勇気のあり方
生きるのに意味や理由なんて必要ありません。
理由なんて所詮は後付け、趣味のようなものです。
しかし意味や理由というのはいかなる場合であれ崇高なものです。
今日、おじ上が死んだ。
俺の心はこの降り荒ぶ雨嵐のように荒れていた。
木々がしなり、岩が転がる。
物は飛び交い、雷が鳴り響く。
まるで俺の心を映しているようだ。
それもこれも全て奴らが悪い。
そう、おじ上を殺した奴らだ。
おじ上はとても素晴らしい方だった。
聡明で皆から慕われる。
俺に一人遊びを教えてくれたのはおじ上だった。
俺に食べられる植物や、生きていく知識を与えてくれたのはおじ上だった。
いや、俺だけではない。
おじ上は面倒見のいい方だった。
近くの子供らをあやしているところを見たことがあるし、その子らに危険な虫や動物を教えてあげていた。
その行いを感謝されたことも一度や二度ではない。
皆に愛され、そして皆を愛していた。
そんなおじ上が自慢だった。
おじ上はいつも言っていた。
「私は皆んな愛しているし、お前のことも愛している。しかしお前と皆んなは違うんだよ。皆んなも大事だが、お前は特別さ。お前より大事な奴はいない。だから、命を大事にするんだよ。」
嬉しかった。
こんなにも愛されていることが、こんなにも思われていることが。
おじ上のためなら何でも出来たし、何処へでもいけた。
おじ上が褒めてくれるならどんな辛いことだって耐えられる。
おじ上が一番でおじ上が全て、だったんだ。
でもおじ上は死んだ。
その知らせが来た時、涙は出なかった。
おじ上は有名であったから、そういったイタズラもなくはなかった。
勿論、こんなイタズラ度を過ぎていて、むかっ腹が立つが、またそれかと思った。
しかし、血に濡れたおじ上を見てしまえば、そう思ってもいられない。
おじ上が道の真ん中で倒れている。
俺は思わず駆け寄った。
道を飛び出すことはおじ上から禁じられていたが、そんな事は関係ない。
急ぎおじ上の顔を覗き込む。
その顔はその生気を失っており、いくら呼びかけても決して目を開く事はなかった。
それでも呼びかける。
いくらでも呼びかける。
しかし目を開かない。
それもそうだろう。
体が半分潰れていたんだから。
もうすでに死んでいる。
それは分かっていた、分かっていたが、だからと言って認められるわけがない。
朝までは元気だったのに、それがこんな。
とっさに後ろから引かれた。
振り向くと、先ほどのおじ上の死を教えてくれた奴がいた。
「危ないから離れよう。」
危ないだと、そんな事言われなくても分かっている。
だがそれとこれとは話が違う。
こんな、バカなことが。
おじ上を置いて行くなんて。
「おじさんは子供を庇って死んだんだ。」
彼は突然そんな事を言う。
おじ上が子供を庇って死んだ?
「ああ、おじさんは道に飛び出した子供を押しのけて轢かれたんだ。君のおじさんはとても素晴らしい方だ。身を呈して子供を守る勇気ある方だ。」
そうだ、そうだろう。
おじ上はそういうお方だ。
自分の危険を顧みない勇気ある方だ。
そうか、おじ上はそんな事を。
そうか。
俺は腰を上げた。
それはココが道の真ん中で危険であるからではない。
それがおじ上の意思でもあるからだ。
おじ上は言った、命を大事にしろと。
だから俺は動くのだ。
たとえ、おじ上の体を置いていくことになろうとも、おじ上が命を大事にしろと言うのだから、おじ上に従うんだ。
「さあ、急いで離れるよ。」
俺は頷き、先を行く彼に追従する。
道を渡り終え、一度だけ振り返る。
相変わらずおじ上の体はそこにあり続ける。
俺はおじ上に誓う。
俺はおじ上に負けないぐらいの男になると。
皆に慕われ、皆を愛する。
そんな男になると。
その為にも皆を守れるだけの力をつけよう。
体も大きくなろう。
そして、皆んなを大事にしよう。
そしていずれ死ぬ時は、おじ上のように誰かを守る為に死のう。
この命は救いの為に使おう。
猫として生まれて二年。
たとえ明日死のうとも、誰かを守れるなら恐ろしくはない。
この体、この命、そして俺の未来の全てはみんなの為に使うんだ。
それが俺のおじ上に捧げる祈りなんだ。