7話[春の都大会編Ⅱ]
前回からの更新が遅れてすみません!
今回も頑張りましたので最後まで読んで頂ければと思います!
「五十嵐、お前コントロール良いな」
室内練習場で亮に向かって10球程投げ込むとそう言われた。隣のマウンドでは明日の試合に向けて太田が調整をしていた。その目は何時もの様な穏やかな目ではなく、完全に明日の試合を見据えていた。その瞬間太田からはエースの風格を感じられた。
「ただ右打者への内角に投げ込めないのは致命的だな。いくら球が遅くても内角に攻められなければ俺は配球することは出来ないぞ」
「うん。自分でも分かってるんだ。いつも右打者に弱いんだ」
啓介は自分の右手を見つめて言った。
中学3年の春。たった一度だけ頭部に当ててしまった死球がキッカケで啓介は右打者の内角に投げられなくなった。その打者は啓介の幼馴染、そして最大のライバルだった。当たり所が悪く、外傷性視神経損傷と医者に診断され、その幼馴染は視力が低下しそのまま野球を辞めてしまった。
その時のトラウマを啓介は今でも引きずっている。克服しようにも右打者が打席に立つと内角に投げられなくなってしまう。
「ま、とりあえずシャドウピッチング(ボールの代わりにタオルを握ってフォームのチェックをする基礎練習)でもしておいた方が良いぞ。……じゃあ俺は明日の準備を始めるから。ありがとな! 」
マウンドに来て亮は啓介にボールを手渡すと、肩を叩いて室内練習場から帰って行った。
「やっぱり内角投げられないといけないな……」
と呟いて啓介はグラウンドに行き、走り始めた。
4月17日午前6時半
第一試合は9時から行われるためベンチメンバーの20人、マネージャーの沙良、監督やコーチ達は昭栄高校野球部のバスに乗り込んだ。
春の都大会は全国高校野球選手権大会(一般的には甲子園という)の予選の都大会でシード権を得るための重要な大会である。夏の都大会はシード権が有るか無いかで大きく変わる。特に投手への負担は一試合でも多く減らしたい。そのため甲子園に出場するためにはこの春の都大会が重要な鍵を握っていると言っても過言では無いのだ。
バスの中はとてもピリピリとした選手一人一人の集中力や試合に向けての熱が感じられた。颯人はその空気に飲み込まれないように耳にイヤホンを着けて窓の外を見つめた……
二軍の選手達は午前7時半に食堂に集合した。二軍主将の原が朝食後に指示を出す。
「今から応援に行くから上半身だけセカンドユニフォーム(遠征や2日続けての練習試合用に部で幾つかユニフォームの種類がある)バスに乗ってくれ! 」
他の選手達が食堂を出て移動した。啓介は原の下へ行き申し出た。
「原さん! グラウンドに残って練習しても良いですか!? 」
原は、
「そう言うと思っていた、と阪本コーチが言っていたぞ。お前には練習させる様に言われている」
と言ってくれた。
僕の言うことを予想出来るなんて、選手を良く見ているなぁ……
啓介は阪本に感心して1人で頷いた。
「寮には森山が残るから、昼飯は森山に頼め。何かあったらすぐに学校かコーチ達に連絡しろよ」
「はい! ありがとうございます! 」
啓介は早速グラウンドに向かって走り出した。
午前10時45分
試合は7回裏まで進んでいた。後攻の昭栄高校は6対0で勝っている。あと1点取ればコールドゲーム(5回以降10点差、7回以降7点差がつけば試合終了となる)になるのだ。
その7回裏の昭栄高校の攻撃。2死1塁の場面で打順は1年生ながら5番を打つ亮に回って来た。この試合では亮はまだ無安打だ。次の試合を考えるとこの試合はコールドゲームにして投手の負担を軽くしたい。
カウントは2ストライク1ボール。相手の左投手は自分自身の決め球(三振や確実にアウトを取るための自信がある球種)であるスライダーを投げて来た。亮は右脚を思い切り踏み込んで力強いスイングをした。ボールをバットの芯で完璧に捕らえた。ボールは大きな弧を描いて、ライトスタンドに入った。その瞬間昭栄高校側の一塁側ベンチ、そして一塁側スタンドが沸いた。
亮は淡々とベースを回る。怪物ルーキーが現れた瞬間だった……
その頃啓介は、いつも通りに走っていた。自分もいつか公式戦のマウンドに立つために走る。そのためにも今よりも更にコントロールを磨かねばならない。右打者の内角。それを克服出来なければその夢は叶わないだろう。
啓介が黙々と走り込んでいると、
「五十嵐くーん! 」
と青葉が寮からタオルと水筒を持ってこちらに来た。
「ああ、森山さん! わざわざありがとう! 」
啓介は青葉からタオルと水筒を受け取り、すぐに水筒のお茶を飲んだ。タオルで顔の汗を拭くと、柔軟剤の甘い香りがした。
「どういたしまして! 先輩達、8対0でコールド勝ちしたらしいよ! やっぱり凄いよね! このまま……」
「僕もその中に入らなきゃダメなんだ! エースを取るって誓ったんだから! こうしちゃいられない! まだまだ走らないと! 」
啓介はそう言って走り出した。
「五十嵐君、無理しないでね! お昼ご飯作って待ってるから! 」
青葉が大声でそう言うと、啓介は走りながら手を振った。
「もう……本当可愛いよね、五十嵐君……」
と青葉は思わずにやけてしまった。
ベンチ入りメンバーは試合終了後、第2試合目に行われる
東雲実業 対 洛陽学園の試合を偵察していた。この試合に勝った方が昭栄高校と次の試合でシード権を懸けて戦うことになる。
東雲実業は昨年の全国高校野球選手権大会の都大会でベスト4の強豪校だ。毎年甲子園には行けないものの、常に上位に居続けている。対する洛陽学園は5年前に創立した新設校。今年3年生の進藤恭弥のワンマンチームである。進藤恭弥は高校通算58本塁打のスラッガー(長打力のある選手のこと)であり、プロ野球のスカウトも注目する選手である。しかし、確かに進藤は凄い選手だが他に目立った選手はいなかった。昨年は3回戦で敗れている。
球場には東雲実業のファンである観客が大勢集まっていた。甲子園を狙えるチームにはファンが多くいるのだ。
この試合は東雲実業が勝つだろう。誰もがそう思っていた。亮の他にいる、もう一人の怪物ルーキーを見るまでは……
試験が近いので勉強と更新を両立しなければなりません!
なので更新が遅れてしまうかも知れませんが、お待ち頂ければと思います!
すみません(^_^;)