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《華開け》  作者: あつき
第1章
2/2

episode2

一方、城では言い合いが発生していた。

アイリスとキキョウだ。


「全部私に任せるってどういう事よ!」

「いや、だから主の意向で」

「そんなことは分かってるのよ!なんで主がそんなことを言ったのかを知りたいのよ!だっておかしいわよ、主は私に手伝わせることはあっても丸投げすることなんてなかったじゃない!主は時々抜けてるけど仮にも一国をまとめる国王よ?」

キキョウがギョッとした顔をする。


「仮って…れっきとした国王なんたけど、主。」

「とにかく!キキョウがいたのにも関わらず、この判断なのよね?はぁ、なんで止められなかったのよ。見つかったら大問題よ?」


「……先程、敷地内に異世界のものが迷い込んだ。」

「珍しいわね。でも、それだけじゃ、この判断は下さないわね。」

「ああ。その子は、彼女はerrorだった。」


「……error」

「そう。」

「なるほどね。だからか。……主はなんておっしゃっていたの?」


「もう二度と前のようなことは起こしたくない、と。」


「分かったわ。やるわ。」

「ありがとう。アイリス。」

「キキョウはどうするの?」

「俺はその子に見つからないように2人を影で守る。」

「了解。」


アイリスは髪をかきあげ、ため息をついた。


「それで?」

「えっ?」


アイリスは満面の笑みで言い放つ。


「何をしてくれる?」


キキョウがギギギという音をたてそうな感じで首ごと目をそらした。もしかしたら本当に鳴っていたかもしれない。

「何、とは?」


アイリスが、ふふんと鼻を鳴らす。

「わかっているんでしょ?これだけ大変なことを私にやらせて、しかも、これからまた主のところに行くんでしょう?ということは、主の元に私がキキョウを送らなきゃいけないのよね?何かあってもいいんじゃないの?」


当然でしょ?とばかりにキキョウに言う。


まぁ、半分は主の意向として、でも、もう半分はお礼を貰っても当然である。本来ワープは自分の為にやるもので、他人を送ったり、二人同時に送ったりすることはないのだ。一応できないこともないが、自分のみワープさせるよりはるかに魔力を消費するのだ。


「あー。疲れるなぁ。他人を送るのは魔力の消費が激しいのよねー。」

「……何でも致します。アイリスの仰せのままに。」

「あら。ありがとう。」


アイリスが満面の笑みでキキョウに抱きついた。キキョウは、飲まされた条件こそ痛かったが、今のアイリスの行動でまあいいや、と少し思った。




頭を撫でられている気がする。手の重みが心地いい。もう少しこのまま寝ていたい。少し薄目を開ける。視界に何か映るが睡魔が襲い、再び目を閉じる。頭を撫でていた手が頬を滑った。くすぐったい。寝かせてよ。そう思ってイヤイヤと首を振る。


クスッ


笑う声がした。一気に頭が覚醒する。パチリと目を開けば目の前には切れ長の目を持つ鬼がいた。

ばっと起き上がりそのままずるずると後退する。どうやら私は鬼に膝枕をされながら寝ていたらしい。


「あああああああのあのあのっ」

動揺して、物凄くたくさん"あ"を言ってしまった。


「はははっ」

鬼が笑った。やはり犬歯がキラリと光る。


「わ、笑わないでくださいっ!」

「あ、ああ。すまない。面白かったもので。」


鬼はまだ少し苦しそうに笑っていた。


私は、自分が意識を失う前のことを思い出した。ただ、先程みたいに取り乱したりはしなかった。少し寝たためか、頭の中が整理されたのだ。


「あの。」

今度はきちんと喋る。ちなみにだが、冒頭のテンションは困惑していた為で、普段は落ち着いているのだ。


「うん?」

「あの、此処は何処ですか?貴方は誰ですか?戻れないって、どういう事ですか?」

「質問攻めだね。」

「すみません。」

「いいよ。答えるよ。まず、此処はアルディラという世界だ。君たちでいう、ええっと……」


「……地球、ですか?」

「そうそう!」

「此処は死後の世界なんですか?」

「いや!まさか!なんて言ったらいいかな、所謂パラレルワールドみたいなものだと思ってくれればいいよ。」

「正確には違うんですか?」

「まあね。でも説明は面倒臭いから省くけどいいね?」

私はこくりと頷く。


「よし。それで、次は僕のことか。僕はシランという名前だよ。僕は混血でね。正直何種類の血が混じってるのか分からないんだ。この角は確実に鬼だろうし、耳だって少し尖ってるし、犬歯は獣から来てるから吸血鬼から来てるから分からないし……」

吸血鬼と聞いてドキリとした。喰われるんではないか、と。ただ、それを感じ取ったのかシランは慌てて弁解した。

「あっ、別に僕はひとを食べないよ。血も吸わない。安心して。ああ、そうだ。君の名前も教えてくれないかい?」


そう言われて初めて私は名乗ってないことに気がついた。

「私は柊と言います。よろしくお願いします、シランさん。」

「よろしく。それで、最後か、戻れない理由。」

「……はい。」


シランはしばらくうーんと唸りながら渋々といった体で説明を始めた。

「まず、今現段階で帰る方法はみつかってない。ただ、柊が言うように、もしかしたらあるかもしれない。もし、万が一仮に見つかったとして、でもそれでも君は帰ることができないんだ。」

「……なぜですか。なぜっ……」


喉がきゅうっと締まり涙声になる。視界が滲む。

ぎこちなくシランの手が頭にのった。

「すまない。心して聞いてくれ。」

シランはこういって、柊の頭を撫でながら一つ一つ丁寧に話した。


私のいなくなった地球では、私の居なくなった穴を埋めるべく"辻褄合わせ"が起きる。つまり、私は初めから、地球に存在していなかったことになるそうなのだ。

地球とここ、アルディラでは時間の進む速さが違い、アルディラにほんの少しいただけでも地球では一ヶ月経っていました、なんてことがあるのだ。

そして、私はどうやらアルディラに長く居すぎたみたいだった。直ぐに蜻蛉返りすれば1ヶ月や半年、1年で済んだかもしれないらしい。

ただ、できなかった。だから辻褄合わせが起きたらしかった。私はいない存在として扱われることになったのだ。


涙が溢れて止まらなかった。何度も何度もしゃくりあげて泣いた。そのあいだもシランは私の頭を撫で続けた。私が泣き止み、恥ずかしくなってリタイアするまで。




私はシランにアルディラのことを色々と教えてもらった。

アルディラでは二十程の大きな国が存在し、『(完全)王制派』『武力派』『民主派』と、ざっくりと三つの派閥に分かれている。

私の迷い込んだ森はカルヴェル王国という国の領地で、カルヴェル王国は『民主派』に属する。民主派とは、地位や仕事は各個人の能力を重視して振り分けられる。つまり、貴族であろうと、能力が無ければ畑を耕しているし、田舎生まれの人でも国王の側仕えを任されることもあるらしい。能力重視型、ということだった。


他にも、アルディラでは魔法を使うことが出来る。もっとも、魔力を持っているのはアルディラの人口の約1割程度で、その他の9割は魔法を使わない、あるいは魔力を付与した魔道具を使ったりする。シランはその9割の方らしく、そのアドバンテージが無い分様々な知識を詰め込んで実力をつけたという。


「魔力を持っている人はそれだけでとても大きなアドバンテージを持っているからね。」

「え、でも能力重視なんですよね?ただ持っているだけで優遇されるんですか?」

「いやいや。そこは流石にカルヴェルだから、能力重視なのには変わりないよ。あくまでアドバンテージを持っている、というだけだよ。それに、魔力を持っている人も馬鹿ではないから、しっかりと己を磨く者ばかりだよ。」

「へぇ。」

「だから、アドバンテージが効くんだよ。」

シランはため息をつき肩を落とした。

「なるほど。」



他にも、シランは貴族生まれであることも発覚した。というのも、今私達は、ひとまず森から出るために歩いているのだが、どうやらここから出るのは2週間くらいかかるみたいで、私が、

「じゃあ、食料とか確保しないといけませんね。あと寝るところも。他にも色々やることがありますし…。シランさんは何ができますか?」

と聞いた。

森の中にいるのだから、私より出来ることははるかに多いだろう。シランの足でまといにならないといいな。と思いながら聞いた。ところが、

「……すまない。何も出来ない。」

と返された。


「え?何も、とは?」

「いや…面目ないことなんだけど、僕、実は貴族生まれで、身の回りの世話を全て任せっきりで育ったもので…」

シランは申し訳なさそうに首をさすった。


「能力重視……」

「努力したから。」

「そうですか。」


困ったな。ひとりでやることが増えてしまった。いや、教えればいいのか。うん。そうしよう。私は一人で頷き今からの行動の計画を立てようと思った。が、ふと気がついた。


「あれ……?では、何でここにいるんですか?」


シランがスッと柊から視線をそらした。


「……はぐれたんだ。付きの者と。」

「あぁー。」


じゃあ、まず最初にシランを返さなくては。従者を探す方が早いかシランを送り届ける方が早いか……うん。送り届ける方が懸命だ。


「シランさんの家は何処にあるんですか?森を出たらそこまで行きましょう。」

「えっ?」

「送り届けます。」

「え、いや、ちょっと待って。」


物凄い勢いで戸惑われた。何かおかしいことを言っただろうか?うーん、と唸っている。


「あのぉ」

「いや、その、うーんと……今家出をしているんだ。」

「何かしたんですか?」

「……まぁそんな感じ?帰ったら確実に雷が落ちるね。だから、ほとぼりが冷めたら帰るよ。僕はまず柊のことをなんとかしなくちゃいけないと思うね。探すんだろう?帰る方法を。」


ええ。と頷く。

私はもう帰れないが、もし私以外の人がここに迷いこんだときに帰れるようにしてあげたいと思ったのだ。


「だから、当分の宿と働き先とか決めないとね。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ、決まりだ。ひとまず、今日はここらあたりで休むとしようか。」


私達は周りに高い木が囲むちょっとした芝生みたいなところで止まった。


「分かりました。じゃあ、私は枝とかを探してきます。シランさんは食べられるものを探していただけますか?」

「任せろ。」

私はその言葉を聞き、森の奥へ走った。




「主。」

シランの後ろから、それもかなり高い位置から声がした。

「もういいよ。降りてきても。」


ガサガサっと音を立てて何か塊が降ってくる。すとっと地面にたどり着く音がする。キキョウだ。高い気の上から降りたにしては軽い着地だった。


「あの、主。少し言わせていただいてもいいですか?普段モードに戻ってもよろしいですか?」


「ああ。」

「それでは。」


キキョウが息を吸う。そして一息に喋った。

「シラン、お前は馬鹿か。魔法使えないって何言ってるんだよ。しかも、貴族生まれで何も出来ないただと?じゃあ、これからどうやってここから出るつもりだ?嘘をつくなとは言ってないが矛盾が生じても知らないぞ?それにしてもよくそんなにペラペラと嘘を言えるものだな……」

「ヴッ」

シランがしゅんとして縮こまった。


「いや、城に帰ったら雷が落ちるのも貴族生まれなのも事実だよ…確かにちょっと嘘を吐き過ぎたとは思ってるけど。魔物は僕が柊に分からない程度に威圧しておくよ。よっぽどの鈍感か盗賊とかは無理かもしれないが。」


はぁ。とキキョウが頭を抱える。

「そのときはどうするんだ?」

「実は護身術は学んでました。って言うのはどうだい?」

「……まぁ、そのくらいしかないだろうなぁ。それにしても、国王と旅をしてたなんて知ったらあの娘びっくりするだろうね。本当に感謝してくれよ?問題にならないように頑張ってるんだから。」

「ああ。帰ったら何か作るよ。」

「おお。ねだってみるものだな。よし。俺も食材探しを手伝いますよ、主。」

「あぁ。」

急にキキョウの口調が変わるがシランは気にすることなく歩き出した。


二人の姿が森の中へ消えた。

お読みいただきありがとうございます。

恐らく、次に投稿のは春頃になると思います。

もしかしたら気分転換に載せてるかもしれないですが。

それでは、あでぃおす。

追記

誤字脱字等のご指摘お願いします。

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