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107 フィロンの決意




「出ていけ!!! 二度と村に近づくな!!! この悪魔共めっ!!!!」



 私達(私とディオン)が村から追い出される時…、怒りと憎悪を宿した目をした村長にそう言われた…。

 今となっては…、村長のあの言葉も仕方のないことだったと納得できる…。

 だが当時の私達が絶望するには…、あの言葉だけで十分だった…。



 当時のこの世界(オリジン)では…、黒髪を忌避する風習……と言うより風説が数多く存在した…。

 ただ黒髪が恐ろしくてそのような風説が在るだけならば…、瞬く間に廃れていっただろう…。

 だが実際には…、黒髪の者達は誰一人例外なく…、他の髪色の者達とは異質な力を有していた…。


 私は”あらゆるものを切断する”力を持っていた…。

 ”斬る”のではなく”切断する”…、ただ斬るだけの力と似ているようで全く異なる力だった…。

 私が”切断”したものは…、私以外には直す(元に戻す)ことができないという特徴があった…。


 例えば誰かの腕を切断したとする…、その腕を私以外が元の通りにくっ付けて治癒魔法をかけたとしても、切断した腕は決して元通りにはならなかった…。

 例えば柱を切断したとする…、その柱は私以外が何をしても”切断された柱”から変わることはなかった…。


 私達が悪魔と呼ばれたのは…、私達が生まれた時のせいもあるのだろう…。

 生まれた当時の事は、後になって父上から聞いた…。

 母の胎の中でディオンと二人で宿っていた私は…、産まれてくる時に詰まったのだそうだ…。

 そして意識もない赤ん坊の私は、それを苦しく思い…、母の胎を”切断”して生まれてきてしまったのだ…。


 私が切断したものは…、私以外の意志で直すことは出来ない…。

 産まれたばかりの赤ん坊だった私には…、母の胎を直すことなどできるはずもなかった…。

 私達を生んだ母は…、そのまま出産の疲労と”切断”面からの出血で亡くなった…。


 父上からこの話を聞いた時…、私の中に残っていた村の皆への僅かな怨恨が、完全に消え去った…。

 何よりも私自身がその事実に耐えられなかったからだ…。

 母を殺して生まれ…、そんな私を村から孤立しながらも育ててくれた父…。


 そしてそんな私の巻き添えで、一緒に悪魔と呼ばれることになったディオン…。

 話を聞いてすぐに…私はディオンに謝罪した…。

 何もかも私が原因だと…、あの時はディオンに縋って泣いて謝った…。

 ディオンは許してくれたが…、だからこそディオンには言いようのない負い目がある…。




 父上に保護されてからあまり経過していなかった当時は…、兎に角ディオンに対しての罪悪感で押し潰されていた…。

 ディオン自身も異質な力を持っていた…が、私の”切断”と比べてディオンの力は殺傷性が皆無だった…。

 ディオンの力は”見たものの違いを認識する”力だった…。

 例えばディオン自身も知らぬまに改変されたものがあるとする…、それをディオンが見れば改変される前のものを認識できるのだ…。


 私のと比べるまでもなく…、ディオンの力は平和的に利用することが可能な力だった…。

 どうあっても荒事にしか役に立たない私の力を…、父上は有効利用する場を用意してくれた…。

 力を畏れずに鍛練し、父上の代わりに物事に対処する……それが私に与えられた仕事だった…。


 父上の役に立つことが、イコールで母や父への贖罪になるのだと…。

 私は必死で鍛練した…。

 私を生んでくれた母に…、私を育ててくれた父に…、誇れる自分でありたくて…。




 父上も異質な力を持っていた……、私のは殺傷性が高い程度の代物だが…、父上の力は文字通りどうしようもない力だった…。

 ”他の全てを支配する”力…、父上の言葉や視線…動作や接触等、父上を起因とするありとあらゆる事象において、関わった対象を問答無用で支配する力だ…。

 この力の対象となるのは…、1に運命に束縛されたもの…、2にこの世に存在するもの…、3に現在支配されていないものだ…。


 ”運命に束縛されたもの”とは、文字通り運命によって一生が定められた存在のことだ…。

 エクスタシス(淫乱ピンク)のような例外を除き、万物全ては基本的にこれに該当する…。

 ”この世に存在するもの”も文字通りそのままだ…。

 無いものは支配できないということらしい…。

 ”現在支配されていないもの”は、二重に支配の力をかけられないということらしい…。


 例えば眷属のように既に支配されている対象を、再度支配の力で操ることができない等…。

 だが何より父上の”支配”の力を強力足らしめているのは…、”他の影響を一切受け付けなくなる”というところにある…。

 これは”支配”の力の副次的な効果らしく…、父上曰く「他の全てを支配するということは、他の全てから支配されなくなるということでもある」らしい…。


 私が父上を慕うのは、私達を助けてくれたというのも勿論あるが…、それ以上に私の力の影響を一切受けないというところが大きい…。


 私に”切断”されない…、私が決して敵わない存在である父上は…、私にとってかけがえのない上位者だ…。

 私が唯一安らげる場所…、私が子供で在れる場所…。

 眷属の大半は、唯一の安らぎの場として…、父上の眷属であることを気に入っている…。


 だからこそ…(眷属)達は恐れる…。

 父上の周囲が唯一の安らぎの場であるからこそ…、眷属の皆は父上の理念の手助けをする…。


 何れ来る”恐れる未来”を回避するべく…、眷属達は奔走する…。


 救ってくれた父上を…、今度は私達が救う番なのだ、と…。




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