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変わり者たちに告げる  作者: 咲花木
偽善の魔導機人と享楽の吸骨鬼
7/9

六話

宿屋でマルスから話を聞いた後、私はいったん自宅に帰り、弓と矢筒、そして普段は使うことのない剣を持ち森へ入った。


「にしても、タイミングが良いのか悪いのか。まぁ私にとっては良かったのかな。」


マルスとの会話で分かったことと分からなくなったことがある。まず分かったことは、マルスは複数人――おそらく何人かの豚人種(オーク)と一緒に森に入り、村に来るまでに別れたということ。これはマルスの言葉と壁に掛けてあったコートから推測できた。マルスの「森には長い時間はいっていなかった」という言葉はおそらく失言だ。森の奥深くに住んでいる衛兵には、ここから最も近い新人類の街まででも、歩いて4日かかることなんて知らないだろうと思ったのだろう。そしてマルスの言葉に嘘がなかったとすると、この村から長い時間森に入らずにたどり着ける村は私の記憶が正しければ二つある。一つは、西へ半日ほど歩いたところにあるテオ火山の中腹に存在する巨人種(ギガント)の村。もう一つは、東に一日ほど歩いたところにあるリブラ山に住む豚人種オークたちの村。巨人種の村は火山にあるため非常に暑く、豚人種の村があるリブラ山は標高が高く、この時期でも寒い。つまりそういうことだ。森にあった焚火の類はおそらく途中で別れた豚人種のものだろう。


「しかし、魔人類がこの森に入る理由は何となく想像がつくが、それが豚人種だということがどうにも解せん。」


豚人種は御世辞にもあまり頭が良いとは言えない。そして魔人類の中では比較的短命なほうであり、長くても150年生きるか生きないかぐらいだったはずだ。そうなってくると、当時を知らない(・・・・・・・)はずの豚人種が、わざわざ山を降りて森に入る理由が分からない。


「統率者が現れていたか、それとも外部から指導者が入ってきたか。まぁどちらにしても同じことか。」


聖域を害するものは討ち滅ぼすだけだ。


私は周囲を警戒しながら森を走る。地を蹴り、木を跳ね、宙を舞いながら、徐々に思考を加速させていく。向かう方向は西の火山でも東の山でも北の人里の方でもない。


「動くのならおそらく深夜。日が完全に落ち切っていない今ならまだ間に合うはず。」


向かう先は南。今はもう大陸の果てがあるだけとなってしまったが、かつては栄華を極めた一族がそこに居を構えていた。


イスラエール城跡。


200年以上前、大陸の三分の一を差配していたという吸血種(ヴァンパイア)の城である。






イスラエール城跡。その巨大な古城は、今はもう殆どが雨風や人の手によって崩れてしまい見る影もないが、それでも一応、外見は城の様相を保っている。そのため、この城の特徴もいくつか見てとれる。まず第一に、屋根が多い。吸血種は日の光が苦手で、基本的な活動時間は夜、昼間は活動していても屋内からは出ないのが常だ。しかし、ここの城主は変わり者で、吸血種であるのに太陽を好ましいものとして見ていた。故に、門から城の入り口まではもちろん、中庭や倉庫までの道には屋根だけが取り付けられ、横から見ると遮るものはないが、上から見るとまるで迷路のような形をしている。


「こんなときに思わぬ弊害が出るとはな。」


私はイスラエール城の外から木に登り観察をしているのだが、屋根が邪魔で見通しがとても悪い。正面の門から城の正門までの屋根などは破壊されているが、未だに健在な屋根が多い。敵の位置に関しては、張り巡らせてあった糸を通じて把握しているのだが、如何せん矢の射線が通らないため、ここからの狙撃は諦めたほうが良さそうだ。


「ゆっくりしている時間もなさそうだしな。」


敵はおそらく四人。歩みはそこまで早くはないが、真っ直ぐある場所へ向かっている。正門へ向かわず、真っ直ぐ東の離れへと。


「……本館でなく離れへ向かうか。これは聞きたいことが増えたな。」


吸血種は約200年前に当時の勇者に滅ぼされた。このことは多くの人が知っている事実である。吸血種は人の血を飲み日の光を嫌うが、三大魔人の一種と言われ、絶大な力を有していた。これもまた多くの人が知っている事実である。しかし、それ以上の事実を知ろうとなると、ぐんと難易度が上がる。例えば、どこに住んでいて、当時はどのようなことをしていたのか。前者は魔人族なら知っていてもおかしくない情報であるが、後者に関してはおそらく知る者はごく僅かだろう。他にも、種族の規模や活動範囲、そして身体的な特徴。他の三大魔人である龍人種ドラゴニュート悪鬼種オーガは様々な情報が流布しているが、吸血種だけは極端に情報量が少ない。これは、ただそういう風に広まる(・・・・・・・・・)ようにされていたからであるのだが、そうなるとあいつらの行動は少し妙だ。既に滅んだはずの吸血種の居城にやってくる理由としては、墓荒らし紛いの行為で金目の物を探しに来たか、良質な素材として彼らの骨や牙を欲してきたか、まぁそこらへんが妥当なところだろう。しかし、それが目的であるのならば、向かう先はまずは本館に行くはずだ。真っ直ぐ離れへ向かうなんて、そこに何があるかを知っているかのような行動に思える。

そんなことを考えつつ私は城外の木から降りた後、豚人種たちからかなり距離を取りつつ、中庭を進んでいく。


「……。」


瓦礫に埋もれた花壇や壊れた何かの彫像を横目に見つつ歩みを進めると、豚人種たちを目視で確認することができた。


豚人種が四人か。一人残っていれば問題ないな。


私はのそのそと歩く豚人種のたち50メートルほど後ろまで近づき、近場の瓦礫に身を隠して頭の中でプランを組み立てる。一射目、二人ずつ縦二列になって歩いている豚人種たちの後列左の後頭部を射貫く。やつらはかなりタフなので即死しない可能性が多少あるが、まぁ平気だろう。二射目、後列左が倒れたらそのまま前列左を、倒れず射線が通りにくかったら後列右を射る。仕込みはこれで十分なはずだ。後はタイミングを見計らって、矢尻に括り付けた糸を介してフォレストボアを狩ったときのように魔法を流す。もしこれでもとどめがさせなかった場合は、もう数射使うとしよう。向こうの魔法が分からない以上、接近戦はなるべく避けたい。


「さて、やりますか。」







豚人種たちとの戦闘は恙なく終了した。矢も余分に消費することなく、雷撃による周りへの被害もなかった上、予定通り情報源も確保することができた。ちなみに矢で殺した二人は既に埋葬済みだ。


「おい、起きろ。」


私は念入りに縛り上げた二人の豚人種を軽く蹴り起こす。


「グフッ……ワレラ、ドウナッテ…」


「グッ…ナカマ、ヤラレテ、イキナリヒカッテ…ドウナッタ?」


「ん、記憶はしっかりとしてそうだな。雷撃のショックで記憶が飛ばれてたら困ったんだが、その心配は必要なさそうだな。」


「キサマカ、ワレラ、オソッタノハ。」


「ああ、そうだ。」


二人の豚人種がこちらを見る。大きな豚鼻と二本の大きな牙が生えた彼らの顔は、人のものとは明らかに異なるものであるのだが、その目は最近見たことがある気がした。


「アッパレ!ワレラ、タオストハ、アッパレ!」


そして、仲間が殺され自身は囚われているにも関わらず、かけられたのは賞賛の声だった。


「ん?私はお前たちを襲い、仲間を二人殺したのだぞ?」


「タタカイ、ヤブレル、ソレデシヌ、シカタナイ。」


隣のもう一人も同じ考えなのか、うんうんと頷いている。


「ワレラ、ツヨキモノ、ミナ、アッパレ!」


罵声を浴びると思っていたんだが、こうも含みなく褒められるとやりにくいな…


「アッパレ!」


「ああ、わかったわかった、賞賛感謝する。ってか今更ながら新人類の言葉上手いな。」


「ショウグン、マルス、オシエテクレタ、コトバ。」


「将軍?マルスのことは知っているが、将軍ってのは何者だ?」


「ショウグン、エラクテ、ヤサシクテ、イイヒト!」


「ショウグン、ツヨクテ、トテモアッパレ!」


有益な情報とは言い難いが、今回の扇動者はその将軍ってやつだろう。教えた言葉については色々と言いたいことはあるが、どうにもそっちはマルスが主導していたような気がする。


「まぁわかった。それじゃ次に、何故山から降りて来たんだ?」


「ショウグンノ、メイレイ」


「どんな命令だ?」


「ショウグン、コノシロノ、ブキガワノ、チイサイタテモノ、イケ。」


ブキガワ?小さい建物は離れのことだろう。ブキガワ……武器側?……あ!武器持つ方の手ってことで右側か!


「いや、何達成感得てんだよ。ええっと、お前たちは将軍に言われてあの建物に行けって言われたんだな?」


そういって数十メートル先にある離れを指さすと、二人は頷いた。


「あの建物に何があるかとかは聞いていないか?」


「ショウグン、ムズカシイコト、イッテタ。」


「ワレラ、ムズカシイ、ショウグン、カンタン、ショウグンアッパレ!」


「さっきから天晴天晴うるさいわ!」


もうこいつはアッパレと呼ぶことにしよう。もう一人の方は、後で名前を聞くとするか。


「それで、難しいことってのはどんなことだ?覚えている部分だけでいいから教えてくれないか?」


「ムゥ……フッカツ、チ、シドーシャ?」


「血に復活、そして指導者か。なるほど。目的は読めたが、問題はどうやって実行する気なのかだよな。」


魔法は個人によって無数に存在する。故に、ゴールが分かっていても経路が完全に特定できないのだ。もちろんいくつかの経路を潰すことはできる。しかし、結果的にその潰す行動が、相手にとってのアドバンテージとなっていたりすることもある。


「その将軍は今どこにいるんだ?」


「ウミ、イク、イッテタ。」


「海?」


「ヒトニ、アウ、イッテタ。」


「人に会いに海へ行ったのか?」


復活させるための魔法を持ったやつがそこにいたのか?それとも復活後のことを見据えてか?


私がその場で思考を巡らせていると、城の入り口に張ってあった糸が反応をした。私は縛った二人を担いで離れの中に投げ込み、自分は近くの瓦礫に身を隠して、入口の方を伺いながら弓に矢を番える。


「出てくるが良い、熟練の狩人よ。」


声は低めでおそらく男。声の聞こえ具合からそこまで近づいてはいない。


「気配は隠せている。実に見事な隠形だ。しかし、先程魔法を使ったな?それも雷の。」


っ!なぜバレている!?豚人種に使った時には周りに人はいなかったし、入口に張った糸も気づかれるような太さではなかったはず。


「俺は鼻が良い。雷の魔法を使った後、そのあたりには鼻にツンとくるような特異臭がするんだ。」


「……。」


「部下の魔法は把握しているが、その中に雷の魔法を使うやつはいない。」


「……。」


「匂いもまだ強い。少なくともこの声が聞こえるぐらいの距離にいると見たのだが、出てくる気がないのならここら一帯を焼いても構わんぞ。」


この場を害成す者と判断。声のする方向から大体の位置は掴めている。私は身を隠していた瓦礫から飛び出すと同時に、魔法を発動してから番えていた矢を放つ。飛来する矢はまるで真横に落ちる小さな雷のようで、一直線に侵入者へと襲い掛かった。


「っ!?」


直撃。轟音と激しい稲光を伴った破壊の一射は確実に命中した。込めた魔法の威力も、先程の豚人種たちに放った雷撃とは比べ物にならないぐらいものであり、一撃で確実に殺せる火力を有していた。


「随分物騒な挨拶だな。驚いて心臓が止まるかと思ったぞ。」


「っ!?」


しかし、男は生きていた。最高威力の不意打ちを受けたにも関わらず、その口調は先ほどと何ら変わらない。


「それにとても痛い。これが治るのに一体何年かかるだろうか。」


流石に無傷ではなかったようで、前に突き出した左腕はぷすぷすと煙をあげ、二の腕の半ばあたりから先が黒焦げになっていた。しかし、あの一撃を左腕一本で受け切ったことに、私は驚きを隠せなかった。


「それはすまないな。ちゃんと一撃で殺してやるつもりだったのだが。」


「何、気にする必要はない。困ったことに、俺にはまだ死ねない理由がいくつかあってな。君の恩情に感謝する。」


私は対峙するその男を見る。紺色の軍服に軍帽を着た白髪の男で、見た目は新人類と似たような外見をしている。左胸と軍帽には三日月と剣がモチーフだと思われる紋章が付いているが、どこのものであるかまでは分からない。武装は腰に差した剣が一本と右手に持つ槍が一本。槍がメインだとすると、片腕を落としたのは大きなアドバンテージだろう。


「さて、狩人。いくつか聞きたいことがあるのだが、まずは何より一つ尋ねさせてもらおう。君はなんだ(・・・・・)?」


「……。」


「先ほど言ったように俺は鼻が良い。最初は魔法や装備によるものかとも思ったが、見る限りそうではない。」


「お前…」


「俺の知識にない同類かとも思ったが、この紋章を見て何も反応をしなかったことから、その線は薄い。」


私はゆっくりと矢筒に手を伸ばす。しかし


「っ!」


突然矢筒が燃え上がった。私は素早く矢筒を捨て延焼から逃れる。


「流石にあれをもう一度喰らいたくはないからな。」


「ちっ」


森であの蛇を焼き殺したのはやはりこいつか。しかし、どうやって矢筒を燃やした?予兆なんてなかったぞ


「ふむ、あまり深入りしてほしくない話題であったか。それならばすまなかったな。」


「気にするな。男にはナイーブな部分の一つや二つ持っているものだ。それにいちいち目くじら立てるほど幼くもない。」


「そうであったか。ああ、安心するがいい。俺は規律を何よりも愛する軍人でな。名乗り上げる前の不意打ちはしない。」


「矢筒を燃やしたのは不意打ちに入らないのか?」


「矢筒は君ではないだろう?それに死合いは互いに名乗るものだ。」


男の殺気が膨れ上がる。槍をその場に突き刺し、すらりと剣を抜く。


「酔狂なやつだな。聞きたいことがいくつかあったんじゃないのか?」


「ああ、死合いながら聞くことにした。」


こういう手合いだったか。今更逃げても矢がもうないし、遠距離戦はあまり有効ではなさそうだな。


私は手に持っていた弓を捨て、久しぶりに剣を抜く。精緻な作りの柄、不思議な光沢を放つ鍔、そして銀白色に輝く、半ばから折れた刀身。


「ふむ、それが君の獲物というのならよかろう。ヴィルヘルム王国特級陸戦騎士、アドラー・グリムガン。」


「今この場ではこう名乗らせてもらおう。7代目守護者ガーディアン、アッシュ・ローレント。」 


「いざ!」




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