《4の国》の菓子職人と金髪貴族(推定)のお話・なろう版
文学かといわれると謎ですが、ファンタジーっぽくないので。
近くて遠い4つの世界のお話
世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水
天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し
波紋は大地となった
波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて
それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している
これはそんな世界の《4の国》の話
欲と機械の国、科学が発達した国
仕組みを理解できずとも使える”力”に溺れるかもしれない、危うい国
《4の国》の内海に接する国の1番《3の国》に近い地方で、先祖代々続く菓子店があった。腕のいい職人を親に持ち、自分もそうなりたいとこの道に入った。修行の為、古都へと赴き2年の歳月をかけて故郷へと帰ったのだった。
祖父と父と兄と彼女で作った上生菓子、焼き菓子、御饅頭をガラスケースに並べると、彼女はそのまま販売の方へと回る。職人兼看板娘なのだった。普段であれば彼女の母も売り子として店番をするのだが、兄の子供を幼稚園へと送って行く間だけ彼女が1人となる。ちなみに兄の嫁である義姉は、腕利きの弁護士さんで毎日忙しく働き、嬉しそうに兄の作った菓子を食べて英気を養っていた。
そんなある日、菓子職人の目の前にはいわゆる『騎士』の格好をした美丈夫が。近所では見た事のない美形、そしてパツキン。この国では黒髪濃茶の目が一般なのにと彼女は思う。北か中の外国出身なのだろうと予想をたてた。よくいるのだ、内海に接する国のサブカルチャーに傾倒する外国人が。
「コスチュームプレイヤー!!衣装が良くできていますね!!」
「私が作った訳ではないが……」
「自作する人ではないのですね~、お決まりになったらどうぞ」
パツキンレイヤーさんはガラスケースの中の菓子たちを、きょろきょろと瞳を輝かせながら見つめている。に、にあわないな……と思う菓子職人。パツキンレイヤーさんは、桜を象った上生菓子と御饅頭を2個ご購入。
騎士風パツキンレイヤーさんは500円玉を2枚差し出す。菓子職人は失礼にも謎の金貨とか出してきたらどうしようと思っていたが、そんな訳がない。ありがとうございましたの声に、また来ますとのパツキンレイヤーさん。
普通のお店にあんな格好で来てしまう、TPO弁えていない人だけど穏やかな笑顔が眩しいお兄さん。普通の格好でも十分格好いいのだろうなと思う菓子職人だった。
それから月に何度かパツキンレイヤーさんはお店を訪れるようになった。ある時は騎士の格好で、ある時はお貴族様な格好で店を訪れた。本日のコスチュームは、上品な刺繍が施された深緑のフロックコートに、細身のズボンに艶消しをされた革のブーツ……合皮であろうか?よくできているなぁ~なんて思いながら菓子職人は、挨拶をする。
「いらっしゃいませ」
「今日は御饅頭を贈答用にしていただきたい、頼めますか?」
「もちろんです、お幾つ包みましょうか?」
箱と個数を聞いて贈答用に包む、熨斗を付けたら、パツキンレイヤーさんは500円玉を3枚差し出す。お貴族様が500円玉を持っているなんて、なんだか笑ってしまうなと失礼な事を考えながら釣りを渡し、ありがとうございましたと告げる。お貴族様はにっこりと笑って手を振って、紙袋を持って店を出ていった。こんな事を数ヶ月繰り返しているうちに、町に奇妙な噂が流れ始めた。いわく、白馬の王子様が街を徘徊しているという……、菓子職人はあのパツキンレイヤーさんだろうと予想したが、事実は彼女の予想を斜め上を行く。
何故なら
「菓子職人殿、本日は店はお休みですか?」
「……おぉぅ」
パツキンレイヤーさんは、モノホンの白馬に乗って町を闊歩していたからだ。白馬は王子様を修飾しているだけの単語かと思ったら、本当に乗っていたという事実。町のメインストリートと言えば格好いいが、普通の道路のアスファルトに馬。ちゃんと左側通行で道路交通法には違反していない、……違反はしていないがTPOどこへ行った!?
休日の菓子職人は、トイレットペーパーをぶら下げながら、そう心の中で叫んだ。
「菓子職人殿?」
「あ、お、お休みです。あの……最近、王子が徘徊していると噂になっていますよ?なので、もう少し普通の格好をしたほうが……」
「これでも、普通の格好をしているのですけどね。それに私は本物の王子なので、噂ではありません。真実です」
なんて苦笑いするパツキンレイヤーさん。
「なんですと?」
「王子です。一身上の都合で、もう気軽に《4の国》へと来れなくなってしまうので、その前にもう一度貴女の菓子をいただきたいと思ったのですが……残念です」
「あ、《3の国》の方だったんですか!?レイヤーではなくモノホン……」
「ものほん?」
聞くところによると、王族であるパツキンレイヤーさん。いや、レイヤーではなくパツキン王族さんだった彼を驚きの表情で見上げる菓子職人。
《3の国》にはリアル王族がいる事は知識で知っていたが、まさかの本物。しかも、もう来れないと彼は言う。菓子職人はパツキン王族さんの袖を引っ張りお店へと続く道を行く、本来ならば気軽に触れるなど不敬罪なんだろうなと思いつつも、ここは《4の国》、身分なんてそれ程気にする国ではないのだ。
ちょっとくらい大目に見て貰おうと、さらに袖を引っ張るとパツキン王族さんは、菓子職人を白馬に引っ張り上げ、横抱きにしてパカパカと店へ歩を進めた。
白馬を店の隣の駐車場につなぐと、パツキン王族さんを厨房へ案内する。
菓子職人は白餡・白玉粉・砂糖を用意して、練りきりを作り何色かの色に染めあげ、かたどっていく。初めて見るだろう菓子作りの工程に、熱い視線を向ける彼。桜に紫陽花、撫子、紅葉、椿や銀杏の葉、最近面白そうだと思って購入した薔薇や蝶の型も使ってとにかく華やかに箱に詰めていく菓子職人。
「あ、ひとつ作ってみますか?型を使えば簡単ですよ」
「……いえ、貴女の手から生みだされる花を眺めている方が素敵です」
とても綺麗ですとパツキン王族さんは、ため息と共に呟く。知らず顔が赤くなる菓子職人、綺麗なのは菓子だ菓子と心の中で念じながら。
外は夕焼け、赤く輝くパツキンが風になびく王族さん。騎士のものなのか貴族のものなのか菓子職人には解らない礼をとり、手に口づけのまねをすると彼は言う。
「素晴らしい一時を下さった貴女に感謝を」
そうしてモノホンの王子様は駐車場に停めて(?)あった白馬にまたがって《3の国》へ、役割と魔法のファンタジーランドへと帰って行った。
写真位撮らせてもらえばよかったかなと菓子職人、もう会えないと改めて考えたら涙が出てしまう彼女。しょんぼりとする彼女を見て、家族もなんとか慰めようとするが昔気質の職人たちは、まったく色恋には気が利かないのだった。
「王室御用達とか書いておくか?」
父親は達筆でさらさらと『王室御用達』と書いて店に張った。それを見た母親は呆れて「何の解決にもなっていないわよ?」とため息をつく。祖父は祖父で
「金髪など浮かれたやつは駄目だ!!」
などと言う。それを聞いた祖母に「天然の髪色に文句を言うな」と怒られる祖父。全然デリカシ―のない男どもだった。
そして数ヶ月、ちょっとしたおとぎ話だったんだよとあきらめがついた頃に。
「お久しぶりです、戴冠式が済んだのでまた来れる様になりました」
菓子職人家族は店の前で目を丸くする。かのパツキン王族さんは、護衛の騎士と思われる人たちを引き連れて、白馬に乗って来店したのだった。その護衛の中でも、位の高そうな人が店の入り口辺りに視線を彷徨わせている。菓子職人の父親と母親は、娘を慰めようと冗談で張っていた『王室御用達』の紙を何故剥がさなかったのかと絶賛後悔中。
そんな両親には気が付かず菓子職人は尋ねる。
「戴冠……したんですか?」
「しました。王になりましたので時間の融通が利くようになったのですよ」
「陛下、融通ではなく我侭が効くようになっただけです」
護衛の中でも位の高そうな人こと護衛長さんが王の発言を訂正する。《3の国》の中にある医療大国と呼ばれる国の王となったパツキン王さんは、薬草学の権威でよりよく効く副作用の少ない薬の研究者でもあるそうだ。
「しかしどうしても味が悪くて、幼い子供達に飲ませるのは心苦しいものなのです。ただでさえ闘病で辛い思いをしている子供達に、少しでもご褒美をと思いこちらの菓子を購入させていただきました……。なので、あながち『王室御用達』も間違ってはいませんので、お気になさらず」
菓子職人一家は赤面した、近年まれにみる恥ずかしさだった。
それからもちょくちょくパツキン王様は、その菓子店へやってきて菓子を購入していった。その町は白馬の王様が徘徊していると噂になり、観光客までやってくる事態に発展した。安全が保障できないと護衛長さんは憂慮した結果と王の我侭の結果、菓子職人がかの国へ移住することに決定した……
その待遇は『神官』と『王妃』。
神官から王妃となった彼女の作る菓子は、苦い薬の後のご褒美として子供達以外にも好評となる。どうせなら薬自体を甘味で包んでしまえばいいのではないかと《3の国》の薬学会に新風を吹き込み、歴史に名を残すこととなる。
「あ、あの、《4の国》には普通にある糖衣錠ですから……。そんなにすごい事ではないですよ?」
「いいえ、研究上《4の国》の形態を見ていますが、全然違いますし綺麗です」
目の前には《4の国》の糖衣錠を真似た、似ても似つかない物体。
強いて言えば落雁の中に薬を詰めたもの。形は小さな薔薇の花。口の中に入れると甘さと共にほろりとした口どけに、ほんのりとした苦さがアクセントとなっている、薬の苦さを逆手に取ったものでその名も『王妃様の愛』。そんな恥ずかしい名前と共に、王と王妃のロマンスが長く語られることとなる。
クロレキシ、クロレキシだ~~~と、王妃様が叫んだとか叫ばなかったとか。
めずらしく身分差なお話ですが、あっさり乗り越えてしまう話。
読んでくださってありがとうございました。