138 Side.フィロン 6
「………」
だだっ広い部屋の中央で…、座禅を組んで瞑想を行う…。
集中しつつも、周囲の気配を手繰り寄せる…。
今この鍛錬部屋に…、自分以外の存在はいない…。
この瞑想が日課となってから…、どれぐらいの月日が過ぎただろうか…。
もはや過ぎ去った日々を数えるには…、人の知る数では到底足りない…。
父上に出会ってからこれまでの日々も…、色褪せることなく記憶している…。
父上に出会った時…、自身の力の真実を知った時…、人の歴史で最初の世界戦争が起こった時…、魔王を名乗る魔族が攻めてきた時…、勇者を名乗る人間が攻めてきた時…。
あの頃と比べれば…、私も大分強くなった…。
それでも未だに…、父上の力の影すら踏めてはいない…。
驕らず精進しなくては…。
「……ふぅ…」
今日はここまでにしておこう…。
そろそろアグニルが風呂から上がる頃…、入れ替わりで入浴するとしよう…。
鍛錬部屋を出て、温泉に向かって廊下を歩く…。
っと、着替えを部屋から持ってこなければ…。
……ん?
この声は……、エクスタシス…?
誰かと会話しているのだろうか…。
相手の声が聞こえないが……。
声のする部屋に向かい…、何気なく耳を澄ませる…。
部屋からは、エクスタシスの声しかしない…。
相手の言葉に返事をしているのだろうが…、その肝心の相手の声が一切聞こえない…。
サテュロス程ではないが…、私自身聴覚は冴えているつもりだ…。
念話ならば声を出す必要も無いはずだが…。
「……かいしましたわぁ」
会話は終わったようだ…。
結局大して聞き取れなかったが…、まぁこのまま盗み聞きするのも不味い…。
さっさと着替えを持って、風呂場に行くとしよう……。