エピローグ
「さぁて、と。じゃ僕らも退散しますか」
「そうだな」
咲良たちの、その一部始終を見届けた彼らはそんな会話を始める。その口ぶりは、先ほどまで殺し合いをしていたとは思えないほど軽い。スゥッと、ユウの姿が元の人の姿に戻る。
その言葉を聞いた咲良は、慌てて二人を引き留める。
「ち、ちょっと待ってください」
「ん? どうしたの?」
「お二人は結局、なんだったんですか?」
「あー、んーそれね……ユウ、いいかい?」
レイがユウへ振り向いて聞く。ユウはやれやれと首を振ってそれに答える。
「駄目だといっても言うんだろ? どうせ後で記憶処理を受けてもらう。問題ないだろう」
聞こえてきた不穏なワードに、咲良は思わずビビり、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「そんな怖がらないでって。とって食うわけでもないんだからさ。僕たちは“クロスクロノス”。化け物狩りを専門とする銀十字をぶら下げた正義の味方さ」
「クロス、クロノス……」
「そ、カッコいいでしょ。で、僕たちはその日本支部に所属する狩人。そこの彼女――香取絵里を追って、ここまできたんだ」
まるで漫画か小説のような話だ。しかし、先ほどまでの惨劇や戦闘の痕が、この話が嘘ではないと証明している。
「その、つまりえーと……お二人はえりちゃんのようなのを倒す組織に属していて、日本支部ということは、そんな組織が、全世界に存在するってことですか?」
「ま、そんなとこ。すごいでしょ?」
「もういいだろ。あとで俺たちの仲間がお前のところに行くから、ちゃんと処理してもらえ」
ため息をついたユウが、踵を返そうとする。しかし、それを咲良は引き留める。
「ま、待ってください! もう一つ、もう一つだけ、お願いします!」
「……なんだ?」
顔をしかめたユウの、その鋭い目をしっかりと見ながら咲良は言った。
「わ、私を、その、クロスクロノス? に入れてください!」
「はあ?」
「あっはははは!」
その言葉に、ユウはあっけにとられ、レイは腹を抱えて大爆笑する。
「却下だ。力もない一般人など何の役にもたたん」
即座にユウに拒否されるも、咲良は引かない。彼の体にすがって、言葉を継ぐ
「なんだってやります! 訓練でも、雑用でも……捨て駒だってやります! だから、お願いします!」
「ああ、おい、この……!」
振り払おうとするユウの手をかいくぐって、みっともなくともすがる。
「全世界でこんな事件が起きているんでしょ!? 私もそれを止める……その一端だけでも担いたい! 私は今日、四人も大切な人を喪った! こんな思いを他人に味わってほしくないんです! それに――」
そうだ、私は決めたのだ。
「私は明日へ進むと決めたんです! だから連れて行ってください!」
それまで邪険にしていたユウは、その言葉を聞いて苦い顔をする。そうして少し空を見上げ、ため息を一つつく。
「気持ちは分からんでもない。だが、さっきも言ったが、力のないものは必要ない。……レイ、笑ってないでお前からも何か言ってくれ」
ユウは、爆笑しているレイに加勢を求めるが、なぜか彼女の笑い声は、ますます大きくなる。
「あははははは!」
「……なぜ余計にひどくなるんだ」
「いやぁだってさぁ、気に入ったのならそう言えばいいのに。そう突っぱねなくったって、ねぇ。……あははは!」
レイはそう言ってユウを茶化す。そして、半笑いで咲良へと向く。
「でも確かにね。雑用するだけの人員なんていらないし、捨て駒なんて邪魔なだけだ。だから君は力を示さなきゃいけない」
その顔こそ笑っているが、言葉は、そしてその眼は、全く笑っていない。咲良は一瞬、体をすくめてしまう。だが、それでもまっすぐ彼女の目を見返す。
「ど、どうやって示せば?」
「えーとね、はい! 何が見える!」
ピッとレイは人差し指を立てる。何をしなければならないのかと身構えていた咲良は、気が抜けたように答える。
「ご、合格……?」
その人さし指からは、うっすらと、銃にまとっていたものと同じ、青いオーラで合格、と描かれていた。その回答を聞いたレイは満足そうにうなずいた。
「そう、描いてある通りさ」
「おいレイ。ちょっと待て」
慌ててユウが制止するも、レイはあっけらかんとしている。
「さっきのすっごく薄く出したんだ。それでも彼女にははっきり見えてた。たぶん眼がいいんだろうし、才能もありそう。鍛えればいい狩人になるよ」
「……はぁ。分かった、分かったよ。連れていけばいいんだろ」
降参とでも言うように、ユウは両手を上げてため息をついた。それを見て、咲良は飛び上がらんばかりに喜ぶ。
「じゃ、じゃあいいんですか!」
「不本意だがしょうがない。……ほら」
ユウが差し出した右手を、咲良はがっちりとつかんだ。
「とりあえず、自己紹介だ。俺はユウ、こいつは――」
「僕はレイだよ。もう知ってると思うけど」
あらためてそう名乗った二人に、咲良は勢いよく礼をして、大きな声で自分の名前を名乗る。
「一之瀬咲良と言います! よろしくお願いします!」
それを見たユウは、今度こそくるりと背を向けると歩き出しながら言った。
「じゃあ、ついてこい」
「不愛想だねぇ、あれ絶対照れ隠しだよ。ね、咲良ちゃん」
「あ、アハハ……そう、なんですか……?」
「次言ったら、二人そろってその口を縫い合わせてやる」
「おーこわ。怖いねー咲良ちゃん」
「あー、えー……」
答えに困りながら雑談をしていた咲良は、ふと空を見上げ立ち止まる。
「どうかした? 咲良ちゃん」
「グズグズするな」
前を行く二人が、立ち止まって振り返る。
「あ、いえ、なんでもないです。そういえばレイさん、ハンカチ、ありがとうございました!」
「ああうん、それはあげるよ! うん、記念記念!」
「あ、ありがとうございます! 大切にします!」
「さすがに、鼻水かんだのはね……」
「? 何か言いました?」
「いいやなんでも。 さ、行こう、置いてかれるよ!」
「え、わわ! 待ってくださ~い!」
その夜空を目に焼き付けて、咲良は慌てて彼らを追いかけていく。
落ち着いたら思いっきり泣こう。おばもおじも親友たちも、愛する彼らを喪った哀しさがないわけじゃない。だから思いっきり泣こう。そして全部吐き出して、それでまた前に、明日に進むのだ。ほかならぬ自分のために。
雲一つない夜空には、大きな満月が輝いている。そこにもはや一切の妖しさはなく、柔らかい月の光は、ただただ彼らの行く先を照らしていた。




