118 Side.霊山の麓の村跡
雲を突き抜けて並び立つ山々の麓に、その村はあった…。
嘗ては人が暮らしていたのだろうが、今は生者の営みを失った廃墟である…。
規模は村としか呼べぬものであるが、点在する嘗ての家々は木製ではなく煉瓦である。
それ故に未だ原形を留めており、見れば家屋だと理解することができる…。
嘗て霊山を祀り、聖地とされていたが…、今となってはこの村の歴史を知る者すらいない…。
この村が廃墟となってまだ一世紀にも満たないが…、この地で生まれた者もこの地を知る者も…、半世紀も経たずして悉く死に絶えた…。
既にこの世界で生きている人々の中で、この地を直接知る者はいない…。
知る者が居なくなれども…、霊山は変わることなくそこに存在している…。
そのような人気の失せた霊山の天辺に、火花が迸る…。
火花は連続して瞬き、やがて空間に歪みが出来上がっていく…。
そうして出来上がった歪みが、突如亀裂へと変化する…。
天辺に生まれた亀裂から、蒼い影と黒い影…、そして金紅の影が零れ落ちる…。
それらが霊山の麓の村に降り立つと…、生じていた亀裂は火花を散らしながら閉じた…。
麓の村に降り立った三つの影は…、僅かな静止の後に、その場から姿を消した…。