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時空追いかけっこ

宇宙の果てを見ようとしたら、過去に行き着いた。

何を言っているのかわかるかな?わかるはずだ。


宇宙誕生からおよそ138億年。宇宙が晴れ上がるまでに38万年かかったとはいえ、138億年という巨大な時間を前にすれば、ほとんど誤差みたいなものだ。


地球から最も近い銀河であるアンドロメダ銀河まで、二百五十万光年以上の距離がある。だから、僕たちが観測できるのは、二百五十万年前のアンドロメダ銀河だけだ。


もっと遠くを見よう。乙女座のM87は、はるか彼方6000万光年先にある銀河だ。僕たちは6000万年も昔に放たれた光を、やっと乙女座の中に見出しているわけだ。


それで、地球から138億光年先の光を見ようじゃないか。そこには何が見えるんだろうか?


「宇宙マイクロ波背景放射」が見える。


・・・なんだそれ?


そう思うのも当然だ。それは、そう名付けられているだけで、つまり、138億年前に放たれた光を見ているだけのことだ。

ほら、過去に行き着いた。地球からはるか彼方、138億光年先には、宇宙の始まりが見えてるんだよ。


それじゃあ仕方ない、ということで、君が一つの挑戦を始めたとしよう。

ものの1年の間に、138億光年先にたどり着けるスーパーマシンを作って、君は宇宙マイクロ波背景放射目指して一直線!


で、何が起こるか、想像してみてほしい。


138億光年先の宇宙との距離がみるみる短くなって、君は138億年と1年あとの、「地球から138億年先の地点」にたどり着く。そこは全然宇宙の果てなんかじゃないし、そこから見渡せば、宇宙は138億と1光年彼方まで、はるばる広がっている。


どこに行っても、宇宙が始まったのは138億年前。宇宙のどこから見ても、138億光年先には、いつだって宇宙マイクロ波背景放射さんがあぐらをかいている。


ここで振り返って、地球を見てみよう。


いま、地球との距離も、138億光年だ。だから、そこには、138億年前の地球の姿…って、行きすぎたか。まだ地球なんて存在しないからね。


よし、100億光年くらい戻ろう。同じマシンなら、9ヶ月とか、10ヶ月くらいかかるのかな?これで地球との距離は38億光年。


こうすれば、38億年前の地球の姿を、そこに見ることができるんだ。やっと海が生まれて、原始生命が生まれて、プレートが作り出されたくらいの地球。生命の惑星の黎明期。


そんな姿を見ることができる。宇宙を使った考古学。素敵じゃないか。


お?気づいてくれたかな?


これが過去に戻る、相対性理論的タイムマシンってやつさ。

光の速度を超えて、地球を遠ざかる。触れることはできないけど、過去を見ることはできる。いいねぇ、光の速度が超えられたら。


そう、実際には、光の速度は超えられない。人間が質量をなくして、ただの量子として生活しない限り、光の速度に近づくことすらできない。


だから実際の君の旅は、悲惨なものになる。


光速の半分の速度で地球を旅立った君は、1年後、地球から0.5光年先の地点にいる。でも、宇宙が生まれてから、さらに1年の時が経過している。つまり、宇宙の果ては、地球から138億と1光年先に遠ざかっている。君と宇宙の果てとの距離は、0.5光年遠ざかってしまったわけだ。


なんかおかしい?

僕もそう思う。


これはつまり、僕が君の方に歩いて行ったら、君がもっと遠くに行っていた、ってことだ。


でも、君はここにいるだろ?


実は、遠くに行ったのは、過去の君であって、現在の君じゃない。

現在の君との距離は、いくらでも縮められる。ほら、一応、138億光年先にだって、たどり着けたでしょ?でもそこは宇宙の始まりの姿じゃなくて、現在の姿をしていた。


つまり、過去の君との距離は、いつだって光の速度で離れてしまっているんだ。


考えすぎると、すこし頭がおかしくなっちゃう気がするな。


よし、気が狂う前に、地球に帰ろう。振り返れば、そこに地球がある。いまから半年前の光が、僕たちのところに届いている。


あれ?おかしいな?


僕たちは1年かけて、0.5光年先にたどり着いたはずだ。

でも、地球では、まだ半年しか経ってないじゃないか!


大慌てで地球に帰ろう。何か良くない予感がするからね。


1年かけて、0.5光年を戻って、地球にたどり着く。

その時の地球は…君の出発から2年後だ。


君が帰ってくる一年の間に、君の見かけのうえでは、地球では1年半が経過している。


だから君は尋ねるかもしれない。


「おい、このところ、君らの時間の進み、遅くなったり、早くなったりしかったか?」なんて。


違うんだよね。

車がすれ違うのと一緒。「お前の車、時速120キロで走ってたぜ?」なんて言っても、お互いが時速60キロですれ違っただけでしょ?


だから、僕たちだって、時間の乗り物に乗っていて、ビュンビュンハイウェイを疾走してるわけ。たぶん、光の速度で。


高速鉄道の中で、思い切り後ろに走ったら、少しだけ前進が遅れるだろ?でも、また前に向かって走って元の席に帰ってきたら、やっぱり高速鉄道と同じ速さで進んだことになる。


それと同じ。


めいいっぱい駆け抜けるっていうのは、この時間の乗り物から飛び出そうとすることなんだ。宇宙が一つの時間の乗り物になって、時空の海を突き進んでいる。


落っこちないように、下手なことはしないで、しがみついておくのが吉だ。

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