92話:前日会議(上)
イシュトゥラルト精霊国から戻って来た夜。
俺が泊まっている部屋でゆっくりしているとクラートラム帝国から戻って来たカトルとヘススが俺の部屋を訪ねて来た。
何事かと思い詳しく話を聞いてみると、グランツメア王国のランパート国王から聞いた話をしてくれた。
「は? 真祖?」
「うん。確かにそう言ってたよ」
真祖って吸血鬼族の始祖だよな? それが何で人間の国であるクラートラム帝国に居るんだ? ……今、考えても仕方ないか。
そんな事よりだ。
「それで? 何でそれを聞いてクラートラム帝国に行ったんだ? 危険だとは思わなかったのか?」
俺はカトルとヘススに向け、少し強い口調で言い放つ。
「何も知らぬフリをしていれば問題ないと判断した。ランパート王の言葉の真偽がわからない以上、多少危険であっても情報を集めておいた方がいいと思ったのである。すまなかった」
「いや、しっかり考慮した上での行動なら助かる。ありがとな。それで、何かわかったのか?」
「うむ。ランパート王の言葉は全て事実のようである」
となれば円卓会議での議題も変わってくるな。
それに問題点が幾つかある。
その中でも今考えるべきなのは三つだ。
一つ目は、円卓会議の情報が筒抜けになっているという可能性がある事。
何もなければいいんだが、明後日の円卓会議で邪魔が入る可能性も否めない。
念のため明日の内に手回しとくかな。
二つ目は、レヴェリア聖国について。
数年前に教皇が変わったという話は聞いていたが、ランパート曰くレヴェリア聖国も被害を被っている側で前教皇は“とある集団”に暗殺されているらしい。
そして空いた教皇の座に就いた当時の枢機卿には真祖の息が掛かっているという。
では何故、教会が魔人種を差別をしているのか。
繋がりがないというカムフラージュかとも考えたが、差別などせずとも繋がりがあるとは思われない筈だ。
三つ目は、真祖について。
IDO時代に吸血鬼族という種族は存在していたが、真祖なんてものは聞いた事がない。
カトルやポルのような特殊な職業を持っているとは限らないが、ヴィクトリアの<血操術>に似た種族スキルを持っている可能性が高い。
相手にするのは相当厄介だな。
他にも幾つか問題点はあるが真祖の考えていることがわからない以上、俺がウダウダ考えていても仕方がないか。
「そうか。あと、ランパートから聞いた話をヴィクトリアには話したのか?」
「まだ話していないのである」
「ポルが伝えてるって事は?」
「ないよ。タスク兄に話してからの方がいいんじゃないかって三人で決めてたし」
「そうか」
「どうしよう? やっぱり言った方がいいのかな?」
「いや、そういう事は当人同士のほうがいいだろ」
「であるな」
「わかった!」
――翌日。
俺はゼムとロマーナと使用人を除いた『塔』のメンバーを宿の一室に集めた。
すると、俺たちが集まっている部屋の扉がノックされ、グロースとアザレアが入ってくる。
「失礼するよ!」
「朝から呼び出すとは何事なのだ?」
昨晩、へススとカトルと話した事を何度も説明するのは面倒だったので二人を呼んでおいたのだ。
本当はグレミーにも来て欲しかったのだが、円卓会議の会場がベルアナ魔帝都の城だった事もあり、各国の代表たちを出迎えなければならないとの事で断られた。
「わざわざ足を運んで頂いてありがとうございます」
「よい。お主らには遠方まで手紙を届けてもらったのだ。この位はさせてもらう」
「うんうん。何よりタスク君の頼みだしね?」
「そう言って貰えると助かります。早速ですが――」
俺は昨日聞いた事を全員に話し始める。
内容はヴィクトリアが国外に追放された理由を省いたクラートラム帝国とレヴェリア聖国の内情だ。
すると話しの途中に“真祖”という言葉が出た瞬間、苦虫を噛み潰したような表情でヴィクトリアが立ち上がる。
その瞳は殺意に満ちていた。
ヴィクトリアの殺したい相手ってのは“真祖”で間違いなさそうだな。
「待て」
立ち上がり扉に手を掛けたヴィクトリアに声をかける。
「何ですの?」
「何処へ行く?」
「……」
「座れ」
「何故ですの?」
「そんなに急がなくても真祖には鉄槌を下す。お前の父親であるグランツメア前王だけじゃなく、レヴェリア前教皇まで手に掛けてるって事はヘススの悩みの種でもある。勝手は許さん」
「ですが――」
「聞こえないか? 俺は座れって言ったんだ」
振り返ったヴィクトリアが俺の表情を見た瞬間、ビクッと肩を上げ視線を逸らし席に座った。
頭に来ているのはお前だけじゃない。
俺の好きな世界を汚したんだ。
俺の仲間たちを傷付けたんだ。
俺の目的の邪魔をしたんだ。
大丈夫だ。
真祖は何があっても潰す。
それは決定事項だ。
ヴィクトリアが座ったのを見て、先ほどの話の続きを始める。
「――というわけで俺からの話は以上です」
「俺からのってどういう意味かな?」
アザレアの質問と同時に隣の部屋に続く扉が開く。
扉の先からは一人の男の子が出てきた。
「詳しくは朕が話そう」
「お主、ヘンリーか! 何故ここにおるのだ!?」
「昨日、ヘススたちに連れて来てもらった」
「そうか。無事そうで何よりなのだ」
俺の話を聞いてからずっと不安そうな表情をしていたグロースだったが、ホッと胸をなでおろしていた。
どうやらヘンリーの心配をしていたようだ。
グロースにも年の近い息子や娘がいるので無理もない。
「申し遅れてすまない、アザレア殿。朕はヘンリー・フォン・キンスキー。現クラートラム皇帝だ」
「初めましてだね。知ってるとは思うけど僕はアザレア・ツー・リレイドア。元からタスク君の話は信じてたけど、このタイミングでヘンリー皇帝が出てきた事でさらに話の信憑性が増したね。狙ってた?」
「別に狙ってたわけじゃないですよ。詳しい質問はヘンリー皇帝にしてくださいって事です」
「ふーん。丸投げって事かな?」
「簡潔に言えば?」
きゃははッと笑うアザレアはヘンリーの方に向き直り、幾つか質問を投げかけている。
すると、ヴィクトリアが席を立ち俺の方に近付いてくる。
「タスク様、一つお聞きしても?」
「ん?」
「おに――ランパート様は何か仰っておられましたか?」
「俺からは何も言えん。何でそれを俺に聞くんだ?」
「ヘスス様やカトル様やポル様にお聞きしても教えて頂けませんでしたので」
「そうか。ランパート王本人に聞いてみたらどうだ? 今日、ベルアナ魔帝都に来るはずだし」
「そうですわね……」
そう言って表情に影を落としたままヴィクトリアは席に戻っていく。
恐らく、会う気は無いんだろうな。
ヴィクトリアが追放された時、兄弟たちとどんな別れ方をしたかは知らない。
だが、笑顔で別れた訳ではないことだけはわかる。
血を分けた妹とはいえ国外に追放された者なのだ。
会いづらいのだろう。
そんなことを考えているとヴィクトリアと入れ違いでリヴィが近付いてくる。
「……タスクさん。」
「ん?」
「……私からも話があるんだけど。」
「どした?」
「……ヴノ・ツー・グリフォールさんって知ってる?」
「マグニゲイル魔帝国の皇帝だろ? ――あ、言い忘れてたけど鷲獅子だったろ? 大丈夫だったか?」
「……大変だったよ。」
「すまん」
「……うん。……会ったことある?」
「無いな」
「……やっぱり。」
リヴィの言葉に首を傾げているとミャオが話に入ってくる。
「タスクさんの事知ってたッスよ! “ミラダリア”さんって人から聞いたらしいッス!」
「……は?」
聞き間違いか? ミラは『流レ星』のメンバーだぞ?
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