11 Side.聖女
今回から暫く、原初の覇王と眷属達以外の視点でお送りします。
(ここは何処でしょう…?)
ベッドより身体を起こし、あたりを見回す。
見たこともない場所だ…。
壁も柱も家具も、全てが木だ…。
木造の家なのだろうか…?
木製の窓枠からは木漏れ日が差し込んでいる…。
確か私は、生贄として神に捧げられたはず…。
(まさか、此処が神の御許…?)
「お~! 目が覚めた~?」
「ひゃあ!?」
突然耳元で聞こえてきた声に、驚いて身が跳ねる。
短めの茶髪に、猫を彷彿とさせる雰囲気を纏った女の人が、横から身を乗り出すように、顔を近づけてくる…。
瞳孔も猫のように縦長で、顔は楽しそうに笑っている…。
(一体誰なのでしょう…?)
「今、君を連れてきた奴を呼んでくるからね~」
「…は、はい?」
そう言って、身を翻すように部屋を出ていってしまいました…。
なんだか呆れ気味の様子だったけれど…。
(一体何なのでしょう…、ここは……)
再度あたりを見回しながら、周囲を観察する。
「は~い! 君を連れてきた奴を連れてきたよ~」
「痛いじゃない、シメールぅ」
部屋を出てから一分足らずで、猫のような人が戻ってきた。
そして猫のような人に引っ張られてきたのは…、
「だ、堕落の悪魔!?」
「あらぁ?」
「ん~?」
(な、何故ここに堕落の悪魔が!?!)
(ま、まさか…、ここは堕落の悪魔達の…!)
「違うわよぉ。 ここは我が主様の居城よぉ」
「そ~そ~。 こいつの配下の淫魔達はここにはいないから、安心していいよ~」
「バカは酷いんじゃないかしらぁ?」
「普段の行いを省みてから言ってくれる~?」
考えを読んだかのように、堕落の悪魔が声を発する。
そして何やら、猫のような人と堕落の悪魔が言い争いを始めた。
もう何が何やら…。
「ほらほら~。 お姉さん混乱しちゃってるじゃ~ん」
「その辺にしておきなさいな、貴方達」
新たに金髪の少女と、銀髪の少女が部屋に入ってくる。
姿が似ているところを見ると、姉妹だろうか?
「ごめんねー。 あの二人は仲が悪くってー」
「仲が悪いんじゃなくて~、いっつもあたしがこのバカの起こすトラブルに巻き込まれてるだけだよ~」
「失礼ねぇ。 そんなに巻き込んでないわよぉ」
「貴方達の認識の違いはまた今度、別の時に議論してちょうだいな」
四人がベッドの周囲で、賑やかに捲し立てる。
(結局の所、ここは何処なのでしょう…?)
「あの……」
「あぁ、御免なさいね? この子達は放っておいていいから。 大丈夫?話せるかしら?」
私の声に、金髪の少女が反応して言葉を返してくれる。
どうやらここにいる四人の中で、一番話が通じそうだ…。
「まず最初に…、名前を聞いておきましょうか……」
「…はい。 私はヘスティアといいます……」
※用語解説:堕落の悪魔
ダルークルードにおける淫魔の通称。
彼女達に魅了されて堕落する者達が後を絶たないため、そう呼ばれるようになった。