15 Side.国境沿いの村の少年と村長
「なんか兵士のおっちゃん達が騒がしいな……」
「そだねー……」
普段は気さくな兵士のおっちゃん達が、ここのところ忙しそうにしている。
なんかやばい知らせでも届いたのだろうか?
遠くで兵士のおっちゃん達が話し込んでいる。
「……では……、………それで………、…わかった…………」
「………うむ……、…………という…、………みなに…………」
何を話しているかまではわからないけれど、あまりいい知らせじゃなさそうだ…。
こりゃ暫くは家で大人しくしてたほうがよさそうかな…?
「んじゃ、邪魔にならないうちに家に帰るぞ」
「はーい!」
妹と手をつなぎ、家へと向かって歩く。
帰り道の途中、ふと思いつく。
(もしかしたら、じいちゃんなら何か知ってるかも…?)
村の長でもあるじいちゃんなら、兵士のおっちゃん達から何か聞かされてるかもしれない…。
少しわくわくしながら歩き、家へと向かう。
※ ※ ※
(さて…、どうしたものかのう……)
村に駐留する兵士達から知らされた内容を、頭の中で反芻しながら考える。
そう遠くない時期に、戦があるようだ。
といっても帝国や連邦国が相手ではなく、この大陸北部に蔓延る魔王の軍勢が相手らしい。
魔王軍が相手の戦となると、男手が村から徴兵されることはないじゃろうが…。
(うーむ…、無事に勝てるとよいのじゃが……)
前回の人魔大戦が引き分けに終わったのは、当時の歴史を知る者達以外は知らない。
引き分けとは言っても、大陸北部に魔王軍を追いやったのだから、勝利したと言えなくもないかもしれぬ。
(だが父と母から事の顛末を直接聞かされているワシには、あれが勝利であったとはとても思えぬ……)
考え込んでいると、ふと玄関の扉が開く音がする。
孫たちが帰ってきたようだ。
「ただいまー、じいちゃん!」
「ただいまー!」
「おう、おかえり」
孫たちが部屋までやってくる。
今も出かけておる娘と婿殿の間に生まれた、可愛い可愛い孫たち…。
(考えることは山積みではあるが、今は可愛い孫たちと戯れるとするかのう……)
「じいちゃんじいちゃん! 兵士のおっちゃん達が忙しそうだけど、何かあったの?」
「あったのー?」
「ほっほっほ…、大丈夫じゃよ。 少なくとも今すぐに何かが起こるわけではないからの……」
(聡い子達じゃし、物々しい雰囲気を察したようじゃのう……)
孫たちを安心させるように、言葉を紡ぐ。
事実、今すぐ何かが起こるわけではない。
暫くは忙しくなりそうだが、この村まで巻き込まれるような事態にはならんじゃろう…。
ワシはワシで、いつもと変わらぬ村を維持しなければのう…。
「さて、今日はどんなお話が聞きたいんだい?」
「えっとねー……」
「やっぱり、魔王との戦いの話がいい!」
「ほっほっほっ、また人魔大戦の話がいいのかえ? 何度も話したはずなんじゃがのう……」
「だって一番おもしれーもんっ!」
「おもしろー!」
「そうかいそうかい。 そんじゃ始めるかのう。 昔々のそのまた昔───」