153 Side.フィロン 7
扉の前まで来てみれば…、扉の隙間から熱気と冷気が漏れている…。
「…ハァ……、やっぱりか…」
あの二人が顔を合わせて平穏無事だった試しがない…。
父上は止めてくれるだろうか…。
とりあえずノックして…。
「…父上! ただいま戻りました! 入ってもよろしいでしょうか!」
なるべく響くように声を張り上げる…。
これで二人の闘志が萎えてくれればいいけれど…。
『…お帰りフィロン…、…入っておいで…』
父上の許しを得て、扉を開けて入室する…。
父上とその膝の上で我関せずなグーロ…、遠巻きに見ているシメールとレイアもいるけれどそれはとりあえず置いておこう…。
問題の二人は…、玉座の階段下にいた…。
背中から千手を展開しているアグニルと…、大小様々な氷像を背後に構えているチルブリアが向かい合って睨み合っている…。
「何してるのよ二人とも…」
アグニルの周囲は熱気が渦巻き…、チルブリアの周辺は冷気が充満している…。
666の眷属達でも最上位レベルの力を持つ二人が、それぞれ殺意すら持って臨戦態勢の状態で一触即発の状態なのは拙い…。
何が拙いって……周辺への被害が洒落にならない…。
上位レベルの雷光兄弟の兄ですら…、南東大陸の環境が激変して定着してしまったのだ…。
力を抑えた状態で…、だ…。
この二人が本気で争ったら…、下手したらこの惑星は消滅しかね───間違いなく消滅するな…うん…。
「失礼します…父上…」
父上からの返答を聞く前に…、行動に移す…。
指先で二人の周囲の空間を切断し、別空間に隔離する…。
これでこの惑星に影響は出ない…。
『問題無いよ…、…すまないね、フィロン…』
「いえ…」
隔離したのを見届けてから、父上から詫びの言葉を告げられる…。
父上自身が仲裁出来ないのも仕方のないことだ…。
父上の命令に忠実なアグニルも…、父上の命令に否を唱えられるチルブリアも…、父上にとってはどちらも等しく大切なのだ…。
どちらかを肩入れすることは出来ず…、かといって無理矢理仲良くさせるのも問題だろう…。
ここには多数の眷属達がいる…、反りが合わない相手がいて当たり前なのだ…。
ここまで顕著なのも珍しいが…。
それにしても二人とも…、空間を隔離したのは気づいているはずなのだけれど…。
……まさか…、このまま幸いとばかりに戦う気じゃ……。