習慣化していること
最近、掃除の時に口ずさんでしまうのは、エヴァンゲリ○ンの主題歌だったり、童謡だったりと幅広い。
ドラゴン○ールも箒でスタンドマイクまでして歌ってしまう時がある。
すでに鼻歌の域は超えた。
中国人の母は、アニメで日本に興味を持ち、留学してきたクチだ。その娘の私が、かなりの影響を受けて育つのも当然だろう。
子守唄はほぼアニソンだと自負している。
服のセンスはヤバイ母であったが、聖地(秋葉原)でのショッピングはセンスありだと認めていた。
最近は泣かなくなったが、初めて異世界に来た後は、『今日イベントの日だったのでは?!』と、思い出し、参加できなかった事に悔し涙を流した。
ジョゼフに心配かけたくないので、もちろんベッドの中で。
2ヶ月先まで、スケジュールを立てていた分、ガッカリ感も半端なかった。
特に、○○○○のコミ○に参加出来なかったのは悔しかった。
私の毎日は、趣味にかなり走っていた。
仕事で稼ぐお金の大半を漫画やブルーレイに注ぎ込み、限定モノを買う為にフレックスを利用しまくっていた。
節約したかったので、自炊を頑張り、ランチもお弁当を持参していた。
会社では嫌われていなかったと思うが、趣味の話をすると、男の人からは一線を引かれていたと思う。
また、同じ趣味の男の人も居たが、二次元に憧れすぎて、私は恋愛対象から外されていた。
思い返せば、私が未だ乙女(処女)を貫いてるのはおかしな話だ。結婚までは清い関係……なんて別に思ってもいないのに。
容姿は自他共に認める、見れる顔だし、スタイルだって悪い方ではない。
食べれば食べるほど胸に付くのだ。
……私はこれは、卵かけご飯TKGのお陰でだと勝手に思っている。貧乏飯万歳!
デートにだって、何度も誘われるのだが、不思議と2回目がない……
みんな私の可愛さに恐れを成すのだろうか?
チャンスはなかったわけではない。海外に留学していた時はかなりいい雰囲気になったこともある。
デイビットは、社交的で、語学が堪能。かなり楽しい人だった。
チャイナレストランで夕食をとり、いい雰囲気のまま彼の部屋に呼ばれた。
これはいよいよ、大人の階段を登るのだろう……緊張していたが、女は度胸!
でも、色々落ち着かない…………
私は、そんな趣味は無かったのだが先にお風呂に入ったデイビットを何故か覗いてしまった。
驚いた………………
あんなの入るわけがない…………
裂けちゃう………………
私は度胸どころか、度肝を抜かれてデイビットのマンションから抜け出した…………
それから大学を卒業し、社会人になってもチャンスは訪れず、遂にはこの世界に辿り着いた。
そんな私だが最近、ジョゼフに対しふんわりした気持ちがある事に気づいてしまった。
これは恋なのだろう…か?…と、意識したのはマクモスの群れに近づこうとした時だ。
ある日の午後、草を食べているフワフワのマクモスが触ってみたくなってそっと湖畔に歩いて行った。
後、数歩でマクモスに触れる〜と、手をニギニギしていたら、グィッと、凄い力で腰を持ち上げられた!
ジョゼフに後ろから抱き竦められた形になっていたのだ。
「後ろ足で蹴られるぞ!」
普段穏やかなジョゼフに怒られながらも、ドキドキが止まらない。
「ご、ごめんなさい…………」
小さな声で謝ると、フワリと笑い、偶々だが、戻ってきて良かった。と、呟かれた。
後で詳しく聞いたのだが、マクモスは崖を走って登るほど後ろ足が強く、発情期になると雄は蹴り合いで相手を威嚇するそうだ。
そんなマクモスは後ろから近づこうとすると、敵の気配を感じて、攻撃を仕掛けるらしい。
過去、うっかり蹴られた村民は瀕死の重傷を負ったそうだ。
ジョゼフが仕事に向かった後、私は掃除を始めるのだが、だんだんエスカレートして無意識に家捜しをしている事に気がついた。
初めは、ジョゼフもいい年の男性。付き合っている人でも居るのでは?と、同居していることを申し訳無く思い、女性が泊まりにきたらどうしよう?などと考えていた。
下着をサイズぴったんこで、選んで買ってきた時は必要なものだったので単純に喜んだが、後々考えると、経験豊富だからサイズが分かったのかしら?と、チクリと胸が痛む。
寝室に入り、シーツを替えようとした日。
木こりのジョゼフが仕事に出かけたはずなのに、部屋には斧が掛けたままになっていた。
木を切りに行ったのではないのか?と、不安になり、それとなく夕食の時に聞くと、いつも通りの仕事だと告げられた。
もしかして、私が家にいるから、外でデートしているのかもしれない…………
そんな焦りともつかない気持ちに駆られ、ジョゼフのタンスを一段一段改めてしまった。
洋服を畳み直すフリをしながら……
女性の写真みたいなものが出てきたらどうしよう……そんな気持ちだった。
そして掃除も、箒で掃くだけだったのが、拭き掃除も行い、ベッドの下から、棚の奥までチェックしまくってしまった。
女物のお泊りセット、実は隠していないかな?……そんな気持ちだった。
自分にこんな独占欲があるなんて驚いたが、ジョゼフがほかの女の子の手を握っているところは想像したく無かった。
服の上からでもわかる筋肉に触れたくなる気持ちを抑え、サンドウィッチを渡す時は、少しだけ手を握る。
「気をつけて行ってらっしゃいませ」
どこに仕事に行くのか、偶に不安になるが、そんな気持ちを吹き飛ばす為に、私は今日も歌う。
元気が出る、懐かしい一曲を!
あ!鍋に昨日捌いたアキレス腱を入れて煮込まなきゃ!
不意に掃除の途中だったが、私はクルリと振り返った。
そして見てしまった…………
通風孔から覗くトイプードルの髪と、双眸。
私は思考が止まり、悲鳴を上げた。
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スイの家事は本当に丁寧で頭が下がる。
けして散らかっているとは思っていなかったが、男やもめの飾り気の少ない家が、スイの手でみるみる美しくなっていった。
ガラスはピカピカに磨かれ、タンスの中に適当に突っ込んでいた洋服はキチンと整理されていた。
スイは凝り性なのか、雑巾を絞ると、棚の奥まで徹底的に拭きあげる。
白い手に荒れが残ったらどうしよう!?と、通風孔からヤキモキした気持ちで見守っているが、本人は眉根を寄せて、必死な顔で頑張っている。
たかが掃除。されど掃除!
真剣なスイの邪魔は出来ない。
スイが必死に家事に勤しんでいると言うのに、俺の毎日はただただ、スイを見守ることだけ……
いや、見守るなんて優しい言い回しで自分を守ってしまったが、監視に近いだろう。
もう、3ヶ月続けているので、自然な習慣として身についてしまったようにも思える。
俺がここから覗いていると知ったらなんと思われるか……
30過ぎの男が、日がな一日自分にへばり付いて居ると知ったら流石のスイも怯えるかもしれない……
騎士として毅然とした態度をとり続けたいのは山々なのだが、いかんせんスイの事となると、粘着質な一面を晒してしまう。
所詮、俺も恋に浮かれた馬鹿なのだろう。
ある日、西側の窓からいつものようにスイを眺めて居ると、急に玄関外に出ていった。
一体どこに行こうと言うのか???
小さな歩幅で歩く姿も、なんとも言えない可愛らしさ……
まるで、雪兎の二足歩行のようだ。
コッソリ跡をつけていくと、マクモスの群れにゆっくり近づいている。
どうやら、マクモスに触ってみたい様子。
っ!?
俺は大木の陰から慌てて駆け出し、スイを手元に引き込んだ!
危うくマクモスの後ろ足の餌食だ。
あの獣の一撃は大の男でも意識を飛ばすほどなのだから!
そしてふと我に返る。
仕事に行ったはずなのに……?と、スイの表情は物語っていた。
慌てて偶然を装った俺は、スイに強い口調で、注意を促し、ことをあやふやにした。
全くもって、可愛いスイは油断ならない。
それにしても、なんと腰の細いことか…………
胃の腑はスイにあるのか?と疑いたくなってしまった。
そしてフワリと感じた胸の重さ。
たゆんと、俺の右腕に偶然乗り上げたアレは格別な感触である。
水風船よりも柔らかで、視線を上から這わせただけで俺の心臓は口から飛び出そうなほど、ドクドクと打ちつけた。
あぁ…………
俺はスイを手に入れたい…………
もぅ、気持ちは止まらず遂に実家に文を送ってしまった。
『嫁に貰いたい女性が居ます。承諾を頂けないか?』
ルーサンベルト伯爵家の次男坊ではなく、俺は1人の男として、スイに結婚を申し込む決意をした。いや、決意はとっくに硬かった。
準備をした……の間違いだ。
『○万年と○千年前から、愛してる〜』
今日もスイの甘やかな声が聞こえたので、いつものように通風孔から覗くと、不意にスイがクルリとと振りかえった。
『!!!!!!!!!』
見られたっ!
慌てて身を沈めたが
部屋の中からスイの絹を裂くような悲鳴が聞こえた……………………