16 Side.王国の辺境伯
「本日中に目を通していただきたい書類は以上でございます」
「ふぁあ…、はぁ…。 漸く休めるな……」
秘書の言葉を聞きつつ、椅子に座り直しながら一息吐く。
辺境伯となってから、書類の処理に追われる日々。
毎日毎日、こうも私自身の決済が必要な書類が多いというのは…。
まぁ辺境故、致し方ないと思うしかないか…。
「どうぞ、ハーブティーでございます」
「あぁ、ありがとう……」
秘書からカップを受け取る。
一口飲み、喉を潤す。
(ふぅ…、疲れた体に染み渡る……)
ハーブティーを飲みつつ寛いでいると、何やら部屋の外が騒がしい…。
部屋の外に向かおうと椅子から立ち上がったところで、部屋の戸が慌ただしく開け放たれる。
「か、閣下! 大変です!!」
「何事ですか、騒々しい」
「一体何があった?」
入ってきた者は、我が家で雇っている兵士の一人だ。
普段はもっと落ち着きがある奴なのだが…。
相当急いでいたのか、息を切らせている。
「はぁ…はぁ……ら、来客です。 今、門の前に……」
「はて? 今日は誰かが来る予定はなかったはずですが……」
「アポなしとは、礼儀知らずなのか、それとも余程の急ぎなのか…。 一体誰なのだ?」
(この者がこれほど取り乱すとなると、やってきた者の正体も自ずと見えてくるが……)
「…ぐ、軍務大臣です。 内密の要件らしく、御一人で……」
「軍務大臣自らとは…。 一体どんな無理難題なのやら……」
「それよりも問題なのは、軍務大臣が内密に話を持ってくるような案件は、まず間違いなく、国王陛下の密命だろうということだ……」
思った通りの賓客であった。
しかも軍務大臣が、部下を介してではなく、直接ここへ出向くとは…。
部下達に要らぬ負担を強いるようなことでなければよいのだが…。
だがまぁ、会わねばなるまい。
「丁重に応接室にお通ししろ。 身支度をしたらすぐに行く!」
「はっ! ただちに!」
そう言って、来たときと同じように慌ただしく部屋を出ていく。
また暫く、休まるときはなさそうだな…。
「今後の予定を組み直しておけ。恐らく執務の合間にできるもののはずだ」
「かしこまりました、閣下」
秘書に委細を任せつつ、身支度を済ませる。
出来るのならば、血が流れるようなものでないことを祈りつつ、応接室へと向かうことにする…。