浮遊は無限大を否定する
あ、
目を見開いてその人は呟く。その人は僕の目の前にいる。
薄くて細くて硬い有機物のカタマリに僕は齧りついた。
い
その人がもう一文字紡ぐ。一瞬の出来事なんだろう。
閾値を超えた力はその物体に破壊をもたらす。
た
鋭い音でまた綴られる。驚いてるのかな怖いのかな。
奔流が実体を連れてきて僕の喉を撫でながら落ちていく。
い
空気に揺らぎが編みこまれる。鼓膜が破れそうな音だ。
忘れられない表現できない味だからにんげんはそれを血の味と呼ぶ。
音を立てて空気を吸う
耳障りだ。
噛み千切る。噛み砕く。嚥下。吐きそうなほど不味くて愛おしくて。
何もない
何も聞こえない。でもそれは偽だ。
僕は笑いかける。目の前にいるその人は僕を見ようとしない。どうして。
何もない
何もない。それも偽。
喉を鳴らす。その人は僕を認識した。その認識はほんとうかもしれない。
多幸感と少しのいらつきを以って、正当化された僕はもう一度大きく口を開けた。
赤い涎が僕の望みだ