17 Side.迷いの森の賢者
「ん…? 侵入者か……」
森の中に複数の気配が侵入してきたのを感知する。
(またぞろ頼みごとにでもきたのじゃろうか……)
侵入者の気配の方に、視線を向ける。
「…ふむ、数は5名…、思考を読む限り、教会の者達か……」
奴らが来るとなると、大人しく頼みを聞いて、穏便にお帰り願う他ないのう…。
(さて…、あ奴らの頼みごとは…?)
目に力を籠めて、教会の者達を見遣る。
「…ふむふむ…、勇者の探知…? 成る程、神託を行ったのか……」
(これは…、是が非でも探させる腹積もりじゃろうな……)
聖女を生贄にして神託を行ったということは、来る人魔大戦に確実に勝利するという決意なのだろう…。
(愚かなことを…、よりにもよってそれを神託で聞き、更には勇者の召喚などと…)
「とはいえ、ワシにできるのは勇者の居場所の特定だけ、か……」
意を決して、探知の目を世界中に広げようとすると…。
「そのお話~───」
「なっ!?」
「詳しく聞かせてくれると~、嬉しいな~」
誰もいるはずの無い背後から、声が聞こえた…。
※ ※ ※
数十分後、玄関の扉が乱暴に開け放たれる。
「失礼! 賢者殿はおられるか!」
「おるわい。 乱暴に扉を開けんでくれ……」
(毎度毎度…。壊れたら直すのはワシなんじゃぞ……)
「賢者殿に、是が非でも探してもらいたいものが……」
「解っておる。 勇者の居場所は王国の王都じゃ」
予想通りの言葉を、途中で遮って答えを渡す。
これで大人しく帰ってくれるとよいが…。
「おぉ! 流石は看破の賢者殿! 既に知っておられましたか……」
「もうワシに用はないじゃろう? なら、帰っとくれ……」
「感謝しますよ、賢者殿……」
そう言って、教会の者達が皆出ていく…。
教会の者達が、家から大分離れたのを確認すると…。
柱の陰ににいる人物に、声をかける…。
「…これで、良いのか?」
「上出来だよ~。 ありがとね~」
そやつは頭に猫耳を生やした、この世界には存在するはずのない種族の姿をしていた。
「それにしてもすごいね~。 お姉さんのその目~」
「これのせいで、看破の魔女と呼ばれ、忌み嫌われた時代もあったがのう……」
少女の言葉に、動揺を悟られぬように答える…。
(何者かは知らぬが、こやつの力は尋常ではない……)
先ほどの教会の者達など、文字通り吐息だけで消滅させられそうなほど、圧倒的な力を感じる…。
(こやつを魔眼で見るのは不味い…。 本能が警鐘を鳴らしておる…。 見たら間違いなく、ワシは後悔する…!)
目の前の少女の動きを、無駄と解りながらも逃さないようにする…。
「それでさ~、さっきのとは別の頼みがあるんだ~。
あっ、こっちは別に聞かなくてもいいよ~? 一応の確認だからさ~」
「…一体、何じゃ…?」
その言葉に、平静を装って答える…。
だが、次の奴の言葉に、ワシは平静を保てなかった…。
「お姉さんさ~…、造物主様の眷属になる気はな~い~?」