古典的タイムマシンへの注釈
「えー、今日はどうも、お集まりいただき、ありがとうございます。
『古典的タイムマシンへの注釈』なんていう、胡散臭い表題で、それをこないな関西弁で公演するっちゅうんは、いくらなんでも詐欺くさいやろ、と。皆さんの顔を見ればわかります。えらいトンデモ学者がいたもんやな、と、ほら、あんさんなんか、ほんとに顔に書いてありますやん。
ちょっと鏡見てみ?ほんまやって。なあ、ほら、隣のにいちゃんも、見てあげてや。
うそです。へっへっへ。
それで今日は、何の話かといいますと、タイムマシン。これについて、ちょっとお話をしようと思うとります。
そもそも、なんでわたしがタイムマシンの話をするかと言うと…驚かんといてくださいよ…わたし、未来人なんです。
一応、2684年生まれの、さそり座、B型の男、という設定になってます。
せやで、設定や。未来人なんているわけないやろ?アホか。
えーと、なんやったけ?
そうそう、タイムマシン。これな、なんでこないな人気があると思う?わかりますか?
これな、時間っちゅうんはな、人間にとっての限界ですねん。
たとえば、魔法。これ、えらい人気ありますやろ?なんでかっちゅうたら、そら、好きな時に女の子のスカートをめくれるっちゅうんが、男にとっちゃ夢だからですよ。
鉄壁の壁をな、こう、打ち崩してくれるわけです。これが、限界を超えるっちゅうことです。つまり、不可能を可能にする。
テレポートとか、透明人間とかな、ああいうんと一緒や。できひんかったことができるようになる。それだけで、人気になるっちゅうわけですな。
でもな、タイムマシンはどうにも、人間の頭には荷が重すぎた。
タイムパラドクスって言葉、皆さん、知ってますわな。ちょっと、にいちゃん、説明してもらえますか?
せや、『過去を書き換えたら、同じ現在にならないから、矛盾する』その通り。
でも、これ、ほんまにそうなるんやろか?
そう思うた人が作ったんが、パラレルワールドってやつです。つまり、僕がこないな講演したなかったわ、と思って、明日、この講演を引き受けた日に飛んで行って、『この講演あきまへん、引き受けません』と、何ヶ月か前の僕の代わりに電話を受けてしまったら、今日の僕、ここにおらんことなるわけです。
でも、おかしいですやん。
せやったら、明日の僕がわざわざ過去に行く理由がないやん?ほら、矛盾しとるわけや。
でも、もしもここで講演している僕と、していない僕が、同時に存在することができたら、そんな問題なんも気にせんでようなります。これが、パラレルワールドです。
講演した世界線の僕は、明日、過去に行って、講演をやめさせます。でも、また明日に戻ってきたら、やっぱり、講演したという記憶は残っとって、講演したという事実も残り続けます。
でも、講演を断ったっちゅう事実も残らんとあきまへん。これが残った世界線が、もう一つ、どこかに生まれるわけです。そっちの世界では、僕はいまごろ、世界中の美女に囲まれて、ビーチでくつろいでます。
なんでそっちの世界線に乗らへんかったんやろなぁ。
でも、このパラレルワールドっちゅうんは、たぶん、間違いやと思います。
これは、時間っちゅうもんをよう理解してへん人が作った、妄想です。
今日のお話は、ここからが一番大切です。
まずね、皆さん、『同じもの』ってなんでしょうかね。たとえばこの服。昨日のこの服と、今日のこの服、『同じもの』って言えると思いますか?
これが『同じもんや』って思えるのは、人間が、時間を勝手に結びつけて、頭んなかでこう、ぐちゃぐちゃーっと都合よく解釈しとるからなんです。
何を言ってるか、わかりますか?
たとえば、僕、今朝、車を運転しました。そこの駐車場に止まってます。もし、今、僕の家に、よう似た車があったとしたら、それは、僕の車と同じ車ですか?
ちゃいますやろ?
これと同じやねん。僕が着てるこの服と、よう似た服が過去に置いてあったとして、それは僕の服とは違う服なんです。
でも、車の例を考えれば、もう一つ、おもろいことに気づけます。
車が今、うちにないのと同じで、過去に服はありません。
時間っちゅうもんは、乗り物やと思った方がいいです。ほら、僕たちもいま、地球に乗って宇宙んなか、ブワアッってぶっ飛んでるやろ?それと同じで、宇宙は、時間に乗って、ブワアッって時間の海のなかをぶっ飛んでるわけや。
せやから、もし、タイムマシンに乗って、過去に行ったら、何があると思います?
そこには何もないんですわ。かえって何かあったら怖いでしょ。もし何か、僕らの世界によう似た世界がそこにあったら、それは、僕らの時間を追いかけてきてるストーカーっちゅうことですわ。
せやからな、『古典的タイムマシン』っちゅうもんは、大嘘なんですよ。
ほなら、『古典的』やなくて、『新しいタイムマシン』やったら嘘やないんやろ?って、聞きたくなるのが人間ってもんやろ?
『新しいタイムマシン』って、どんなもんになるか、想像つきますか?
これが想像できた人いたら、手ぇあげてください。僕も聞いてみたい。
お?
おるな。ちょっとスタッフさん、マイク渡してあげられますか?
…云々」