194 Side.黒と白の世界の神
(うぐっ……、……何故だ…!! 何故私が…こんな目に…!!)
突如現れた襲撃者によって、私の身体は地に倒れ伏した…。
動かそうとすると激痛が奔る…が、痛みを無視し無理矢理にでも上体を起こす…。
そして立ち上がりながら、改めて襲撃者を見る…。
黒い長髪…、瞼を閉じた無表情の顔…、2mを超えるであろう肉体は、その8割を薄汚れたマントで覆い隠している…。
唯一マントから伸びている、杖を携えている筋骨隆々とした右腕…、マントの下から覗く同じく筋骨隆々とした足…。
パッと見ただけでは乞食にしか見えないが…、闇のように黒く艶やかな黒髪と…、マントから覗く逞しい肉体…、そして異様な気配を放つ紫の杖がそれを頑なに否定している…。
一体何者なのか…。
……まぁそれもどうでもいいことか…。
「…っ…貴様は…何も解っていない!!これがどれほど崇高で…尊い試みであるのかということを!!」
襲撃者に向け、気丈に言葉を放つ…。
会話をして時間稼ぎ…とはいかなくとも、機を窺うしかあるまい…。
「この私自らが…!!塵芥共で試してやろうと言うのだ!!私自らが試してやろうと言うのに…、それを…貴様は!!!不敬!不遜!!不届きにも程があるぞ!!!」
言葉を続けながら傷を癒す…。
すると奴は杖を手放し、右手の指と指の間に何かを取り出した…。
手放した杖もその場で浮遊しつつ…、奴の背後へと移動する…。
奴の取り出した物体は…、見た限りでは黒い球にしか見えない…。
直径で1cmあるかどうかといったところの、小さな黒い珠だ…。
それをそれぞれの指の間に合計で四つ…、まさかそれを投げる気か…?
と、考える間も無く、黒い珠を此方へ向かって放り投げてきた…。
未だに避けるだけの力も戻っていない…、振り払うしかないか…。
そう思い迫ってくる黒い珠を振り払おうと、右腕で薙いだ…。
が…、右腕に触れた黒い珠が、そのまま右腕の勢いを殺し…、ミシミシと右腕にめり込んでくる…。
そのまま右腕を押しながら身体にも…!
「ぐっ…!」
振り払えない…!
どころか…、このままでは…、穿たれる…!
『神が人に試練を与えることは無い……』
黒い珠によって穿たれつつある痛みで飛びそうな意識の中…、襲撃者の声ならぬ声が脳裏に響き渡る…。
そしてその言葉を最期に…、計四ヶ所を穿たれた私はそれが致命傷となり…、この世から消滅した…。