133 Side.レイ
広い廊下をひた奔る…。
急ぎクレス様に謁見せねば…。
弟は荷物を担いでいるため、歩いて向かうようだ…。
乱雑に扱って問題無いのだから奔ればいいと思うのだが…。
と、考えてる間に扉に辿り着いた。
扉を開けずに壁を奔り抜け、部屋に転がり込む…。
「クレス様! 報告するべきことがあり、参上いたしました!」
部屋に転がり込みすぐに、傅いて言葉を発する…。
『何かあったのかい…?』
久方ぶりに生で聞くクレス様のお声…。
雷たるこの身を束縛して逃さない力あるお声…。
とと…、感慨に浸っている場合ではない…!
「件の黒幕を確保しました!」
『そうか…、君達に見つかったか…』
「はい! 対象は弟が連れて来ています!」
『の割には…、のんびりしているようだけれど…』
どうやらあの愚弟はまだ歩いているようだ…。
「申し訳ありません! 何時までたっても鈍間な愚弟で!」
『構わないよ…。 瀕死でも問題無いとはいえ…、手間には変わりないからね…』
「ありがとうございます!」
この御方は…、その力の強大さに反してとても温厚だ…。
力と畏怖を以て統治して問題無いほどの御方なのに…、我々眷属には寛大に接し…、愚かな人々も余程のことでもなければ傍観するだけで済ませておられる…。
そして余程のことがあったとしても、とても寛大で恩情なる対応で済ませてしまう…。
今はまだ問題無いが…、クレス様の恩情に図に乗る輩が現れないとも限らない…。
そしてそのような輩を誅するのが我ら眷属の役目……。
「は~いりま~すよ~……」
扉の向こうから聞こえる、聞き慣れた間延びした声。
能力に反して、弟はとても鈍間だ…。
『いいよ……』
「は~い…、お~じゃま~しま~すぅ~……」
クレス様の返事を聞き、間の抜けた返事をしながら入室してくる…。
「遅いぞ愚弟! それにだらだら喋るなといつも言ってるだろう!」
「も~…、に~さんはこまかいんだから~……」
何度言っても治る気配は無い…。
もはや性質と言っていいレベルだ…。
『それで…、荷物は…?』
「は~い…、こちらになりまぁ~すぅ~……」
そう言って、弟は担いでいた物体を目の前に放り投げる。
「お前…、態々奔らずに来たのに結局雑に扱うのか……」
クレス様の手間を省くとは何だったのか…。
「だ~ってめんど~になってきちゃって~…」
「結局それか! 雑に扱うなら最初からそうしろ愚弟!!」
何時まで経っても変わらないマイペース…。
「も~…、おせっきょうはかんべんしてよ~…」
「だったらいい加減直せ! 何回目だと思ってる!!」
「いっかいめ~…?」
「既に1万回は越えたわ!!!」
叫び声に反応して、全身から雷電が漏れ出る…。
「ちょっとに~さん…、ろ~でんしてるよ~…」
「おっといかんいかん…」
感情が高ぶると漏れ出るのは治らないままだな…。
『それで…、その子がそうなのか…』
クレス様が放り投げられた荷物を見遣りながら、言葉を紡ぐ…。
荷物の名前はレン…。
転移者達を扇動し、ここに突撃させた張本人…。
………。
「おい愚弟…。」
「な~に~?」
「回収時よりズタボロな気がするんだが……」
「ひきずってきたからね~」
「最初に担いでみせたのはポーズか!?
丁重に扱おうとしたんじゃなくて最初っからただめんどくさかっただけかこの愚弟!!」
「ぐへぇっ」
言いつつ愚弟に蹴りをお見舞いする。
愚弟にまともな対応を期待した俺が馬鹿だった……。