
「僕にも優しくしてほしいんだけど?」
「優しくしてるじゃないですか。そんな事よりもヘンリー皇帝との話は終わったんですか?」
「あー、逃げた。まあ、話って言ってもクラートラムの現状確認しただけだしすぐに終わったよ。これからお城に戻ってグレミーのお手伝いをするつもり」
「そうですか」
「うんうん! でね? 帰る前に僕から『侵犯の塔』に依頼を出したいんだけど、いいかな?」
「何ですか?」
「秘密裏に会場の警護をしてほしいんだ」
だろうと思った。
円卓会議の情報が相手方に筒抜けになっていた場合、邪魔が入るかもしれない。
それが万が一の可能性だったとしても他国の王を招いている時に襲撃されたとなれば、ベルアナ魔帝国の沽券にかかわる。
だからと言って、ベルアナ魔帝国の皇帝であるグレミー本人が俺たちに頼むことは無いだろう。
それをすれば、自国の兵たちを軽んじる事になってしまうからだ。
「優しいんですね」
「長い付き合いだしね。タスク君たちなら何が来ても止めれるでしょ?」
「グロース王の付き添いで会場内に入りますから、俺は警護には参加できないですよ」
「それでもお願いしたいかな」
「わかりました」
「ありがと! それじゃあ、また明日ね!」
アザレアは満面の笑みで手を振りながら部屋を出て行った。
それを見送った後、グロースとヘンリーを部屋に残し『塔』のメンバーを別室に呼び話し始める。
「『塔』に依頼だ。内容は秘密裏に会場を警護する事」
「秘密裏ってどういう事ッスか?」
「そのままの意味だ」
「……そのまま?」
「ああ。会場には従来通りの警備兵が居るからな。それと合同で警護するんじゃなくて、何かあれば俺たちが手を貸すって事だ」
「畏まりましたわ。ですが、タスク様はグロース様の護衛依頼を受けられていたのではありませんの?」
「そうだ。だから俺は居ない」
「その事を依頼主は知っているのであるか?」
「知っている。それでもお願いしたいとの事だ」
「でもさ、何もなかったら暇だよ?」
「数人で交代制にして暇な奴は観光でもしてていいぞ」
「ほんとー? やったー! フェイ案内してー?」
「良いデスよ」
「他に質問のあるやつはいるか?」
いなさそうなので、続けて口を開く。
「もしも何かあった時の判断は各自に任せる。だが、いつも言っているように危険だと思えばすぐに撤退しろ。いいな?何があってもだ。お前たちの命より重たい物はどこの世界にも存在しない。それがたとえ各国の王の首だったとしてもだ」
「それはそれでどうなんッスか?」
「物の例えだ。とにかく、命を落とす可能性のある事だけは絶対にやめろ」
「了解ッス」
「……了解。」
「畏まりましたわ」
「承知」
「はい!!」
「ハイ!」
「はーい」
「んじゃ、解散」
そう言って俺が部屋を出ると、そこにはグロースとヘンリーが立っていた。
グロースは俺に近付いてくると、意地の悪そうな笑みを浮かべながら口を開く。
「我の命よりクランメンバーの命を優先するのだな?」
「当然ですよ」
即答した俺を見てグロースはポカンと大口を開けた後、腹を抱えて笑いだした。
その後ろで俺とグロースのやり取りを見ていたヘンリーは困惑した表情で問いかけてくる。
「タスクはシャンドラ王国民じゃなかったのか?」
「一応、シャンドラ王国民ではありますよ」
「では何故、自国の王を見捨てられる? 何故、そのように軽んじれる?」
「別に軽んじてるわけじゃないですよ。クランメンバーは他の何を差し置いても守りたいってだけです」
「そんなに?」
「はい。『侵犯の塔』の仲間たちを守れるなら、自分ですら見捨てますよ」
だからこそ俺は“守護者”という職を選んだのだ。
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