表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/269

14 Side.とある浜辺の村の引退漁師



 一向に揺れる気配のない糸を眺め、ため息を吐く。


「んー…。 全然釣れねぇなぁ……」


 岩の上で座ったまま、愚痴を漏らす。

 こうして糸を垂らし、獲物がかかるのを待ち続けてどれほど経っただろうか…。

 朝飯の後すぐここにきて、こうして糸を垂らしているというのに、今日は珍しく未だに一匹も釣れない。


 陽射しも強く雲一つない空の下、この炎天下でこうして動かずにじっとしているだけでも、年老いた身体には少々堪える…。


(本日の朝の釣果はなし、か……)

「んー。 そろそろ昼飯の時間だし、いったんきりあげるかぁ……」


 元々漁師を引退してできた暇を潰すために始めた釣りだ。


(続きは昼飯の後にでもするか……)


 そう考え、テキパキと広げてあった道具を片付ける。


「さて、村に戻るか…。…ん?」


 纏めた荷物を担ぎ上げ、ふと浜辺のほうに視線を向ける。

 すると、波打ち際に人が倒れているではないか…。

 遠目で判り辛いが、確かに人のはずだ…。


(まさか、遭難者か…!?)

「てぇへんだ!」


 荷物を岩陰に置き、浜辺に倒れている人の元へと急ぐ。


 そうして近づいていくと、だんだんとその人物の容姿がはっきりする。

 この辺じゃ見ない黒髪に、見たこともない仕立ての服、そしてその(かんばせ)から察するに…。


「10代かそこらじゃねぇか…。 おい、少年!大丈夫か!?」


 うつ伏せだった少年を仰向けに寝かせる。

 心臓は…、動いていない!?


「おいっ…! しっかりしろっ…! 起きろっ…! 目を覚ませっ…!」


 声をかけながら胸部を圧迫し、簡易的な心肺蘇生を行う。

 こういう浜辺の村々では、こういった水難事故が尽きない。

 そのためそれによる治療法も、口伝ではあるがある程度確立されていた。


 何度か続けていると、少年が咳き込むようにして水を吐き出す。

 酷く咽ているが、どうやら意識を取り戻したようだ。


「よかった…! 大丈夫か、少年? 意識ははっきりしてるか? 言葉は解るか?」


 少年の背中を支えながら起こし、背中を擦りながら問いかける。

 見たこともない出で立ちだし、もしかしたら異大陸から流されてきたのかもしれねぇ…。

 言葉が通じると話が早いんだが…。


「ゲホッゲホッ…。 エホッゲホッ…。 …ハァ…ハァ……」


 ゆっくりと落ち着くように、少年は息を整える。

 口元を覆うように持ってきた右手の甲に、何やら紋様のようなものが刻まれている…。


(はて、どこかで見たような…?)


 疑問が心の内を過ぎるが片隅に追いやり、少年を見守る。

 深く息を吐き、少年は落ち着いたのか、ゆっくりとこちらを見上げる。


「少年、名前は言えるか?」


 その問いかけに答えるように、少年が口を開く。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ