14 Side.とある浜辺の村の引退漁師
一向に揺れる気配のない糸を眺め、ため息を吐く。
「んー…。 全然釣れねぇなぁ……」
岩の上で座ったまま、愚痴を漏らす。
こうして糸を垂らし、獲物がかかるのを待ち続けてどれほど経っただろうか…。
朝飯の後すぐここにきて、こうして糸を垂らしているというのに、今日は珍しく未だに一匹も釣れない。
陽射しも強く雲一つない空の下、この炎天下でこうして動かずにじっとしているだけでも、年老いた身体には少々堪える…。
(本日の朝の釣果はなし、か……)
「んー。 そろそろ昼飯の時間だし、いったんきりあげるかぁ……」
元々漁師を引退してできた暇を潰すために始めた釣りだ。
(続きは昼飯の後にでもするか……)
そう考え、テキパキと広げてあった道具を片付ける。
「さて、村に戻るか…。…ん?」
纏めた荷物を担ぎ上げ、ふと浜辺のほうに視線を向ける。
すると、波打ち際に人が倒れているではないか…。
遠目で判り辛いが、確かに人のはずだ…。
(まさか、遭難者か…!?)
「てぇへんだ!」
荷物を岩陰に置き、浜辺に倒れている人の元へと急ぐ。
そうして近づいていくと、だんだんとその人物の容姿がはっきりする。
この辺じゃ見ない黒髪に、見たこともない仕立ての服、そしてその顔から察するに…。
「10代かそこらじゃねぇか…。 おい、少年!大丈夫か!?」
うつ伏せだった少年を仰向けに寝かせる。
心臓は…、動いていない!?
「おいっ…! しっかりしろっ…! 起きろっ…! 目を覚ませっ…!」
声をかけながら胸部を圧迫し、簡易的な心肺蘇生を行う。
こういう浜辺の村々では、こういった水難事故が尽きない。
そのためそれによる治療法も、口伝ではあるがある程度確立されていた。
何度か続けていると、少年が咳き込むようにして水を吐き出す。
酷く咽ているが、どうやら意識を取り戻したようだ。
「よかった…! 大丈夫か、少年? 意識ははっきりしてるか? 言葉は解るか?」
少年の背中を支えながら起こし、背中を擦りながら問いかける。
見たこともない出で立ちだし、もしかしたら異大陸から流されてきたのかもしれねぇ…。
言葉が通じると話が早いんだが…。
「ゲホッゲホッ…。 エホッゲホッ…。 …ハァ…ハァ……」
ゆっくりと落ち着くように、少年は息を整える。
口元を覆うように持ってきた右手の甲に、何やら紋様のようなものが刻まれている…。
(はて、どこかで見たような…?)
疑問が心の内を過ぎるが片隅に追いやり、少年を見守る。
深く息を吐き、少年は落ち着いたのか、ゆっくりとこちらを見上げる。
「少年、名前は言えるか?」
その問いかけに答えるように、少年が口を開く。