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真夏のストレート  作者: 樟 秀人
第1章 入学編
6/10

5話[入学編Ⅴ]

たくさんの感想ありがとうございます!

またレビューも頂き、本当に皆様のご声援あって書くことが出来ております!


思ったことやアドバイスなど、遠慮無しにどんどん送って来てください!

今後も応援よろしくお願いします(^◇^)

「ほーい! おおー! 五十嵐君やんかぁ! 」

 沙良は女子寮の扉を開けると啓介を見て驚いていた。名前を覚えられていて少しホッとした。

「どうしたん? 」

「い、いや、あの……その……」

 思わず緊張してしまう。沙良の笑顔を見る度、啓介は固まってしまうのだ。沙良は啓介の様子をうかがう様に顔を覗いている。

「きゃ、キャプテンが辻本先輩を呼んで来いと……」

「おおー! そう言えば夕食の時間だったわぁ! ……五十嵐君、おおきに! 」

 沙良は早足に食堂へと行ってしまった。

「はぁー……何で僕ってこんなにダメなんだろう」

 誰もいない女子寮の前で啓介は呟いた。



 それから2日後


 先輩達は全員着任式に出席しており、グラウンドには新入生である啓介達だけが立っていた。

「今日の午前中はお前ら1年生だけの練習となる。とりあえず大野、お前が指揮を執れ」

「はい!! 」

 大野と呼ばれた男が前に出た。身長は168cmと小柄でパッチリとした二重瞼、小さい顔だったが、唯一鼻が低い部分だけ残念だった。

「いつも通りのアップを済ませてから、1年生だけでのシートバッティング(状況を決めて攻守をする実践練習)を行う。当然ピッチャーも投げさせる。俺にアピールする少ないチャンスだ。俺の判断で春の都大会のベンチ入りも考えている。全力で掴みに来い」

『はい!!』

「じゃあアップ行くぞー!!」

 大野の掛け声で1年生だけでの練習が始まった。



 大野颯人。中学時代に硬式野球リーグである千葉県のボーイズリーグのチームに所属しており、そのチームで全国大会に2年連続でベスト8という輝かしい成績を収めていた。50m走を5.8秒で走る走力、瞬発力を活かした守備力が魅力の特待生だ。西野から聞いたが、大野は3月の時点で他校との練習試合に出場していたらしい。4月中旬から行われる春の都大会でベンチ入りする有力候補だと言っていた。5分程走っていると、

「お前、真鍋さんに勝ったんだってな」

 と長身の男が後ろから啓介に声を掛けた。



 この男は岡島亮。髪が長く、一重瞼だが鼻や口はまるで女性の様だ。中学時代は無名の軟式野球部に所属していた。亮は自分以外の選手のレベルの低さに苦しんでいた。中学3年生の最後の大会の地区予選で4試合連続で本塁打ホームランを放ち、昭栄高校のスカウトマンである阪本の目に留まったのだ。


「結果的には勝ったよ! だけど内容は完敗だった」

「俺も真鍋さんと対決したかったぜ! 」

 亮は悔しそうにしている。やはり真鍋は誰もが認める天才だ。

「真鍋さんはプロ注目の選手だ。その人を倒すのはワクワクしねーか? 」

 真鍋の話をすると亮は興奮している。

「僕も真鍋さんを倒す! だから岡島君、僕とバッテリー(投手と捕手の組み合わせ)を組んでくれないかな? 」

「亮でいいぜ! ただ、俺は構わないが……一軍の捕手キャッチャーは一軍の投手ピッチャーにしか組まないことになってるからそれは無理だ」

 確かにそうだ。一軍の選手が二軍の選手の相手をしている暇は無いのだ。そうこうしている内にランニングが終わり、各自にストレッチの時間が設けられた。

「早く上がって来いよ。……一軍で待ってるぜ」

 亮は右翼ライトのフェンスの近くでストレッチを始めた。するとそこへ西野が寄って来た。

「五十嵐君凄いね! 岡島君とあんなに普通に話せるなんて! 」

「そうなの? 普通に優しい人だったよ? 」

 周りに合わせて啓介達もストレッチを始めた。

「岡島君は1年生には恐れられていて、先輩達には生意気だって目をつけられているんだ。ただでさえレギュラーを取るかも知れないって噂されていて先輩達も必死なのに態度が大きいと目に着くんだろうね」


 果たして本当にそうだろうか?


 甚だ疑問であった。悪い人という雰囲気には見えなかったのだが、先輩達は自分の一軍の座を奪われることに怖がっているだけではないだろうか……



 ウォーミングアップやキャッチボールを完全に済ませると、すぐにフリーバッティング(3〜4箇所の打席を設けて、投手やバッティングマシンが投じた球を外野に向かって打つ実践練習)に入った。3箇所の内2箇所は1年生の投手陣が投げることになっているが、ここでも啓介は投げさせてもらえない様だ。しかし啓介は不貞腐ふてくされることなく昨日と同じライトポールからレフトポールまでのダッシュを始めた。


 いつかこの努力が実を結ぶ時が来る……


 そう信じて啓介は諦めなかった。すると、

「おーい五十嵐! バッティングピッチャー(打撃投手)やってくれないかー? 」

 とバッティングの準備をしている亮に頼まれた。またと無いチャンス。それに監督の目の前で投げることが出来る。啓介はグローブとスパイクを急いで身につけ、バッティングピッチャー(打撃投手)の場所へ立った。近くには打球が飛んで来ても危険がない様にネットが多く立てられていた。一番左の打席に亮は待ち構えていた。啓介はその正面の先18.44mに立った。これはマウンドの中心にある投手板からホームベースまでの公式な距離だ。

「いつでも来い」

 そういう目をして亮は左打席で構えている。長身を際立たせる様に亮はバットのグリップ(バットを握るため細くなっている部分)を頭の高さまで上げて構えた。本来フリーバッティングは1日に数十球も打てる。しかし2人は1球に対して全力だった。普通は打者の練習になるが、実力主義の昭栄高校でそんな甘い考えの人間はいない。自分以外は全員ライバル。打たせる気など毛頭にない。啓介と亮も例外ではなかった。啓介は亮を打ち取るため、亮は啓介からヒットを打つため本気で闘い合う。


 亮を打ち取って僕も一軍に入ってやる!


 真鍋さんを打ち取った様だが、だからこそ俺はこいつから打つ!


 互いのプライドがぶつかり合う。どちらも一歩も譲る気はない。バックネット裏では静かに国枝が啓介達の対決を見ていた。啓介は亮の構えをじっと見ている。啓介の投球術の一つで、相手の打者の構えや力の入っている部位を見抜いて弱点を衝く。しかし亮には曖昧な情報しか見抜けなかった。5球連続で外野にボールを弾き飛ばされ、亮は後ろで待っている他の選手に交代してしまった。


 くそっ!くそぉっ!!


 その日のピッチング(投球)内容は悲惨で、その後も亮だけでなく他の1年生にも次々と打たれてしまい啓介は落胆してしまった……

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