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真夏のストレート  作者: 樟 秀人
第1章 入学編
9/10

8話[春の都大会編Ⅲ]

更新が遅くなりすみません!

まだ試験が残っているのでなかなか更新することが難しいのですが、空き時間に頑張ってコツコツ書いていくので、長い目で見ていただけたらと思います!

 午後1時


 午前中に走り込んだ啓介は食堂に昼食を求めて来た。食堂に入ると既に昼食である特大のオムライスが用意されていた。

「あ、五十嵐君お疲れ様! ご飯出来てるよ! 」

 エプロン姿で調理場に立つ青葉が言った。オムライスの出来栄えは完璧だ。

「森山さん! わざわざ僕のためにごめんね! 」

「いやいや良いの! 遠慮しないでどうぞ食べて! 」


 啓介は先程までの疲れなど忘れ、特大オムライスを勢い良く食べ始めた。青葉は啓介の前に座り、その食べる姿を見つめていた。


「森山さん! このオムライス抜群に美味しいよ! 」

 ご飯粒を一つ頬に付けて笑顔を見せる啓介。

「本当!? ありがと! ……ふふっ! 五十嵐君、ほっぺにご飯粒付いてるよ」

 青葉が微笑んで啓介の頬に付いているご飯粒を取った。啓介は少し恥ずかしくなって頬を赤らめた。


「森山さんはどうしてマネージャーになったの? 」

 啓介はふと思ったことを聞いてみた。青葉は不意な質問をされて少しだけ驚いていたが、

「私のお兄ちゃんがね野球やってたの。それでその姿見ていたら野球やってる人ってかっこいいなーって……あ、私別にブラコンじゃないからね!? 」

 啓介は何も言っていないはずだが、何故か青葉は焦っている。その姿に啓介は思わず笑ってしまった。

「ははははは! 森山さんって面白いんだね! 意外だなぁ」

 啓介に笑って貰えれば青葉は何でも良かった。その後も些細な話が盛り上がった。



 5分もすれば皿に山盛りにされていたオムライスを完食してしまった。口の周りをティッシュペーパーで拭う。

「ご馳走様! 森山さん、また今度もオムライス作ってくれる? 」

「も、勿論作ってあげるよ! 五十嵐君に満足してもらえたみたいで私も嬉しい! 」


 啓介は青葉の手を握ると、再びグラウンドに向かって走って行った。青葉がその背中を見つめていたことなど啓介は知りもしなかった。



 午後2時には先輩達が帰って来ていた。啓介は食堂にいた国枝に練習を終えたことを告げた。国枝や阪本達も先輩達も、次の相手の試合の映像を見ていた。テレビを見つめる先輩達の目はギラギラしていた。

「五十嵐、お前もこの試合見ておけ。同じ投手としてこいつはライバルになるだろうからな」

 阪本に言われ啓介は亮の隣に座ってテレビを見た。


 テレビに映し出されているのは、洛陽学園と昨年春夏ともに甲子園出場している愛知県の葛川くずかわ工業の練習試合だった。洛陽学園のマウンドに立っているのは髪の長い、モデルの様に美しい顔の男だった。

「五十嵐、マウンドに立っているこいつ1年生だぞ! 名前は東條茂って言ったかな? 」

 颯人が啓介の肩を叩いてそう言った。しばらくピッチングを見ていると、東條の実力が分かった。


 東條茂。神奈川県のボーイズリーグ(中学硬式野球リーグの一つ)の湘南中央ボーイズで二年連続全国ベスト4、そして東條が三年生の時には全国制覇までしているチームのエース。打者としても驚異的なセンスを持つが、何よりも投手ピッチャーとしての実力はもはや天才の域だった。


 150km/h近くもある速球ストレート、大きく打者の手元で縦横に変化するスライダー、フォーク。そしての東條の最大の武器は、投げてから打者に届くまで大きな球速差で打者のタイミングを崩すチェンジアップ。


 その投球に葛川工業も9回で僅か1点しか取ることが出来なかった。27個のアウトの内、19個も三振を取っている。それも全国レベルの相手にだ。

「ったく、これで1年なんて化け物にも程があるぜ」

「東條だけじゃなく捕手キャッチャーの進藤も注意だよな。あいつは今年のドラフト有力候補だからヤバいぞ……」

 先輩達から不安の呟きが聞こえる。その時、

「弱気になってんじゃねーぞ! 1年生相手にお前らビビってんのか!? だったら野球なんて辞めちまえ! 」

 と城戸がテーブルを叩いてチーム全員に喝を入れた。城戸は喝を入れ続ける。

「東條も進藤も関係ねー!! 俺達は甲子園に出るために勝つ、それだけだろーが!! 」


 監督の国枝の前ではっきりものを言える姿はさすが強豪高校の主将だ。国枝も城戸には相当な信頼を置いている。周りの先輩達が黙り込む中、

「こんな1年生のガキに負けてられないっすよ! ねー皆さん? 」

 真鍋だけは東條や進藤達との対戦を楽しみにしている様だ。こういう場面で真鍋は頼りになる。


そして国枝が口を開いた。

「先に負けることを考えているやつは今すぐこの野球部から出て行け。別に引き止めはしない。俺は勝つ気のある選手だけで試合に勝つつもりだ」


 実力がありながらも結果が残せない理由の最大点は、チーム全体のメンタル面の弱さだった。城戸や真鍋、太田はその点において別格だったが。


啓介は黙り込む先輩達の姿を見ていられなかった。啓介が憧れた昭栄高校はこんな所ではない。

「……試合は明日だ。勝つ気がある奴だけ今からグラウンドに来い! 」

 国枝が大声で選手全員にそう言うと、先輩達を含め選手全員がグラウンドに向かって走り出した。啓介も遅れを取らない様に着いて行った。



「今から俺が終わりと言うまでベースランニング(走塁の基礎練習の一つ。状況に応じたベースの周り方やスライディングなどを練習する)を続けろ! いいな!?」

『はい!! 』

 国枝の言葉に全員が元気良く返事をするが、正直言ってかなり過酷な練習メニューだ。それは誰もが分かっている。それでも走らなければならない。今のチームにはその位の根性が無ければいけないのだ。


「っしゃー!! 全員乗り切って明日の試合勝つぞ!! 」

『っしゃー!! 』


 城戸の掛け声で一人ずつ一塁ベースからホームベースまで一周して来る。何本続くか分からない。それでも啓介は必死に食らいついて行った……


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