101 Side.アグニル 5
「フゥー…。
これで後は…、彼奴らが網にかかるまで待つだけね…」
肩の力を抜きつつ、フィロンが言葉を吐く…。
「探すのは手間かと思ったが、ああも判りやすいとはな…」
「アレで無関係だったら逆に凄いわ…」
今回の任務の対象はとても判りやすかった。
通常の人ではありえない気配…、一緒にいる者の不自然な魂の炎…、フィロンの言うとおりこれで無関係ならどれほど数奇な運命を背負っているのやら…。
「さて…こちらは待ちになったわけだが…、アリス殿はどうなのだ?」
そう影に問いかけると…、
「こっちは問題無かったわ…。
異常も無し…、二人が見つけた奴らだけみたいね…今回の対象は…」
声のした影からヌルリと闇が這い出てくる…。
そしてその闇が流れ落ち…、中からアリス殿が姿を見せる…。
「私達は監視しつつ待ちますけど…、アリス姉さまはどうします?」
「……貴方達と一緒に待ちましょう…」
少しばかり思案し、同行すると告げるアリス殿。
「……やっぱり気になりますか…?」
我が主はアリス殿を特に気にかけていた…。
つまり…、今回の対象と遭遇すると何らかの損害を被る可能性がある、ということだ…。
何が原因になるか判らぬ以上、これ以上の行動は控えるつもりなのだろう…。
「貴方達程じゃないけれど…、私もクレス達を悲しませるのは嫌なのよ……」
私達程ではないとは言うけれど…、恐らく私達以上にアリス殿は気にしているはずだ…。
永く我が主の眷属として存在しているが…、我が主はアリス殿とテレス殿、そしてリース殿とグーロ殿には特に気にかけているように思う…。
私は眷属として…、フィロンは娘として一線を引いてしまっているが…、アリス殿達にはそういった線引きがないように思えるのだ…。
エクスタシスも(一方的に)線引きが無い気がするが今は除外しておく…。
やはり私達が出会う前に色々と在ったのだろう…。
少しばかり羨ましくもある…。
「私も父上を悲しませるのは本意ではありません」
「我が主の御心を乱す要素は万難を排して取り除くつもりです」
私達の言葉に、アリス殿が笑みを溢す…。
「あまり気を張らなくても大丈夫よ…。
恐らくは───」
アリス殿が何かを言おうとした時…、私達三人共気配のした方を向く。
「気配がいきなり現れましたね…」
「移動速度ではなく…、これは転移に近い、か…?」
フィロンも私もいつでも攻撃できるように備える…。
「恐らく魔王軍の"影憑き"ね…。
任務対象外だし、接触は避けるわよ」
「了解です」
「了解です」
……思わずフィロンと視線が合う…。
「後にしてね二人とも……。」
遮るようにアリス殿が告げる…。
「流石に自重しますよ…。」
「もはや反射になってしまっているな…。」
場所を移動しつつ、じゃれ合いが日常になってしまっている事に少しばかり溜息を吐いた。