王太子VS俺 ‐ヒロインと悪役令嬢は割と空気です‐
「セラフィーナ・エルフィストーンッ!!エルフィストーン侯爵家の令嬢であり私の婚約者という身分にありながら、嫉妬と欲望に駆られここにいるテルシェに対し数々の許しがたい行為を行ったっ!!その許しがたい蛮行は婚約者としても貴族としても不適切であるっ!私クリスティアン・ルイス=エヴァンスは、今日この日をもってセラフィーナ・エルフィストーン侯爵令嬢との婚約を破棄し、昨今聖女として名高いギャヴィストン子爵家令嬢テルシェを婚約者とする事をここに宣言するっ!!」
ザワッ!!
エヴァンス王国王立学園の卒業パーティーの会場は、和やかな雰囲気を一変し、不穏な空気に満たされた。
その騒めきを止めるかの様に檀上で一際輝く容貌の男が緩やかに片手を挙げた。
まるでそれが合図だったかのだろう、控えていた年若い兵士が一人の女性をその場に組み伏せた。
兵士の目は怒りに満ちており、その感情に任せ貴族の令嬢に対するとは思えない勢いで力任せに床へと組伏せた。
王太子の言葉に一瞬にして静まり返った会場のそこかしこからは小さく悲鳴があがり、会場の中央にはぽっかりと人々から避けられた空間が出来上がった。
「お待ちくださいっ!クリスティアン様っ!!」
年若いとは言え鍛え抜かれた兵士の腕から逃れる様に体を捩った令嬢が、辛うじてといった様子で首を持ち上げ視線を王太子に向け精一杯の声を張り上げた。
「…名を呼ばれるのも虫唾が走る…しかしまぁ、いいだろう。つい先程まで婚約者であったからな…罪状は明らかであるが…何か言いたい事があるならば聞こう」
冷ややかな視線を向けた王太子が最後の慈悲であるといった言い回しで声を掛けた。
「…ありがとう存じます…。…この婚約破棄は、国王陛下は…ご存知なのでしょうか…」
まともに声を発するのも難しい姿勢のまま、苦悶の表情を浮かべた令嬢が問いかけた。
「…父上…国王陛下には、まだ申し上げておらん。しかし、多くの証拠もあり言い逃れできぬ状況ゆえ、いい機会なのでこの場を借りたまで…何ら問題はない!」
吐き捨てる様な王太子の言葉に会場が小さく騒めいた。
「…国王陛下がご存知ではない…。…それがどういう事なのか理解されているのですか…?私達の婚約は言わば王命です…そこに如何なる理由があれど…承認なしに婚約をっぐっぅああぁ!!」
王太子の視線が一層鋭さを増すのに合わせ兵士が腕に更に力を込めた。
組伏せられた令嬢の髪が乱れ、それだけで何百…いや、何千もの民の生活を賄えるであろうティアラが零れ落ち宝石が宙を舞った。
____
「…もったいね…」
おっと、ついうっかり声が漏れてしまった。
俺は、舞台の袖で魔道具の最終調整を進める手を止め慌てて口を塞いだ。
あぶねぇあぶねぇ…
スイッチが入ってなくって助かった…
つい数ヵ月前から学園に出入りをしていたが、まさかこんな場面に出くわすとは想定外だ…
これあれじゃね?良くある乙女ゲーのワンシーンみたいじゃね?
そんな事を考えながら持ち歩いていたノートパソコン風魔道具に手を伸ばした。
俺がこの世界に転生してかれこれ16年。
魔法という概念にどっぷりと漬かり続け、気が付けば魔道具を自作できるまでになっていた。
今、エヴァンス王国王立学園に出入りしているのもこの学園に俺の作った最新の魔道具をテストも兼ねて導入し成功の暁には王城にも配備されるという名誉あるお仕事の真っ最中なのである。
まぁ、最新の魔道具といっても現代社会においてはありふれたものなのだが…
発明家の方々には少々申し訳ないが、現代社会の便利さを魔法で再現できないかと…俺もめちゃくちゃ苦労したので勘弁してもらえればなぁと…
んで、今俺がこうしている間にも表舞台の方では、ブチギレ気味の王太子様がなんとかって令嬢に罵声を浴びせている。
俺が思ってた貴族と違って、実際は優雅でもなんでもなくって、ドロドロギスギスとまぁ正直お近づきにはなりたくないような人だらけな訳だが、この王太子様はその中でも親の七光り丸出しの芸能人の顔だけ二世といった感じで俺の知る国王陛下とは天と地ほどの差がある。顔だけはそっくりなので托卵とかじゃないと思うが…
王太子様が「ならば聞かせてやろう!」なんて胸を張って罪状を読み上げているが…
脅迫・強要行為、器物破損、監禁等々…
極めつけは殺人未遂だそうだ…
あんたら、学園から出てないやんけ…いつ監禁されるんだよ…
寮生活でしっかり管理されてただろうが…
そんな事を考えながら学園の入退記録に目を走らせる。ついでに外泊記録も。
んで?殺人未遂の犯行現場は学習棟の三階の階段で?風魔法を使って背中を押された…だっけ?
学園内で個人使用を禁止されている攻撃魔法を使用しての犯行は悪質…ねぇ…
いや、魔法でばっさりやればいいじゃんか…なんで風で背中押すんだよ…回りくどいだろうが…
はぁー…正直面倒ではあるのだが…そろそろあの令嬢が可哀そうだし…
自分の成功の為にも動くか…
先程から背後にいる存在に合図を送ってから俺は手元のスイッチを入れた。
____
ガガーッ!!キィーーーーーーーン!!
「何事だ!?」
王太子が声を張り上げた。会場内に悲鳴が巻き起こる。
ガガーキィーン!!…ガッ!!…ボフンボフン
『あーあーっ!マイクテス、マイクテス…』
突然会場全体に響き渡った声にその場の人々が天を見上げる。
中には「え?神様?!」なんて声もあった。そりゃそうだ…初めての物にはそういう反応もあるよな。
「何者だっ!姿を現せっ!!魔族かっ!?」
王太子様が勇敢にも声を掛けて来た。
『大変失礼しました。私は神様でも魔族でもありません。現在、王命に於いて最新式魔道具のテストを行っております。ノイズ及び音量の調節が完了致しました。魔導式拡声装置のテストを終了いたします。続きまして、魔導式スクリーン及びスクリーン転写装置のテストと共に、個人情報ではありますが魔導式学園データベースより一部の情報を転写致しますのでご覧ください』
そう声を掛け、手元のスイッチを操作すると舞台の中央に純白のスクリーンを下した。
人々の視線が下りて来たスクリーンに注目したところで一つのデータを映し出す。
『今ご覧いただいてるのは、最新の魔道具導入に伴い三ヵ月に渡り収集されたある生徒の記録です。全生徒の寮や学習棟への出入り時刻を管理し生徒の素行調査の一つとして記録されています。これは各出入口にあるセンサー…感知装置が自動的に検知し記録しています。また、同時に授業への出席日数や食堂の利用率等、学園運営にあたり必要な情報が全て個人単位で記録されています』
俺の説明にピンと来ているのか来ていないのか、並んだ数字を見た人々がポカンと口を開けている。
もうちょっと踏み込んで説明しないとダメっぽいな…
『えーでは、折角ですので細かく説明いたします。今ご覧いただいているのは、ギャヴィストン子爵家令嬢テルシェさんの物です。左上のマークは、授業の出席率を表示しており…この場合、授業の出席率は100%!全て出席していると言う事になります。また、外泊届は一切でておらず、学園内から出た記録もありません。…その代わり、帰寮時刻が非常に遅い事が見て取れます。では、どこにいたのか…記録は棟の出入り口単位で行われていますので、様々ではありますが主に…実習棟の様ですね。この様に、生徒の学習意欲等を出入口を記録することによって図る事ができるのがこの魔道具です!しかしっ!ここで終わる魔道具ではありません!なんと、日付と出入口を指定する事によってその日の何時に誰が通過したのかを見る事もできます!!実習棟の出入口と日付を入力すると…このようにっ!!…テルシェさんが色んな方と実習棟を出入りしているのが見えるのです!』
スクリーンに映し出されたのは、放課後の実習棟の出入り記録。
どんだけの男とふたりっきりで出入りしてるんだ…開いた口がふさがらねえ…
学習意欲をーとは言ったが、この記録を見てそう思うやつはほぼいないだろう。
当のテルシェちゃんは、顔が真っ青である。
王太子様は、名前のある男子生徒を次々と睨み付けている。
名前が出てしまった男子生徒たちは、自分を棚に上げて信じられないといった様子で目を白黒。
面白くなって参りましたっ!次だっ!
『これは導入にあたってのテストですので実際に配備される場合は生徒が監視されているとストレスを感じない様に配慮される予定となっておりますのでご安心下さい。それでは次の記録をご覧ください』
スクリーンの内容が切り替わって、疑問を含んだざわつきが響く。
『えー、こちらの記録は、学園規則のとある項目を記録したものです。学園には攻撃魔法の使用を禁じる項目がありますが、これまでは周辺にいた教員が検知し発覚した場合のみ処罰の対象とされてきましたが、教員による検知では不十分であるという考えから学園内全域に検知装置を設置し、攻撃魔法に限らず全ての魔法が使用された場合記録される様になっています。それでは、某日の記録を確認してみましょう。この日の放課後に記録された魔法は六ケ所。いずれも実習棟で行われており、教師立ち合いの元での追試の魔法試験の物でした。そのほかの場所での魔法は、いかなる魔法も含め使用されていません』
その説明を聞いた王太子が声を上げた。
「それは本当に正確なものなのかっ!!試験導入といっていたはずだ!!間違いもあるだろう!!」
そうだそうだ!と、認めたくない人々からも囃し立てる声が上がった。
『ありえません。この導入試験は、動作上の確認ではなく併用した場合の不具合の試験です。問題なく動作した段階で事実上の試験は終了しています。お疑いでしたら、今お試し頂ければ…』
「どう試すというのだ!!」
『では、王太子殿下が三名の側近を指名してください。その三名に、それぞれ何の魔法を使うか指示を出します。指示を受けた生徒は教員を伴って建物の外、お好きな場所で魔法を使用してください。あ、あまり遠くに行かないで下さいね。結果が遅れるといけないのですぐ帰って来られる場所が宜しいかと思います。魔法が使用されれば凡その場所と魔法の種類を検知し即座にスクリーンに映し出されます。答え合わせをして終了です。どうですか?』
「わかった。では、ディフロム!グラバット!!アイルセン!!来いっ!!」
王太子様が側近三名に声を掛けひそひそと話をはじめた。
それを黙って見つめる観衆…その目がかなり冷ややかな物となってきているのに本人たちは気が付いているのかいないのか…
話しが終ったのか三名が一斉に動いた。一人は会場の入り口へ、一人は会場の階段を上がっていき、一人は裏口に向かった様だ。それを慌てて近くの教員が追いかける。
少しして、二つの魔法が観測されスクリーンに映し出された。
一つの魔法が観測され、小さく歓声が上がり、二つ目の魔法が観測されると感嘆の声があがった。
そして…三つめがすぐに観測されるはずだったのだが、一向に表示がされない。
二つの観測場所を見るに、屋上と裏庭。正面の入り口に出た生徒の魔法が観測されていない…
これは…どういう事だ…
そう長い時間ではない、しかし1分、2分と経つにつれ会場がざわつき始める。
そんな馬鹿なっ!!俺の考えた魔導装置は完璧だったはずだっ!!
この学園の敷地内であれば優にカバーできる!そもそも王城用の設計だからこんな規模では収まらない!何度も実験を重ね、どんな些細な魔法でも検知出来る様にしたはずだ!いや、したんだっ!
一瞬で背中がぐっしょりと濡れるのが解った。
なんで!どうしてっ!こんな事在り得ない!!!マズイ…マズイマズイマズイ!!
これでは、王城配備どころの話ではない!俺の生死に関わるっ!
「おい!どおしたっ!!いつまでも3つ目が出ないぞ!!!!」
王太子が叫ぶ。
「全てを観測とか嘘じゃないか!!」
「じゃあさっきまで見せられていた物もウソなんじゃないか!?」
王太子の側近たちが次々と声を上げる。
『まっ!!まだ、魔法を使っていないのかもしれないっ!もう少しお待ちくださいっ!!』
「そんなもの待っていられるかっ!いい加減、姿を出せ!切って捨ててくれる!!」
全身の毛穴が開いたかのように汗が大量に流れ、視線が上手く定まらない、手が震えて確認作業もおぼつかない…おかしい、なんで!どうして!!
「私のテルシェがこの様な辱めを受けたのだ、覚悟があっての事だろうなっ!!誰かは解らぬが絶対に許さんぞっ!!!!!!」
王太子が怒気を強め、喉がつぶれんばかりに叫んだ。
バーーーンッ!!!
王太子の叫びと同時に会場の入り口が勢いよく開かれた。
「国王陛下のお成りである!!!」
白銀の鎧に身を包んだ近衛兵が堂々たる振る舞いで高らかに声をあげた。
「ち…父上!!おっ、お待ちしておりました!!」
「クリスティアン!何度言えば解るのだ!!祝いの席とはいえ、私は国王としてこの場に居る!場を弁えよっ!」
「こ…国王陛下…、申し訳ありません…」
「…うむ。してクリスティアンよ、私の眼が耄碌していないのであれば、お前の婚約者であるセラフィーナ嬢が兵士によって貴族としても令嬢としてもありえぬ辱めを受けている様に見えるのだが…」
「はい!耄碌など飛んでもない!国王陛下に置かれましては…」
「その様な事は聞いてはおらぬ!!何故、セラフィーナ嬢があのような侮辱を受けており、お前はそれを助けるでもなく飄々としておるのかと聞いている!!」
「そっ、それはっ!あの者は、嫉妬に狂い私の愛するテルシェに罪深き行いをしたのです!故に、拘束し婚約を破棄致しました!あのような女は王太子の婚約者に相応しくありません!!」
「ほう…王命である婚約を破棄したと…お前はいつから王より偉くなったのだっ!仮に、その罪とやら本当だったとして嫉妬して何が悪い。高々子爵家の小娘であろう。代わりはいくらでもおる、しかし侯爵家ともなれば話は別。血の重さには代えられぬ!!お前も王族ならばその重み、理解しておろうが!!!」
国王陛下の怒声に王太子が声にならない声を上げようとするが、国王陛下は言葉をつづけた。
「とはいえ、血の重みだけで全てを決めては国は立ち行かなくなる。民あっての国である。一度表に出てしまったものをうやむやにしては怨恨も残ろう…」
「そ、そうです国王陛下!!時には身分に勝るものがございます!!」
「一理ある。しかし、此度の件。影から報告は受けておったが、静観してみれば酷い有り様。どのように始末をつけるのだ?」
「すでにご承知でしたか…報告が遅くなり申し訳ございません。しかしながら、この程度の事私の力で解決できると思いまして、全てが終った後に報告させて頂くつもりでした。王命である婚約を勝手に破棄した事は処罰を受けます…。ですが!私は許せなかったのです!あの女は、己が身分を使いテルシェに対して人として許しがたい蛮行を行いました!!私の婚約者に相応しくありません!!いえ、それでは足りません!私は国外追放を望みます!!」
「ふむ、その蛮行とやらの証拠は?」
「はい!テルシェがセラフィーナを見たと言いました!風の魔法もセラフィーナの得意な魔法です!!」
「それは証拠ではない。当人の証言などあてにならん。風の魔法についても、証言であり、現に魔法検知の魔道具には示されておらん。」
「証言で何が悪いのです!それに、あの魔道具はとんでもない不良品です!現に魔法を検知できませんでした!」
「魔法を検知できなかった?」
「はい、先程実験を行い、実際に入り口側の魔法を検知できませんでした!!」
誇らし気に語る王太子を横目に国王が目配せをする。
それを見た白銀の騎士が背後から、縛り上げられた男子生徒を前に出した。
「ディフロム!!これはどういう事ですか!!」
王太子が男子生徒に駆け寄り、国王陛下に問いかけた。
「その者はな、扉から突然飛び出してきてな…攻撃魔法を使おうとしておったので近衛兵が察知しすぐに捉えたのだ。魔力の方向がこちらに向いてないとはいえ、攻撃魔法。王たる私の前で許される事ではない。」
「で…では、魔法は発動しなかったのですか…?」
「そうなるな。事情は教員から聞いておったがな」
「そ…そんな…」
王太子が膝から崩れ落ち、助けを請う様にテルシェに視線を合わせる。
当のテルシェはすでにそれどころではなく、カタカタと震え視線を彷徨わせている。
「オーステル!!あれを映せ!!」
『ふぁ!?え?あっ、あれですね!お任せください!』
突然国王陛下に声を掛けられた俺は変な声が出てしまったが、大慌てで画像を切り替えた。
「説明せよ!」
『はい!!!こちらに表示されましたのは、魔法検知の特殊項目です。一般的な魔法は、瞬発的に魔力を発し現象を引き起こしますが、こちらの特殊項目で検知されているのは瞬発的な物ではなく長時間にわたる魔法を検知しています。これにあたるのが有名なものでは、探索系や検知系の魔法や肉体強化系の魔法、範囲型の障壁魔法等です。あまり知られていないもので言えば、上位の広域攻撃魔法の一部のものがこの部類にあたります。このタイプの魔法は一回の判定が大変難しく特殊項目として独立させる形となりました』
今スクリーンに映し出されているのは、現在の特殊項目。
会場にはざっと使用人も含め400名程がいる。スクリーンに映し出された数字は230を行ったり来たりしている。
『この数値から、現在この会場内では230名前後の方々がなんらかの特殊魔法を発揮している状態と言う事になります』
そう声を掛けると突然数値が一気に下がり始めた。
一人魔法を解除したからと言って確認などできないのだが、これは心理的な問題だろう。
会場内であちらこちらから騒めきが起こる。
『今数値が下がったのは恐らくではありますが、心理的観点から強化系の魔法の解除が行われたからであると思われます。では、数値が100を切りましたのでこの状態で今現在どなたが魔法を使用しているか確認してみましょう』
スクリーンの数値が消え、名前のリストが表示された。
『現在表示されている方々の中から生徒以外を除外致しますので少々お待ちください』
学園データベースを参照しなおし、警備兵や近衛兵、教員や王の側近等、生徒以外の名前が次々とスクリーンの上から順に消えていく。
画面に残された名は22名。
『お待たせいたしました。現在表示されている方が、100名を切った段階で特殊魔法に該当する魔法を使用していた学園生の方々です』
会場のどこかで小さな悲鳴があがった。
『ご心配されている方もいらっしゃるようなので予め補足説明をさせて頂きますと、ここに名前が出ているからといって処罰の対象になる訳ではありません。あくまであの瞬間に特殊魔法を行使していたという事実でしかありません。ごく一般的な特殊魔法の行使であれば問題はありませんのでご安心ください』
その声に安堵の溜息と疑問の声が微かに聞こえた。
『では、今一度スクリーンにご注目下さい。これから表示されているお名前の横に行使されていた魔法名を表示致します』
俺は素早くキーボードを操作し「トドメだ!」とばかりにエンターキーを大袈裟にタップした。
アイルセン・ロスカーター 肉体強化3
ウィルマ・レイベン 魔法防御2
ケルヴィン・アインスベル 肉体強化3魔法防御2
・
・
セラフィーナ・エルフィストーン 肉体強化1魔法防御1
ディフロム・オーガスタン 肉体強化3
テルシェ・ギャヴィストン 広域魅了4
ザワッ!!
会場の視線が一斉にスクリーンから別の場所へと移った。
視線の先にいるのはテルシェ・ギャヴィストン。
男子生徒と共に出入りを記録されていた時とは打って変わり、何故自分に視線が集まるのか解らないといった顔をしている。
王太子や取り巻きの男子生徒たちは青を通り越して真っ白だ。
女子生徒からは軽蔑と憎悪の眼差しが向けられていた。
「…あっ、あの…みんな…どうしたの…かな?ク…クリス?わっ私、何がなんだか…」
視線に耐えられなくなったテルシェが王太子に助けを求める様にか細い声を発した。
声を掛けられた王太子はハッとして王に向き直る。
「国王陛下!私は!私は魅了になど掛かっておりませんっ!私は!!私の意思でテルシェを愛したのです!皆もそうのはず!いえ、そうです!あっ!あれが!そう!あれがやはり間違って---」
「いい加減にせぬかっ!!!!」
「ヒッ!?」
「お前はいつまでそのような態度でいるつもりだっ!!何の為に幼い頃から耐性魔法を教わったのだっ!ここ数年平和である事をいい事に、王族たるものがぬるま湯に浸かりおって!!魅了魔法にも気が付かず、支配され確たる証拠もなしにセラフィーナ嬢にまで屈辱を与え、事実を知らされて尚改心せぬとは!!なんと無様なっ!!此度の案件、無事終息できればお前の地位も安泰であったものを…お前には失望した…」
「ちっ!父上っ!!」
国王陛下が王太子に背を向けるとその脇を数名の近衛兵が走り抜けテルシェの元へ向かう。
「いっ…いやぁ!!なんで!?クリス!クリスッ!!助けてっ!!!」
王太子は視線をテルシェに向けたがすぐに逸らした。
「そっ…そんなっ!なんで!?なんでなのっ!!私何も悪い事してないっ!悪いのは私に意地悪したセラフィーナちゃんでしょ!!私、突き落とされたんだよ!?本当だもん!!いやぁあああ!助けてっ!!やめてよっ!痛い!!痛いよっ!!クリス!みんなっ!!!」
テルシェが必死に呼びかけるが、誰一人として彼女の為に動く者はいない。
近衛兵によって魔封じの手枷を掛けられ、その場で魔力が封じられる。
俺の手元のノートパソコン風魔道具の画面の現在の特殊魔法使用者の欄からテルシェ・ギャヴィストンの名前が消えた。
『国王陛下、表示からテルシェ嬢の名前が消えました』
「そうか…司祭よ浄化魔法を!浄化後、対象者を会場から連れ出せっ!!」
「「「「ハッ!!!」」」」
国王陛下の後ろに控えていた人たちが一斉に動き出す。
司祭が広域浄化魔法を発動し、会場全域にキラキラと星屑が舞い上がった。
星屑が宙に消えた直後、すでに会場中に散会していた近衛兵達が対象とされている魅了に掛かっていた生徒達の捕縛をはじめた。
それは10や20では効かない…男子生徒の約6割程度にあたる程の人数が次々に捉えられていく。
既に浄化の効果が表れた生徒たちは、騒ぐ事も無く捕縛され会場から連れ出されていった。
会場中で捕縛が行われている最中、国王陛下は王太子の横を一瞥することも無く通り抜け、押さえつける者はが居なくなって尚立ち上がる事のできないセラフィーナの元まで来た。
国王陛下は片膝をつき、動揺の色が隠しきれないセラフィーナに向かって手を差し伸べた。
「…助けが遅くなってすまなかった。此度の件、父として大変申し訳なく思う。すまなかった…」
「そっ、そのような事!!国王陛下!!頭をお上げくださいっ!!」
「いや、私は判断を誤ったのだ…あまり出来が良くなかったとは言え、息子を信じたかった…まさか、あそこまでとは……あれでは国は任せられぬ。エルフィストーン侯爵家には改めて謝罪を行う。本当に申し訳なかった…」
国王陛下がセラフィーナ嬢を立ち上がらせると同時に、セラフィーナの侍女達が会場内に通されセラフィーナに薄絹を掛け会場を後にした。
それを見送る様に振り返った国王陛下の視線の先には王太子がいる。
王太子は人目を気にする事もなく、赤い絨毯の一転を見つめ呆然とした表情のまま動かない。
国王陛下は、遠目にも解る程大きく肩を揺らし一つ大きな溜息をついた。
しかし、気持ちを切り替えた様に舞台の中央まで赴くと重厚感のあるマントを翻し声をあげた。
「此度は、罪人テルシェ・ギャヴィストンと我が息子クリスティアン等の行いによって祝いの場を騒がせる事となり、私としても大変遺憾であった!以降の処理は王国近衛管轄として取り仕切る!追って通達を各家に行う故、協力してほしい。また、卒業の宴は王家主催にて後日執り行う事とする!!異例な事であるが、それを謝罪として受け取って欲しい!!」
会場からは大きな歓声。
少しの間をおいて、歓声を制するように国王陛下が手を上げると会場がまた静まり返る。
「罪人テルシェ・ギャヴィストン!!そなたは、国内で使用制限のある広域魅了魔法を使用し生徒たちに混乱を招いた!!その罪は重い!!王国裁判によって裁きが下るまで裁定の塔にて幽閉とする!」
「!!!そんなっ!おかしいっ!魅了は攻撃魔法じゃないもんっ!!私は悪くないっ!!」
「黙れっ!!王国の法も知らぬとは、それでもエヴァンス王国貴族の令嬢かっ!!連れ出せっ!!!」
「いやあああああああああっ!!私はああああ、ヒロインなのにいいいいいいっ!!」
どこにそんな力があったのか、近衛兵の捕縛からどうにか逃げようと体を捩り必死の抵抗を見せる。
裁判はまだとは言え、罪状は明らか。
令嬢と言う事で多少丁寧に扱おうとした近衛兵もその姿に苛立ち、鳩尾に苛烈な一撃を与え引きずる様にテルシェを運び出した。
「オーステル!アルフレッド・オーステル!!聞いているかっ!!」
『はい!国王陛下!!』
「罪人の詳細記録を確保し王国近衛に報告をせよ。此度の事、大儀であった!!宰相と打ち合わせを行い、王城への配備を進めよ!!」
『はい!ありがとうございます!!』
マイクのスイッチを切り、俺は盛大にガッツポーズをした。
「あ、やべっ!詳細記録の回収しなきゃ!!」
____
「すみませーーーん!!近衛さん!!ちょっと待って下さい!!!」
「何者だっ!!」
「あっ!!検知システム担当のオーステルです!罪人の端末回収に来ましたっ!」
一瞬怪訝な目を向けた近衛兵だったが、俺の見せた腕章を確認し罪人の前から一歩引いた。
「護送の馬車がもう来る。直ぐに頼む」
「はい!端末型園証の回収なんで直ぐに終わります!」
近衛兵の元へ小走りに駆け寄ると、虚ろな目で「ナンデ…ドウシテ…」と呟く罪人テルシェがいた。
「はいはい、ごめんねー。端末回収だから園証頂戴ねーセクハラじゃないよー」
罪人テルシェの胸元に光るバッチ型の端末園証を外す為に声を掛けた。
これには更に詳細な魔法使用記録が入ってる。広域魅了魔法ってだけで1発アウトだけど、記録の提出があるので回収しないといけない。
罪人とはいえ、お胸を触る訳にはいかないので少々震える手で慎重に園証を外そうとするが上手くいかない。
罪人テルシェに更に近寄って服に手を掛けると彼女のつぶやきが耳に入ってきた。
「ナンデ…ドウシテ…?皆作られた存在な癖に…私がヒロインなのに…そっか…これは夢だ…皆消えるんだ…そう、夢。夢よ、夢なのよ…全部消えちゃえ。消えろ、消えろ。キエロキエロキエロ…」
あー駄目だこの子…完全に逃避しちゃてるわ…
ヒロインとか言ってたし、俺とおんなじ転生者なんだろうな…はぁ、しょうがないな…
「あのね、テルシェちゃんさー。ここが何のゲームに似てるのか解らないけどさ、これゲームじゃないんだわ…今の俺達の現実で、みーーんな生きてるの。解る?君と同じ、感情もあるし年も取る。生きてるんだよ。君のやったことは、前世の詐欺とか宗教での洗脳みたいなもんなの…この世界では、テロ行為。重罪ね。しかも王族や上位貴族まで巻き込んでる。現実って認識してないから罪の意識が無かったのかもしれないけどさ…」
罪人テルシェが視線をこちらに向けた。
俺は言葉を続ける。
「王太子様がもっとしっかりしてたら未然に防げたかもしれないし、君の背後には何もないから…たぶんだけど、死罪まではいかないと思う。でも、良くて修道院で幽閉かなぁ…俺の言った事、よーーく考えて。誰も教えてくれなかったとかそんなの言い訳にならないよ。君は人の心を踏みにじったんだよ。下手したら、君の嘘で、あの子が死んでたかもしれない。何度も言うけど、ゲームじゃないの、生きてるの。君の嘘が彼女を殺したかもしれないんだ…ちゃんと考えてね?」
はずれた園証を握りしめて俺は立ち上がった。
「ありがとうございました。これで失礼します」
「ご苦労だった」
近衛兵に一礼して立ち去る一瞬に見えたテルシェの頬には一筋の涙が零れ落ちた。
その涙が、後悔の涙である事を俺は願う…
読んで頂きありがとうございました!
誤字・脱字・誤用・書き間違い報告、感想等 ドシドシお願い致しますっ!




