黒リスさんたら読まずに捨てた
はじめはスイの気持ちに整理をつけたくて書き始めました。
朝起きると、軟禁されていた事実に私は震えるほど怒ってしまった。
何故?と聞けば出て行きそうだから……と、戸惑いながら答える。
今までお世話になり、ジョゼフに恋心を抱いたばかりだった私はやはり猫被りしていたのだ。
そんな猫も怒りでどこかに出張だ。
「ジョゼフは私のことを余程信用していないのですね?」
体の芯が熱くなり、興奮で口端が震える。
見上げたジョゼフの青い空色の瞳に涙が浮かんでる。
それを見て私の胸がキュッと痛む。
でも、一度吐き出し始めた気持ちは止まらない。
「私の気持ちをもっと汲んで下さい!
書類よりも大切な事があるでしょう?私は恋愛初心者なんです。焦らないで欲しかったのに……
信じて欲しかったですよ。
今はそれが分かってもらえないのが悲しい!」
言葉にすると涙が零れた。
「今のジョゼフは嫌いです!」
予想外に大きな声が出た。ジョゼフを睨みつけ、書類の束をむんずと掴む。
大股で、おろおろしているジョゼフに歩み寄ると、胸元にばちんと叩きつけ
「順番間違えないで……」
寝室の扉をを閉めると、ベッドに倒れこんだ。
涙が拭っても拭っても溢れてくる。
日本に帰れない寂しさが募る。
異世界でジョゼフが居なければ私は今頃野垂れ死にだった。最初は恩義からの好意かと思ったけど、ジョゼフへの気持ちは変わらない。
好きなんだ。
でも、ジョゼフが先走り婚姻をしたことに怒り狂ってしまった。
分かっているのだ。
1番嫌いなのは、優しいジョゼフへ八つ当たりしている自分が許せないのだ。
衣食住すべて、縋っている癖に偉そうな口を叩いてしまった。
お互いの好きという気持ちは間違いないのに、いざ行動に移されると怒るなんて。
枕にタオルを置くと、顔を埋めた。
思いっきり泣こう!
泣き疲れると、昨晩よく眠れなかったのも手伝い、私は直ぐに微睡み始めた。
不覚にも、帳が降りる頃、私は猛烈な空腹で目を覚ました。
寝室の扉をを開けると、ふんわりスープの匂いが部屋に立ち込めている。
ジョゼフが野菜の煮込みスープを作ってくれたのだ。
私は黙ってジョゼフの隣に立ち、パンを竃で炙る。
ジョゼフは何も言わずに、鍋に向かって私のスープを注ぎ、自分の皿も棚から出した。
2人で向かい合わせの静かな夕食をとる。
ジョゼフがどんな顔をしているのか、確かめるのが怖くて俯いたまま黙々とスープを口に運んだ。
恥ずかしいくらい、お皿はピカピカ。
ありがとう。ご馳走さまです。
囁くような声でお礼を言うと、慌てて寝室に戻る。
ジョゼフは何も言わず、私に温かい眼差しを向けるだけだった。
ベッドに潜ると、緊張のせいか、温かいスープを飲んだからか体が火照る。
何だかんだ言っても、ジョゼフは優しい
「ごめんなさい……」
言葉が勝手に出てきた。
私も悪かったのだ。
儀式のこと、ちゃんと把握していなかったのだもの。
何故か少し喉が渇く。
きっと沢山泣いたからだ。
水差しの水を飲むと
はぁぁ〜と、ため息が零れた。
何度目かのため息を零し布団を被った。
その夜は昼間寝たせいか、あまり眠れず、身体にも熱が篭ったままだった。
翌朝、起きるとテーブルの上にはジョゼフの書き置きが置いてあった。
『村でどうしても済ませなければならない用事がある。待っていてくれ。』
一晩泣いた私は幾分スッキリし、謝る決心もついた。
今日の夜は豪華な夕食を準備して、ジョゼフへ謝ろう!
私はローストビーフ風の料理を作り始めた。
この赤身肉は癖も少なく食べやすいのだが、実は得体の知れない生き物の肉だ。
ウサギ系の肉かな?と聞いてみたこともあるが、似ているが違うんだ。と、否定された。
この肉塊に塩とハーブを刷り込み、仕上げに大蒜油で焼き色を付けるとローストビーフ風に仕上がる。
ジョゼフはこの料理が大好きだ。
副菜や根菜の小鉢を作りながら思う。
気持ちを込めたものを食べてもらい、私も伝えていなかった感謝の気持ちをちゃんと言葉にしよう。
その上で謝ろう……
だが、その日ジョゼフは中々帰らない。
陽が落ちる前に戻らなかったことなど無かったのに……
もしかして怒ってるから?
不安に駆られ、外に出るが、逆に森の暗闇を恐ろしく感じる。
木々の掠れた騒めきが孤独感を煽りドキドキと、心音が口まで上がって来た。
ガランとしたリビングが急に寒く感じ、寝室に入る。
ベッドに腰掛けて体を自然に抱きしめる……
ジョゼフは孤独な私をずっと寂しくさせないようにしてくれてたんだ……
彼の有り難みをひしひしと感じた。
「ジョゼフ…………」
彼の名を自然と呼ぶ。
ガタッ
バタン
ボフッ
?!
ジョゼフが帰った!
顔を上げると、寝室の扉がノックされる。
「スイ、少し話をしたいんだ。
開けてもいいか?」
私は焦るようにドアノブを回し開けた。
そこには大きな包みを持ったジョゼフが佇んでいた。
ジョゼフ!
私は思わず抱きしめようと手を広げかけた。
『ゼルダクエスト侯爵に明日会いに行く。スイ、一緒に来てくれないだろうか?』
………また相談なく決めたよ…………
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昨晩、婚姻を告げたことで、これで2人の思いはひとつ!と、喜ぶと同時にら一瞬『初夜』と言う言葉が頭を掠めた。
しかし、スイは『少し頭を冷やしたいので』
と、俺を自室に押し込めると、自分も部屋に閉じ篭ってしまった。
頭を冷やすとは…………?
何故冷やすのだ?
取り敢えず、スイが勢いあまって出て行ってはいけない。夜の森には危険も多い。
俺は大斧をドアノブにかけると部屋に戻った。
朝、大斧を外しに行くと、スイがものすごい勢いで怒り出した。
怒っているスイも、やはり子リスがぴょんぴょん飛び跳ねている愛らしい姿にしか見えない。
どうやら、出れないようにした事が更に怒らせてしまったようだ……
「今のジョゼフは嫌い!」
心臓が止まりそうになった。
俺の瞳に情け無いことに涙が溜まる。
俺は
俺は
スイが何に悩んでいるのかサッッッッパリ分からん。
書類よりも大切なこととは一体何だ?!
俺は部屋に戻ると、椅子に腰掛け目を閉じた。
ハッ!!!
ゼルダクエスト侯爵からの返送書状の荷物の中に本が2冊入っていた事を思い出す。
『妖精のお前に必要なものだ。しっかり読んでおけ』
《初めてのお付き合い・サルバド男性理論編》
《ベッドの上のマナーと技術・男性用》
目から鱗とはこのことだ……
俺とスイはすでに気持ちは繋がっている。だが、スイは勿論、妖精。
婚姻を結んだ次のことも、学のある彼女のことだ。分かっていたに違いない……
『恋愛初心者なんです。焦らないで欲しかったのに……』
俺はバカだ……
きっと女のスイにも準備があったに違いない。
断髪の儀の時も『ナイロンのケープがあれば……』と、呟いていたでは無いか。
スイに十分な支度もさせず、気ばかり焦って囲い込むとは……
やはり、スイが怒った原因は
急な婚姻とそれに続く初夜への不安……
これに間違い無いだろう。
スイの部屋の前に立ち、扉に耳を当てる。
スゥ〜スゥ〜と、穏やかな寝息。
俺は部屋に戻ると迷いなく一冊を手に取る。
《ベッドの上のマナーと技術・男性用》
愛しいスイ、俺も準備を怠らず、順番は間違えないぞ。
ペンを片手に握り1ページ目からラインを早速引いた。
本を3度読み込見返した後、夕食をスイのために作る。
俺は本当に無学だった。女性にとって初夜は苦痛が多い。理論的に書いてあるこの本は本当に助かった。
貴族の男性はなるべく媚薬を使用し、彼女たちの苦痛を、和らげる。
以前村人のハンスが分けてくれた小瓶を薬箱から出してみた。
青いガラスの中で少し粘りのある液体がゆるりと揺れる。
やはり、スイの負担を軽くするためにも使わねばなるまい……
それにしても説明書きが無いのだ。
一体どの量が正しいのか……
試しに一滴ペロリと舐める。
………………
何も起こらない。
しかし、神経を尖らせば微かに頬が上気している。
スイに初夜でうまく使ってやりたい。
キチンと効果があるか気になって仕方がない。
罪悪感がよぎるが、俺はひと匙媚薬をスープに落とす。
起きてきたスイは俺の隣に立ちパンを焼いてくれた。
泣き腫らした顔を見せたく無いのだろう。
俯いたままで食事をした。
俺は、ひと匙の奇跡の行き先が気になってスイの食事から目が逸らせない。
食事のお礼を述べると自室に引き込む。
俺は食器を早々に片付けて、天井に上がった。
実は天井の仕掛けはひと月前に完成させたものだ。
昼間のスイも愛らしく、子リスのようだが、夜の寝姿もどうしても気になって見たい欲求に負けてしまったのだ。
寝室の天井板を少しズラす。
隅から覗き込んだがスイの表情はよく見えた。
ベッドの上でスイは頬を染め、木のみのような赤い唇を半開きにしている。
そして、ハァハァと吐息を零しながら
『ごめんなさい……』と呟いた。
天井から危うく転げ落ちそうだった。
俺が見えているのか?!
観察を続けたが、どうも独り言だったらしく、胸を下ろす。
媚薬はひと匙で少々の効果ありだ。
確認出来たことを喜んだが、毎日ひと匙ずつ増やすのはあまりに時間がかかり過ぎる。
ここはゼルダクエストの爺さんに聞いた方が早いであろう。
俺は侯爵領地に向かう決心をし、明日の予定を立てた。
残念イケメンで、変態ジョゼフを書いていたら全く整理がつきませんでした……
本の選択間違ってるよ。




