186 Side.王国某所
「……ぅ……ぁ………」
窓から差し込む光のみが照らす部屋の中で、辛うじて原形を留めている物体が呻き声を漏らす…。
「珍しいね~、そんな手間のかかる事するなんてさ~」
その物体を眺める猫が、間延びした言葉を発する…。
「仮にも神と呼ばれた者の分霊だ…、苦しませずに殺す等という慈悲を与える理由は無い…」
暗がりでも淡い光を放つ蒼髪を持つ人影が、暗闇でも光る紅の眼差しで呻く物体を射抜く…。
「それは解るけどさ~……ん?」
「どうした?」
「───向こうも終わったってさ~」
「そうか…、ならばさっさと帰ろう…、この世界にもう用は無い…」
蒼い影が踵を返して歩き出す…。
その蒼い影を猫が追う…。
「それはいいけど~、行きの時みたいに争わないでよ~?」
「……奴が目に余らなければな…」
「対処するのはフィロンだから私はいいけどね~…」
「むぅ……」
会話に出た人物に借りを作りたくないのか、蒼い人影は言葉を濁す…。
「……喧嘩腰で関わってこなければまぁ…、抑えよう…」
「向こうも同じように言われてるだろうし~、とりあえずはそれでいいよ~」
(やれやれ…、666の眷属達の最上位の二人がこの調子だもんなぁ…)
間延びした返事をしながらも、その内心はやや疲れ気味な猫…。
「あっ」
「今度は何だ…?」
「いや~、そういえば神の分霊はほったらかしのままだな~って」
そう言いつつも歩みは止めず、振り返ることもしない猫…。
「何だそんなことか…」
既に終わったことと認識していたらしく、蒼い人影は関心も失せていたようだ…。
「問題ないんだよね?」
「あのまま呻いているだけならば、我々が帰る頃には焼滅しているだろう…」
蒼い人影はそう言いながら、扉に手をかけゆっくりと開く…。
「じゃあ何か行動を起こそうとしたら?」
「そんなことをすれば……」
蒼い人影と猫が部屋から退室し、扉がゆっくりと音を立てながら閉まり始める…。
「魂すら焼け焦げるような激痛と共に、即座に焼滅するだけだ……」
その言葉が終わると同時に扉が閉まり…、部屋の中に残っていた神の分霊の燃え滓は…、跡形も残さず焼滅した…。