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承1、初秋と彼らの進展

 翌日。前日夜まで起きていたせいか、遅刻ギリギリに駆け込むようにして学校に来てみると、なぜか騒動が起きていた。がやがやとして、廊下の、隣の教室の入り口あたりに人だかりができていて、教員がなにか問いただしているようだ。

 とりあえず俺は関係ないと決め込んでさっさと自分の教室に入る。おかげで遅刻にならないで済んだ、とホッとしていると、普段俺に話しかけたりしたことの無い奴が声をかけてきた。


「あれ、何の騒ぎか知ってるか?」


 誰だっけこいつ。えーと、ああ、そうだ、山ノ村だ。


「いや、しらん。今来たとこだ。何かあったのか」


「なんか、裏切っただのなんだの。も、掴み合いの大げんか、マジで見ものだったぜ。さっきヨージロがきて二人とも連れてった」


 やたら嬉しそうに説明する山ノ村。そういうのを楽しそうに説明するの、あんまよくないと思うぜ、とは口に出さないでおく。むしろどこのだれが喧嘩しようと俺には何の関係も無いので興味もわかない。とはいえ(前の俺ならここで全スルーするところだが、)なにも返さないのも悪いかと思い、席に座りながら、とりあえず興味のあるふりだけしておく。


「へえ、誰と誰」


「央野と、あと確か、……だれだっけ、ほら隣のクラスの、いつも央野にくっついてた」


 お前が知らないやつをどうして俺が把握してることになってんだ。とはいえ、央野の名前くらいは知っている。というかこの学年で央野の名前を知らないやつはいないだろう。そしてそれにくっついてたやつということは、とりあえず例のグループということは分かる。ということは女子だ。なので適当に返しておく。


「へえ。女子もこの時期荒れるんだな。この前の模試の成績でも悪かったんかね」


 しかしあのグループか。後で垣谷にでも聞いてみるか……いや、やめておこう。無駄に心配させることも無い。

 などと考えているとすぐに教員が来て騒ぐ野次馬を追い散らして授業になった。チャイムが鳴れば静かになるあたり、俺たちもシツケがずいぶん行きとどいてるってことだ。結局他人の騒ぎに違いないというのは共通意識らしく、あっさりしたものである。


    ※


 休み時間になって、垣谷が教室にやってきた。といっても、よそのクラスに入る勇気はないらしく、ドアのところからちらちらとこちらをうかがっている。俺はすぐ教室を出て垣谷に近寄る。


「どうしたんだ」


「あ、あの、穂高クン、」


 垣谷は困ったように眉を下げた笑顔を見せ、


「えっと、どうしてるかなって思って……」


「どうしてるもなにも」俺は戸惑いながら「見ての通り、元気だ。……まあ、この前の模試は悪かったが……。垣谷も返ってきたのか?」


 朝のHRで返ってきた模試結果の成績を思い出し、ちょっとばかりうんざりした気持ちになりつつ答える。


「あ、うん。そう、それ……。わたしもあんまり、よくなかったの。ねえ、穂高クン、今日の帰り、模試の見直し、一緒にしたいな」


 じっと俺を見あげて言う垣谷。目が真剣だった。そんなに垣谷もヤバかったのか。


「おう。……あ、しまった、今日は模試の問題もってきてないわ。明日でいいか?」


「あ……、そ、そっか、そうだよね。うん、そういえば私も問題持ってきてなかった……。今日はできないね」


 途端に、しょぼんとうなだれる垣谷。よほど模試が心配らしい。


「でも、やっぱり今日がいいな……」


 小声ながら珍しく食い下がる垣谷に、俺は頭を掻いて、


「模試じゃなくていいなら。いつもの喫茶店でいいか?」


 ぱっと表情を明るくしてうなずく垣谷に、俺はホッとした。これが正解らしい。


    ※


 喫茶店のいつもの席(店の奥のテーブル席)で広げた問題集に眉根を寄せていると、向かいの身を乗り出して垣谷が覗きこんできた。


「どこやってるの?」


「あ、ああ、ここなんだけど。垣谷は出来たか?」


 悩んでいた問題を指差す。近い、とは口に出さずに。


「あー、これ、私もできなかった……」


 まじか。まいったな。


「しゃあない、また今度にしよう。……そういえば垣谷、今日はいつもの、頼まなくてよかったのか?」


「うん、ちょっと、ダイエットしようかなって」


「ふぅん」


 俺としては首を傾げるしかない。垣谷の体型、これ以上細くする必要があるのか? 女子の基準は厳しすぎるのではなかろうか。


「ほ、穂高クン……あんまりじろじろ見ないで……」


「あ、ああ、すまん」


 そんなにじろじろ見ていたつもりはないんだけど。このへん、女子の難しいところだ。垣谷を見てると、どちらかと言うと俺なんかは、もっと食え、と言ってしまいそうになる。いや、そういうこと言うと、最近じゃセクハラとか言われるんだっけ。垣谷にセクハラとか言われたらちょっと、いや、けっこう傷つくかもしれん。他のやつなら別に気にならないんだが。垣谷の場合、だいたいは顔に出さないくせに、怒った時は目に出るんだよな。で俺、垣谷のあの表情に弱いんだよな……。うぅむ。


「……ね、穂高クン」


 ぐちぐちと心の中で思考を巻いていると、垣谷に呼ばれた。はっと我に返る。


「穂高クンって、普段、なにしてるの?」


「普段? 普段……」


 唐突な質問に、俺は考え込んでしまった。何もしていない、というのが正解なんだが、見栄を張りたくもある。悩んでいると、垣谷は


「たとえば、友達と遊んだり?」


 と助け船を出してくれた。俺はそれにうなずいて、


「まあ、だべる程度だけど」


 最近はそうでもないが、友達がいないと思われるのも嫌なのでそんな風に答える。嘘は言っていない。今はそうではないというだけだ。


「そっか……」


 俺の答えに、何故か考え込む垣谷。お、俺、間違ったこと答えたか? ばれた?


「ねえ、その友達って、クラスの子?」


「いや……」


 クラスに友達はいない、と断言してしまいたくなるが、それも悲しい事実である。とりあえず、


「まあ、垣谷は知らないやつだよ。あとは家でゴロゴロしてるな。垣谷の方こそ、どうしてるんだ。やっぱり、音楽とかか?」


 と話を振った。垣谷は以前、新しい音楽プレイヤーが欲しいと漏らしていたのを思い出したのだ。


「あ、うん。でも、えっと、最近は聞いてないかな……」


「まあ、忙しいしな……勉強で」


 受験生の会話は、だいたい最終的に暗い話題になる。垣谷もそれが分かっているらしく、あいまいに笑って話は終わった。

 結局勉強会はそのあと1時間くらいで終わった。会計時に、垣谷の所持金がわずかに足りず、垣谷が動揺するという一幕があったが、俺が颯爽と支払うことで事なきを得た。おかげで懐は寒くなったが俺の株が大変上がったのでホクホクである。こういっては何だが、普段かっこいい所など何もないのでこういう機会は大切にしたいところだ。


起承転結で4話完結にしたいところでしたが、うまく承をまとめられなかったので、とりあえず承1としました。


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