暖かなベッド
レナに幸せとは何か尋ねてみた。
「寝床、食事」
枕を抱え込んで寝たまま返事が来る。白綿のネグリジェから伸びる白い脚、その脛には年頃には似合わない無数の切り傷がある。
思っていたより即物的な答えだ。
「とつぜん、何……?」
音のない小さな欠伸。目尻を拭いながらレナが身を起こす。シーツの上で昼下がりの光に包まれた彼女の姿は精霊を思わせた。人ならざる、触れられぬ者。
「いや、ちょっと気になってな」
俺は言葉を濁す。特に何かを思っての質問ではなかったからだ。
強いて理由を探すならば、彼女の持つ雰囲気そのものだろうか。一人を生きてきたとは思えない穏やかな時の流れが、彼女の中にはあるように思う。その理由が知りたい。
「なぜかも聞いていいか?」
「変なユーオ」
レナが笑って、俺を見る。触れたくて、でも触れられない微笑み。彼女にどう接すればいいのか今も分からない。
レナの唇が動く。
「それがあれば、生きていられるから」
淡く穏やかだったレナの輪郭がくっきりと見える。瞳に宿る光のせいだろうか。回答には強い実感が込められている気がした。
「生きていられれば、幸せなのか?」
「うん。とても難しいことだと思うから」
生きるのは難しい。レナの言葉は、暗に彼女自身の険しい過去を物語っているようだ。
「頼れる先はなかったのか」
「うん。誰もいなかった」
話とは裏腹に、レナは澄んだ目をしている。悲しみや苦しみの先が見えている気がした。
「寂しくなかったのか」
答えは聞かなくても分かりそうな問い。レナは瞳を丸くした。
「考えたこともなかった」
そして、下を向こうとして、再び俺を見て笑った。
「今はユーオがいるから」
澄んだ目が、真っ直ぐ俺だけを映す。誤魔化しにしては、その眼差しはあまりにも美しかった。
思わず椅子から腰を浮かせた俺に、レナがベッドから右手を差し出す。
「手、繋いでくれる? 少しでいいから」
痩せ細った指が、俺の手を絡め取る。促されるままベッドに倒れ込んだ。
目を閉じ満足げに息を漏らしたレナの寝顔を眺める。まつ毛が長い。切れていた唇は、少しは治り掛けているみたいだ。
「寝床、食事、ユーオ」
寝顔のままにレナが呟いた。その口の端が僅かに上がっている。
遊ばれている。思いながらも俺はレナの手を強く握り返した。




