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暖かなベッド

作者: ネクロ眼鏡
掲載日:2019/07/27

 レナに幸せとは何か尋ねてみた。


「寝床、食事」


 枕を抱え込んで寝たまま返事が来る。白綿のネグリジェから伸びる白い脚、その脛(すね)には年頃には似合わない無数の切り傷がある。

 思っていたより即物的な答えだ。


「とつぜん、何……?」


 音のない小さな欠伸。目尻を拭いながらレナが身を起こす。シーツの上で昼下がりの光に包まれた彼女の姿は精霊を思わせた。人ならざる、触れられぬ者。


「いや、ちょっと気になってな」


 俺は言葉を濁す。特に何かを思っての質問ではなかったからだ。

 強いて理由を探すならば、彼女の持つ雰囲気そのものだろうか。一人を生きてきたとは思えない穏やかな時の流れが、彼女の中にはあるように思う。その理由が知りたい。


「なぜかも聞いていいか?」


「変なユーオ」


 レナが笑って、俺を見る。触れたくて、でも触れられない微笑み。彼女にどう接すればいいのか今も分からない。

 レナの唇が動く。


「それがあれば、生きていられるから」


 淡く穏やかだったレナの輪郭がくっきりと見える。瞳に宿る光のせいだろうか。回答には強い実感が込められている気がした。


「生きていられれば、幸せなのか?」


「うん。とても難しいことだと思うから」


 生きるのは難しい。レナの言葉は、暗に彼女自身の険しい過去を物語っているようだ。


「頼れる先はなかったのか」


「うん。誰もいなかった」


 話とは裏腹に、レナは澄んだ目をしている。悲しみや苦しみの先が見えている気がした。


「寂しくなかったのか」


 答えは聞かなくても分かりそうな問い。レナは瞳を丸くした。


「考えたこともなかった」


 そして、下を向こうとして、再び俺を見て笑った。


「今はユーオがいるから」


 澄んだ目が、真っ直ぐ俺だけを映す。誤魔化しにしては、その眼差しはあまりにも美しかった。

 思わず椅子から腰を浮かせた俺に、レナがベッドから右手を差し出す。


「手、繋いでくれる? 少しでいいから」


 痩せ細った指が、俺の手を絡め取る。促されるままベッドに倒れ込んだ。


 目を閉じ満足げに息を漏らしたレナの寝顔を眺める。まつ毛が長い。切れていた唇は、少しは治り掛けているみたいだ。


「寝床、食事、ユーオ」


 寝顔のままにレナが呟いた。その口の端が僅かに上がっている。

 遊ばれている。思いながらも俺はレナの手を強く握り返した。

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