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結、中秋と饒舌な解説

 結局のところ、俺はただ避けていただけなのだ。こういう事件にうってつけの知り合いが、俺にはいる。なのになぜ最初にそいつに相談しなかったのか。答えは単純、気まずいからだ。

 あの夏、知らず繰り返した、知らず繰り返された夏の日々を、俺はほんの一日しか覚えていない。しかし、たとえばふとした瞬間に、話した覚えのない話を、聞いた覚えのない話を、聞いたような、話したような気がする時がある。そんな時はその繰り返しの日々の残滓なのかもしれないと夢想するときもある。とはいえ、これは考えても詮無いことだ。忘れたことを忘れているのか、ただの思い違いなのか、考えるだけ無駄だ。あいつに聞けば答えてくれるだろうが、そんなことをいちいち聞いても――あいつはきっと笑って聞き流し、ホラを吹いてごまかすだろう。そして、あいつ自身はひそかに気にするに決まっているのだ。

あの夏の日に約束した通り、俺は翌日も、その翌日もあいつのところに行ったが、違和感じみた凝りが徐々にたまって、初めは何かの用事を、そして次にはちょっとした忙しさを口実に、何度か行かない日があった。行かない日には凝りの重苦しさが少し減り、かわりにちょっとした罪悪感が生まれた。そしてますます行きにくくなって、そして、俺はいつしかあいつのところに行くことをやめてしまった。

 あれからもう、一年が経った。彼女の事や、今回の件が起こって、そちらにかかりきりになっていたからと言い訳にするほど俺は無神経じゃない。ただ、あいつの孤独を知っていながら足の遠のいた自分が恥ずかしかった。

 それでも、だ。

 今回のことは、言い訳にはなるかもしれない。あいつに会いにいかなかった言い訳ではなく、あいつに会いに行く言い訳くらいには。

 そんなわけで俺は、――女々しくも言い訳がましい理屈をつけながら――新荷冬芽に会いに行くことにした。


 とはいえ新荷に会うことは、そう簡単なことではない。あの頃なら会いたかろうが会いたく無かろうが、結局ほとんど毎日会っていたのだが、俺が新荷を避け始めたころから不思議なくらい全く会わなくなっていた。探そうともしていなかったというだけじゃない、きっと新荷もまた、俺を避けていたのだろう。思えば、遠慮会釈もないようでいて、案外つまらない気の回し方をする奴だった。だからこそ、今回は俺が新荷を探しあてなければならない。


 で、さっそく今日何度目かの暗礁に乗り上げた。

 新荷冬芽は神出鬼没だ。校舎内のどこにでもいるしどこにいるわけでもない。おおむね人気のないところでひっそりと惰眠をむさぼっている。例えば空き教室だったり、使われていない予備室だったり、授業のない選択教室だったり。あいつはいつも、誰もいない場所に居る。そう思って校内を探し回って、しかし、そのどこにも新荷のいないのを確認して、俺は頭を抱えた。神出鬼没、かつ気まぐれ。必要のないときこそあらわれて、こんな大事な時にはいないのだ。あいつらしいといえばそれまでだが……。校舎内をくまなく見まわった後、疲れ切った俺は自分の教室に戻ってぐったりと自分の席に腰を下ろした。そうして、机に突っ伏しながら考える。新荷は、今どこにいる? あいつも、鬼ごっこやかくれんぼじゃないんだから、わざと俺から身を隠すために校内を逃げ回っているというわけでもあるまい。学校の中のどこかにはいるはずなのだ。そう、いつもいる、馴染みのような場所があるはずだ。例えば俺の、この教室の自分の席のように。そう考えて顔を上げる。そうだ、新荷の教室はどうだ? そしてその考えに即座に自分で突っ込みを入れた。新荷はどの学年にも属さない。従って、自分の教室など、ない。俺は再び頭を机に載せ直した。どうしたらいいのだ。こういう時こそ新荷の饒舌が懐かしい。冗長で無駄な饒舌の嵐。いったいどこで仕入れてきたのかというようなとりとめのない知識の雨。とりわけあいつの読書量ときたら……。


「―――!」


 俺は立ち上がった。新荷は自他ともに認める読書家だ(新荷自身はブックワームと自分を揶揄していた)。しかし、あいつが本を読んでいる姿も、そもそも本を手にしている姿も見たことはない。ならば、いつどこで読んでいるのか?

図書館だ。


    ※


 放課後の図書室、それも閉館時間の過ぎた後の図書室に、人はいない。

 図書館の扉は、閉館時間を過ぎているのに、俺が押すと抵抗なく開いた。俺はそれで確信を深め、勢いよく扉をあけ放った。そして素早く薄暗い館内を見まわし……見つけた。

 窓辺の席に行儀悪くその机に腰を載せて足を組み、片手の文庫本に目を落としている、強い巻き毛を腰まで伸ばした女生徒――新荷の姿を。


「新荷」


 俺はためらいながらも思い切って新荷に声をかけた。なぜって? 長く避けていたことを恥じたから、だけじゃない。あんまり、新荷の姿がいつもと違って見えたから。静かな新荷の表情に、ちょいとばかりためらった、それだけだ。けれど俺には今、それ以上に重要な用事があるのだ。


「おや、トワ君。これはこれは。ふふ、珍しいこともあるもんだね」


 新荷は俺の声に顔を上げ、俺の姿を認めると、本を脇に置き、目を細めて可笑しそうにくすくすと笑い、言った。


「いらっしゃい。本嫌いな君がこんなところに来るなんて、どうやら今晩は雪が降るな」


「今はまだ秋だから降っても雨だろ。じゃなくて」


 懐かしい表情に、いつも通りの口調でいつも通りにからかわれた俺は、思わずいつも通りの突っ込みを入れ、しかしすぐさま気を取り直した。


「新荷、一つ頼みがあるんだが。いや、頼みというか、質問というか……とにかく話がある。今大丈夫か?」


「くっくっく。こいつはおかしい。一年の無沙汰を差し置いて、第一声が、今大丈夫か、だって? この私にする質問としては、実にナンセンスな質問だね。ナンセンスすぎて逆にセンスがある。この私に、君と語り合う以上の用事があろうはずがないだろう。なんだい、トワ君。なんだって聞いてもらって構わないよ。思えば君からこうして話があるだなんて、実にめずらしいことだね。心して聞かせていただくとしよう」


「無沙汰は謝るけどよ……。相変わらずだな新荷……」


 調子のいい立て板に水は一年たっても当然のように健在だった。今まで肩に力を入れていたのが馬鹿らしくなる。とはいえ、本題はここではない。

俺はすべてを説明した。時には新荷に問われるままに、全く関係ない話までさせられつつも、俺の知っていることはすべて話した。自分でもうまい説明だとは思えなかったが、新荷は、にやにやといつもの笑みを浮かべたまま、行儀悪く膝に頬杖をついてふんふんと聞いていた。コイツが聞き手になる日がこようとは思わなかったのでその様子はちょっとばかり新鮮だった。

聞き終えた新荷は「なるほどね」と一つうなづいた。


「トワ君の頼みと『質問』はあい分かった。ならば私は饒舌らしく、饒舌にて応えよう」


 にやっと笑った新荷の表情は――あの頃とまったく変わらない、自信に満ちたものだった。


    ※


「幸い、私は『その話』を知っている。実に単純なことさ。語るに忍びないほどにね」


「『話』を……?」


 新荷は、俺の疑問ににやにやといつもの笑みを浮かべてすぐには答えなかった。そしておもむろに、腰かけていた机からひょいと降りて、すたすたと図書館内を歩き始めた。歩きながら、饒舌に口を開く。


「事実は小説より奇なりというけどね、実際のところ小説の方が奇なのさ。現実に起こることなんか、小説が語り終えた既刊なんだ。今回の話もそう、ある小説の筋書きに実によく似ている。悪質なパロディと言い切ってもいいくらいにね。おそらくその“犯人”はこの小説を読んだことがあるんじゃないかな。オリジナルの発想なんて、世の中そうそう無いものだよ。全ての芸術作品はリスペクトという名の引用と、影響という名のパロディで出来上がってるなんて言う人もいる。全てが想像の産物みたいなファンタジーの世界だって、もとになる小説はあるし、そもそもその小説だって、もともとは世界中の神話を基盤にして考えているのさ。ウォーホルなんか見ているとそれを改めて指摘されたような気分になる。世の中劣化コピーと量産品だらけなんだってね」


「ご高説ありがたいけども、一体全体それがどういう関係があるというんだ」


「まあまあ、焦るなよ。時間は有限かもしれないが、今はまだ焦るような時期じゃない。じっくり行こうじゃないか。忘れたのかい、私は饒舌だよ? のんびり脱線して、じっくりわき道にそれていこうじゃないか」


 実にうれしそうににやにや笑いながらそう言う新荷の顔を見ると、いつもながらしかたないなという気分になる。しかたない、俺も腹を据えよう。


「ウォーホルの有名な作品に、同じ肖像写真を配色だけを変えて何枚も摺ったものがあるが、それを思い浮かべてもらおうか。色によって同じ人の顔が様々に見えてくる。見方を変え、焦点を変えるのさ。背景を、配色を変えて考えるんだ。トワ君、君が言う事件とは、はたしてその、封筒の盗難が問題なのかい? もっと大事にすべきポイントがあるんじゃないかな」


 図書館の隅、閲覧席の中に一つだけ、誰かが座った跡のまま椅子の開いた席があった。新荷は語りながらそこにたどり着くと、ごく自然なしぐさでそこに腰を下ろした。足を組み、新荷は完全に腰を落ち着けた様子だった。俺はその向かいの椅子を引き出し、そこに座った。


「ネズミ算ってわかるかい。1匹の鼠が、複数の鼠を産む。受け取った一人が複数人に送信する。そしてネズミ算と言ってまず思い出すのはネズミ講と呼ばれる商法だね。友達紹介システムとかマルチ商法とかいうのだったか。ある商品を複数の友人に勧め、勧められた友人がさらに複数の友人に勧めれば紹介料分丸儲けってあれさ。ネズミ算の図を想定すれば無限に儲けられるはずのあの商法がなぜ詐欺だって言われるかわかるかい? そう、友人とは有限だからさ。六次の隔たりなんて言葉もあるが、あれは手紙やネットでの友人を含む時だけさ。直接商品を手渡し、説明し、商品やお金を受け取ることができるような直接的接触のできる友人のコミュニティなんて、高が知れている。だから、あっという間に破たんする。つまり、限定された空間での伝播っていうのは、飽和状態になりやすいということだ。トワ君、覚えはないかい」


 いつも通りの饒舌だと思っていたら、不意に話を振られた。俺は首をかしげ、そして、思い至った。


「……ノロイメールか」


「正解。トワ君の記憶力でそれを覚えているとは奇跡だね」


「……これでも受験生でね」


「そいつは重畳。その調子で入試も頑張りたまえ。私には試験も何にもないから、応援しかできないけどね」


 墓場で運動会ってか。


「不幸の手紙というのは、けっこう昔からあるものなんだ。はじめは直筆の手紙で、やがてコピーされたりFAXになったり、今ならメールと手段は時代で変化したが、どちらにせよ人を介して伝わっていくものだ。インフルエンザの伝播に近いね。某大学研究グループが噂の伝播速度を調査するために始めたとかいう説もある。生き物は遺伝子の乗り物だって本が出て一時期話題になったこともあったかな。なんにしろ、伝わるという現象は、人間が思う以上に広範で迅速で、確実なんだ」


「ああ、まあ、俺にも届いたくらいだからな」


「くふふ、トワ君の自虐はさておくにして、さて、そこで問題だ。受験生ならしっかり答えなよ。『そのノロイってのを、どうしてみんな信じることにしたのか?』」


「どうしてって……?」


「証明問題でさえない、推測問題さ。ノロイなんて非科学、18世紀じゃあるまいし、21世紀のわれわれ科学教育の申し子である学生が信じたりなんかするのかい。可笑しいじゃないか。朝の星座占いが「今日は最悪の日」で危険だから外出しない、なんて学生がどこにいる。そう簡単に科学からオカルトへ宗派を鞍替えしたりするかねえ?」


 最も科学教育に反するお前が言うなよ……という突っ込みは、また脱線させそうだから、今は抑えるとしよう。代わりに俺は新荷の問いに答える。


「よく分からんが、目の前でノロイが実際に起これば、その気になるんじゃないか」


「そう、まさにその通りだ。そして実際そうだったのだ。いいかいトワ君。そのノロイの一番初めは階段から落ちた不幸な友人と君は言うが、実際のところ、まさに、夏に出回ったチェーンメールこそがその本当の始まりだ。チェーンメールであらかじめ、入れ知恵されていたのさ。君はその文面を見ていないようだが、おそらくそのメールで、その落下事件――いや、ノロイを、『予言』していたのだろう。そうすれば、ただの不幸な出来事は、ノロイの結果と成る。逆に言えば、メールで予言したとおりのことを起こしさえすれば、誰でもノロイそのものになることができる。そうだろう」


「……そうか、逆なんだ。先に予言があるんじゃなくて、先にノロイの結果がある、そういうことか」


「その通り。今日はずいぶん冴えているね、トワ君。そう、ごくありきたりなノロイっていうのを人為的におこすことはごく簡単だ。その日時を、内容を、起こした本人があらかじめメールでお知らせしていただけに過ぎない。あるいはただただ煽っているだけでもいい。無関係な第三者を装ってね。人の不安は、煽られれば勝手に悪い方へと向かうようにできている。――なんのことはない、ノロイの予言じゃなくて、事件の予告だったのさ」


 そこで呼吸を置くと、両手を肩の高さに挙げ、『やれやれ』というポーズをとっておどけて見せる新荷。


「そう考えれば話は簡単だ。そしてその目的もまた簡単に推測できる。これもまた、その小説の通りだ。トワ君、最後に確認するが、そのノロイ、『解く方法』もまたうわさで聞いているんだったよね?」


「えっと、なにか呪文を唱えるんだったか……」


「呪文だけ? 場所や行動も同時に指示しているんじゃないか?」


「そうそう、そうだった。ホコラに行って学校の神様に祈る、んだったか? ホコラってのがどこにあるかは知らんが」


「……わはは。ずいぶんと皮肉の利いた呪文だねえ。学校の神様か、くくくくく」


 聞いた途端、新荷は心底可笑しそうにおなかを抱えて笑った。


「新荷?」


 あんまり笑うので気になって声をかけると、新荷は笑い過ぎて涙目になった顔を上げ、


「いや、失礼。こほん、こっちの話さ。――さてさて。これで解決だ。お参りと言ったね? トワ君、君はもし神社にお参りに行ったらどうする? 二拝二拍手云々の話じゃないぜ。お賽銭だ」


「そりゃ、入れるよ。初詣とかなら……」


「幾ら?」


「え? 10円くらいだけど」


「トワ君、そりゃ『遠縁』に通じるから縁起が悪い、今後は5円にしたまえ」


「え、値段下げるのか」


「ごろ合わせってのが大事なんだよ。とくに初詣なんて一年の始まりの大事なお参りだ」


「ふぅん……」


「じゃ、真剣なお参りならどうする? しっかり両手を合わせてお祈りして、それで支払いは5円かい?」


「ごろ合わせが大切なんだろ?」


「縁起の悪いごろ合わせがダメなんだ。悪くなけりゃ何でもいいよ」


「そんなもんか。じゃ、500円くらいかね」


「一気に格を上げたね。なかなかいい心がけだ。まあしかし、多くの場合がそうだろうということも、トワ君これで分かったろう? 身の回りに蔓延するノロイに本気で脅威を感じたら、そのぶん本気で何とかしようと思うものだ。そこへおあつらえ向きに、ノロイの解除方法も出回っているときた。そうしてみんな、その神社に貢いでいくというわけだ」


「……ってことは、その犯人は神社の関係者か?」


「はっはっは、ずいぶん迂遠な集金方法を使うもんだね。いやいや、そんな不確実なものではないよ。ただ神社とだけ言った場合に自分の神社に来る確率の低さを考えてみたまえ。ここは公立の学校ではなく、生徒の通学は広範なんだ。この学校でわざわざ流行らせたそのノロイ、当然もっと効率的な方法がある。ノロイを解きたい哀れな子ヒツジが行くべきは、神社でもなければ寺でもない、ましてや教会でもないよ」


 聞いて俺は腕を組んで首をかしげた。


「効率的、ねえ。っていっても、神社も寺も区別できないような信心のない俺にはそういう話は分からん。……あ、そうか、ホコラ神社とかホコラ寺とかいう名前の場所が」


「ない」


 断言された。


「くっくっく、だがまあ、しかし、当たらずとも遠からず、だな。君みたいに迷う者にうってつけの場所がすぐ近くにある」


「は? そんなのあるのか? どこに」


「正確には学校の裏山であって校内と言うにはちと距離があるがね。そこの体育館の裏手に竹林があるだろう。その奥にあるのさ。まあ知らないのも無理はない。今はただの朽ちかけた社跡だ。近くの村から徒歩で行っていたみたいでね、横手に獣道があるんだ。昔は盛大な祭りごともあったそうだけど、今じゃ廃れてしまった。そう、そこにはホコラがある。ホコラってのは固有名詞じゃない、一般名詞だ。小さな社の事をそういうんだよ。そうだね、この辺りに昔から住んでいたり、学校に昔から務めているような人ならきっと知っているだろう。そして、ちょっと想像してご覧。たとえば君が知りたいことができたとき、たとえば学校の近くにホコラがあるかどうか知りたくなった時、君はどうする? きっと身近な大人に聞くだろうね。『ホコラに行きたい、どこにあるか知っていますか』と。そして大人は答えるだろう、その祠の事をさ。それが先生と生徒の間柄であれば、なおさら親切に、行き方まで全部、教えてくれることだろう。――実は、最近はそこを通る人間が多くてね。それも、結構な夜中にさ」


 なるほど……。……ん? え? おい、ちょっと待てよ。それはつまり……。


「……知ってたのか、新荷。最初から」


 俺が説明を終えたときから、いや、それどころかもしかしたら俺が会いに来た時にはすでに。すべてを知っていたうえで、今まで黙っていたのか。いつものことながら、この無意味な秘密主義には脱力する。


「わはは。おいおいトワ君、私が何者か、まさか忘れたわけじゃないだろうね。私に知らないことはないよ。学校の中に限ってだけどもさ」


 愉快気に、まるでいたずらが成功した子供のように笑う新荷。


「だからまあ、夜中のにわか信者たちが学校の外にある祠で何をやってるかまでは知らないがね。しかしこれで今なら推測可能だよ。彼らは、熱心に礼拝していたわけだ。居もしない学校の神様とやらに、有りもしないノロイの解除をさ」


「……」


 新荷の推理――推理と言うのもおこがましい、目撃証言と推測でしかないが――に、俺はしばし沈黙した。あるいは今日までこいつの助言を願わなかった自分が悪いのかもしれないが、しかしこんなに間近に答えそのものを知る人物がいるとは思わなかった。今までのごたごたは一体何だったんだという話で……。いや、まてよ。


「おい新荷。確かにお前の話で、ノロイメールってやつについてはよくわかったよ。だけど、大事な話は聞いてないぞ。俺が聞きたいのは、賽銭詐欺じゃなくて、盗みだ」


 危うくこいつの饒舌で煙にまかれるところだった。俺はそもそもそんな大層な賽銭詐欺の話を聞きたいわけじゃない。もっと身近な話なんだ。


「あっはっは。せっかちだねぇ、トワ君。もちろんこれはまだ伏線だ。前提、背景と言ってもいいかもね。君の疑問なら答えてやるよ。つまり――垣谷女史の金はどこへ行ったんだって話だろう」


 にやりと笑った新荷は、それから、充分にもったいをつけ、あれこれと冗長な饒舌を付け加え、最後に答えを断言した。

 俺はその答えを聞いて……すぐさま図書室を飛び出した。


新荷冬芽による、あからさまなデウス・エクス・マキナ。

「悪いけども、トワ君に探偵役は似合わないよ」とでも言っておきます。

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