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真夏のストレート  作者: 樟 秀人
第1章 入学編
7/10

6話[春の都大会編 Ⅰ ]

 4月8日


 啓介達を含めた入学式が行われた。本来野球部員が入るスポーツクラス(強豪私立高校には大体特待生用の部活動重視のクラスが設けられている)は入学式に出席しないが啓介だけは一般組のため、普通科クラスとして入学式に出席しなくてはならなかった。


 普通科クラスはA組からF組まで、スポーツクラスはG組に振り分けられていた。啓介はA組だった。入学式には同じ一般組の先輩である篠田も在学生として出席していた。


 入学式が終わり、1年A組の教室に入った。昭栄高校は男女共に人数の割合がほとんど変わらない。


自分の机を見つけて座り、担任の先生の話を茫然ぼうぜんと聞いていた。早く練習に行きたくてうずうずしているとようやく先生が話を終えた様だ。同時に生徒も下校となる。


啓介は学校から500m程離れたグラウンドに向かって走りだそうとしたその時、

「ちょ、ちょっと待って! 」

 と1人の女子生徒に呼び止められた。

「君は……?」

「私、森山青葉! 野球部の人だよね? 私はマネージャーになりたいんだけどグラウンドが分からなくて……連れて行ってくれない? 」


 青葉は啓介よりも背が高く、髪をショートヘアにしている。

一重瞼ひとえまぶただが鼻が高く、何よりも顔がとても小さい。美人系とでも言うべきか。


「うんいいよ! これから僕もグラウンドに行くから一緒に行こう! 」

 啓介は青葉の手を引いてグラウンドへと走り出した。青葉がこの時啓介に少しときめいたことを啓介は知る由もなかった……



「つ、辻本先輩! 」

「んー? 五十嵐君どしたん? 」

 グラウンドに着き啓介は真っ先に青葉を沙良の下へ連れて行った。

「新マネージャーやんか! 名前何て言うん? 」

「森山青葉です! よろしくお願いします! 」

 沙良は嬉しそうに青葉の手を握り、青葉は真面目そうに元気良く自己紹介をした。


「じゃあ僕はこれで」

 啓介はその場を沙良に任せ、部室で着替えてからBグラウンドに入った。


練習は既に実戦練習に入っていた。

二軍を仕切る阪本に挨拶をし、いつも通りのランメニュー(野球部では走り込みのトレーニングをランメニューやランと呼ぶ)を始めた。1kgの小さなダンベルを両手に持ちながら走る。これは昨日から始めた自分なりのトレーニングだ。


投手ピッチャーはただ下半身を鍛えれば良い訳では無い。肩や肩甲骨の筋肉も必要だ。啓介はそういう自論を出した。


全ては一軍に上がるため、真鍋に勝つため、そしてエースになるためだ。その一心で啓介はひたすら走り続けた。



4月16日午後8時


 寮の食堂で明日から行われる春の都大会のベンチ入りメンバー20人が選ばれた。国枝が番号順に名前を告げる。勿論その中に啓介の名前は無い。選ばれた選手一人ひとりに正方形の布に書かれた背番号を沙良から受け取って行く。颯人は20番、亮においては正捕手の背番号である2番を貰っていた。その背番号が亮の手に渡った時、先輩達の殺気を一瞬に感じた。


実力主義の昭栄高校にとっては仕方のないことだが、その光景が先輩達の闘志に火を付けたのだろう。

「選ばれた20名はあくまでこの都大会中のメンバーだ。関東大会や夏の予選はまた一から選考する。……選ばれなかった72名、まだまだ勝負はこれからだ。ここで腐らずに精進して欲しい。……選ばれた20名、お前らは今回多くの部員の中から自分達で勝ち取った背番号だ。だがそれに恥じないプレーをしろ。いいな? 」

『はい!! 』

 背番号を貰った20人が同時に返事をした。それと同時にその20人は選ばれた自覚をした。

「それと城戸、五十嵐、お前らはここに残れ。他の者は解散」

 何故か啓介も残る様に言われた。


 また以前の様に怒られてしまうのだろうか?


 そう思うと少し怖かった。

 食堂から城戸と啓介以外の選手、マネージャーが出て行くと国枝は城戸と話し始めた。啓介はその間椅子に座って待っていた。2人の談話は丁度聞こえない。


 5分程で国枝と城戸の談話は終わった。城戸は国枝に挨拶をして食堂から出た。入れ替わる様にして阪本が入って来た。

国枝の隣に腰掛ける。

「五十嵐、来い」

 啓介は国枝の前に置かれたパイプ椅子に座った。膝の上に拳を乗せ国枝の目を見つける。緊張で拳に思わず力が入ってしまう。


「最近走り込みの仕方が変わって来たな。ダンベルを持つのはお前が自分で考えてやっているのか? 」


 意外な質問をされた。


「下半身だけを鍛えても良い球を投げられないと思い、自分で考えてやっています! 」

「お前はボールを投げたがっているのに何故自主練習の時間も走っている? 投げたいはずじゃないのか? 」

「勿論ボールを投げたいとは常に思ってます! ……ですが、今ボールをいくら投げ込んでも真鍋さんには敵いません。僕は真鍋さんを打ち取って、一軍に入って、エースになる。それが目標です」

 啓介は真っ直ぐな目で国枝に言った。何も誤魔化さず自分の心中を語った。


すると国枝の隣に座っている阪本が口を開いた。

投手ピッチャーは筋肉を付ければ良いわけでは無い。足首、股関節、肩甲骨、肩、肘、そして手首。それら全てが柔らかくしなやかでなければならない。お前はそれが間違っている。……正直お前の練習に対する意識は周りの選手にも良い影響を与えている。だがお前はそのために走っているわけじゃ無いんだろ? なら今はちゃんと身体を作れ。今から自主練習で走り込んだ後風呂に入って、それから辻本にストレッチのやり方を聞け。あいつはトレーナーの知識を持っている」

 怒られるどころかむしろアドバイスを貰った。確かに啓介は漠然と走り込んでいた。

投手ピッチャーは負けず嫌いな性格の方が良い。お前は今の自分を貫け」

「はい! 」

 やっと指導して貰えたことが何よりも嬉しかった。


 啓介は国枝と阪本に挨拶をして食堂から出た。一度自分の部屋に戻ろうとした。しかしその時、

「おーい五十嵐! 」

 と背後から声を掛けられた。

 振り向くとそこには亮がこちらに来ていた。

「どうしたの亮君? 」

「今から自主練習するだろ? 俺捕球キャッチング練習したいからお前に投げてもらおうと思ってさ! ダメか? 」


 既に亮はグラウンドへと向かう準備をしていた。ジャージに着替え、キャッチャーミットも持って来ている。

「……いいよ! ここ最近投げて無いし、走り込みの成果も感じたいしね! 」


 急いで部屋に戻って着替えを済ませる。グラブだけを持って啓介は亮とグラウンドへと向かって行った……

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